経済的ロットサイズを考える (2007/08/21)

以前書いたように、購買手配には、見込み購買と確定購買の二種類がある(『確定購買』「生産計画とスケジューリングの用語集」参照)。確定購買の場合、生産に必要な(需要に紐づけられた)所要数量分をちょうど手配する。しかし見込み購買では、近いうちに必要になりそうな分を見込んで買うわけだから、いくつ手配すべきかの悩みが、つねについてまわる。

見込み購買の対象品は、繰り返し消費される「見込み」がたつ部品材料であって、その需要量の平均値は最近の消費実績からおよそ分かる。たとえば手配してから納入されるまでの調達リードタイムが20日だとしたら、20日分の需要量より多くを手配するのが普通だろう。あるいは、生産計画の対象期間が2ヶ月で、そのうち1ヶ月がほぼ確定期間だとすれば、1ヶ月分以上の需要量を手配するのが常識だろう(もっとも、確定期間など無視して営業から注文が飛び込んでくるのがこの国の「常識」かもしれないが、そのことはさておく)。

発注数量の最低線はそれで決まるとして、では、実際にそれよりどれだけ余裕を見て発注すべきだろうか。ここで登場するのが、「経済的ロットサイズ」(EOQ=Economic Order Quantity)の公式である。これを最初に定式化した人の名をとって、『Wilsonの公式』とも呼ばれる。在庫理論の基本中の基本ともいえる考え方だ。

この経済的ロットサイズ理論では、こう考える:まず、あまりたくさん注文すると、在庫量を多く抱えることになってしまう。一方、あまり小刻みに少量多頻度注文すると、平均在庫は減るかもしれないが、今度は毎回の発注のたびに発生する手間が増えてしまう。そこで、在庫量と発注の手間を、それぞれ金額で評価する。つまり、在庫費用と発注費用に換算する。その上で、「在庫費用+発注費用」を発注数量の関数と見なして、それを最小化する発注数量を求めるのである。

いま、単位期間あたりの平均需要量をu、1回あたりの発注費用をc、部品1個あたりの在庫費用をk としよう。発注数量をx とおくと、単位期間あたりの発注回数はu/x だから、発注費用はcu/x だ。また平均在庫量はx/2 だ(在庫量はxと0との間を定期的に往復する)から、在庫費用はkx/2 となる。つまり、cu/x+kx/2 を最小化するxを求めればよい。その答えは次のようになる(式の導出は高校レベルだから省略する):

では、この経済的ロットサイズにしたがって、製造業では発注購買しているだろうか? あいにく、たいていの場合、答えはノーだ。

その理由は、ふたつ考えられる。まず、生産管理部門がこの公式を知らないケース。Wilsonの公式は在庫理論の基本中の基本だと書いたが、そもそも大学の工学部や経済学部の中で、在庫理論を教えているケースが少ない。知らないものは、使えまい。

しかし、仮に経済的ロットサイズ理論を知っていても、使えてない企業も多い。なぜなら、上記の式の中に出てくる定数が分からないからだ。たとえば、在庫費用。買ってきた材料は、工場の資材倉庫の中においておく。自社の建物だから、別に倉庫代は要らない。在庫金利も、この低金利のご時世ではほとんど無視できる・・そう考える人が多いのだ。

発注費用となると、もっと曖昧模糊としている。1回発注をかけたって、せいぜい注文書のプリントアウトの紙代と、FAXの電話代くらいしかかからないような気がする。そりゃ、購買部門の手間もかかるかもしれないが、所詮、人件費は固定費なのだ・・。

むろん、そんなことはない。まず、社有地の自社建物だって、タダではない。無駄に資材を置けば、その分のスペースを有効活用できる可能性が減るのだ。つまり機会損失である。さらに、在庫品が陳腐化して価値ゼロとなるリスクもつねにつきまとう。これが在庫金利の本当の意味である。私の経験からこれら項目を評価すると、おおざっぱにいって、在庫品1kgあたり、毎月1-3円程度はかかるものだ。

発注費用も、自社の発注事務の手数だけを考えるから、ゼロみたいに思えるのだ。1回の注文にたいして、サプライヤー側の受注事務もかかる。製造記録の手間もかかる。さらに、物流搬送の費用がかかる。そして、自社の在庫管理部門の受け入れ・検品・伝票発行・仕分け・入庫の手間がさらにかかるのだ。こうしたことを考えると、1回あたりの発注コストは、(たとえそれが小さなボルト数本でも)数千円程度かかっていると想像される。

そこで、ためしに試算をしてみよう。いま、ある部品が月に平均50Kgずつ使用されるとする(u=50 Kg/月)。k=3(円/月・Kg)、c=3000(円/回)と想定しようか。すると、EOQ=316 Kg、となる。つまり、ほぼ半年分である。需要がもう少し大きくて、u=100 Kg/月だったら、EOQ=447 Kg(約4.5ヶ月分)になる。u=1 ton/月だったら、どうなるか? 自分で計算してみていただきたい。

これを「意外と多い」と思うか、「意外に少ない」と感じるかは、ケース・バイ・ケースだろう。ただ、毎月生産計画をたて、毎週のようにそれを修正し、毎日割込みや欠品で現場とやりとりしている多くの生産計画担当者にとっては、随分と多いと感じられるかもしれない。発注量が多いということは、発注回数が少ないということ、すなわち「もっと手間をかけないでもすむ」ことを示している。

と同時に、uckといった係数は、すべて定期的に見直して評価すべき項目であることも、忘れてはなるまい。そして、こうしたチェックをすることこそが、真の生産管理の仕事なのである。