(13) シラクサ再興の内緒の計画

シラクサの旧市街は、丸い内湾の入口に防波堤のようにつき出た島の上に立っている。湾に面した広場からの眺めは水平線を180度見渡せて素晴らしい。あいにく春霞にけむる日だったが、少なくともこれでもっときれいに晴れていたらさぞかし感動するだろう、と想像力を働かせてみる余地はあった。広場の段下に「アレトゥサの泉」とよばれる清水の湧く泉があり、歩道を通じて横に小さな公園がある。泉に生えていた水草は、パピルスだったのかもしれない。ここシラクサはエジプトと同様パピルスが生えるので有名だ。木陰のベンチに座って少し休む。

その夜はアルキメデ広場の近くで食べることにした。旧市街は夜になると俄然ヨーロッパの都市の渋い美しさを見せ始める。ぼくらは落ち着いた構えの店を選んで入り、メニューを見ようとしたが、中年のインテリ風の女性がやってきて、信念に満ちた伝道者の顔つきで「今夜の料理はパスタがこれこれ、セコンドがこれこれ、コントルニがこれこれ・・」と一方的に説明を始める。ぼくらはその直前で入ったバールで懲りていたので(バールの女主人と客が「日本人?まあ珍しい」から始まって、第2次大戦の話題まで英仏日伊語まぜこぜのわけのわからない議論に陥り、シラクサ人というのは実は変人奇人の寄り集まりじゃないかとひそかに疑い始めていたのだ^^;)、うるさい注文はつけずにおすすめの中からえらぶことにした。しかしこの「ラ・フォリャ」という店、料理は質量ともに立派だったと思う。野菜のスープも美味、タリアテッレはおそらく生麺をつかっており、牛肉のコスタータなど肉料理もおいしく、地元の葡萄酒で気持ちよく酔ったぼくらは腹ごなしに新市街まで歩いてかえることにした。

旧市街は建物と建物の間を擦り抜けるような折れ曲がった道が多い。もともと狭い島の上に折り重なって立っているのだから当然だが、三方を海に囲まれた古い建物の群はちょっとヴェネツィアを思わせる。すこしだけビザンチン風の東方くささを感じさせる点も似ていなくはない。ただ残念なことに、ここの旧市街は少しはずれの方に行くと住む人のいない建物が多く、さびれた感じがつきまとうことだ。

ぼくらは狭い小道を歩きながら、ひそかに「シラクサ復興プロジェクト」を発案した。これだけの観光資源を腐らすのは惜しい。旧市街にもガスや水道などインフラを充実させ、住む人や店を増やして賑わいを持たせる。そして企画を全部電通に売りつけるのだ。当然彼らは、「今、光はシチリアに」とか「パピルスのそよ風」とかお得意のプロモーションをあらゆるメディアにふり撒いて観光客集めにせいを出すだろうからお金の心配もない。うむ、この事業をプロデュースすれば大儲け、老後はイタリアで左団扇の生活とプランの中ではトントン拍子に事が運んだ。あとは電通のえらい人がこの文章を読んでハタと膝を打ってくれさえすれば、すべては解決なのだが(^^)。