(5) ラ・ロシェルと、レ島の休日 La Rochelle
et Ile de Re

フランス地方都市 点描(5)

レ島のズボンをはいたロバ

8月15日は、カトリック教会における「聖母被昇天の祝日」(Assumption)だ。フランスでは国民の祝日になっている。7月14日の革命記念日の前後から夏のバカンス・シーズンがはじまるが、この聖母被昇天の祝日あたりがその最後の盛りになるらしい。

祝日の数だけを比べると日本より少ないフランスだが、この国にはポンと呼ばれる便利な習慣がある。ポンpontは「橋」という意味で、文字通り、飛び石連休に橋を架けてしまって、地続きの連休にするのである。祝日が火曜日にあったら、月曜日も休みにしてしまう。私の働いていた会社はもっと強引で、祝日が水曜日であっても、間の2日を休みにしてしまっていた。

そんなわけで、期せずして5連休を手に入れた私は、日本から来た家族と一緒に、ささやかな夏のバカンスをいただくことにした。だから今回は家族旅行アルバム編である。

バカンスの行き先は、大西洋に面した街、ラ・ロシェルだ。ボルドーよりもやや北にあり、六角形の地図の左辺中央あたりに位置する。そこに、家内の知人が別荘を持っており、彼らと一緒の時期に、同じ街で過ごそうということになったのだ。

ま、とはいえこちらは別荘など無いので、バカンス用低予算ホテルに家族3人で泊まることにした。フランスにはこの種の安価なホテルもたくさんあって、バカンスには出たいけれどもお金は使いたくないフランス人一般大衆の友となっている。日本円にして一人1泊2,500円以内だった。それでも一応、朝食付きである(無論、パンとコーヒーだけのコンチネンタル・ブレークファストだが)。

ラ・ロシェルの海の砦

ラ・ロシェルはパリからTGVで5時間近くかかる、比較的のどかな地方の街だ。フランスの大西洋岸一体は、中世までは英国の領地だった。そして、100年戦争以降、少しずつ英国王家から独立(?)してフランス王家に帰属していった。この街にも、そういう歴史が少しだけ残っている。

ラ・ロシェルは一種の港町で、大西洋に面した湾があり、それを囲むように突堤を築いて、守りの砦が立てられている。湾内のボートに乗ると、その城塞を海側からながめることができる。無論、突堤から歩いてのぼっても、見晴らしが良くて美しい。

ラ・ロシェルには結構大きな水族館があって、展示内容も充実している。建物も新しくて気持ちがよい。半日家族で楽しんだ後、運河沿いにひろがる通りで食事の店を選ぶのもいいだろう。

しかし、古い港町ラ・ロシェル自体は、見物するだけなら1日あればこと足りてしまう。ビーチや磯場もあるが、やや波も砂も粗い。ここが、それなりに一応バカンスの地として名をなしているのは、すぐ沖合にある「レ島」というリゾートと、そのビーチのおかげである。

レ島で自転車に乗る

レ島の中心はサン・マルタンという街だ。そこを足がかりに、自転車をかりて島の中を回るのもよし、ビーチに出てひたすら青い大西洋に感嘆するのもよし。街の市場は新鮮な魚介類を扱う店でにぎわっていて、その魚の種類の多さと大きさに見とれてもいい。

それにしても、フランス語の地名というのは、時としてひどく扱いづらい。“この夏、どこに遊びに行ったの?” “あ、『レ』という島です。”--では、なんだか訳が分からぬ。だからといって、『イル・ド・レ』島です、と答えたからと言って情報量が増すというわけではない。なにしろ、単音節で単語を作るのが得意なのだ、この言語は。

さて、そのレ島で名物の一つが、「ズボンをはいたロバ」である。この島で産出するワインのラベルの絵にもなっている。島の公園に行くとロバたちが大人しく並んでいて、ほんのわずかなお金を払うと、子どもを背中に乗せてもらえる。

ズボンをはいたロバたち

ロバというのは、近寄ってみるとつくづく可愛い生き物だと思う。そしてまた、賢いのだ。ちゃんと自分がお客さんを乗せて一周するべき道を覚えていて、勝手に迷子になったりしない。終わると、もといた自分の場所に戻って、おとなしくつながれる。場所があれば、家でも一匹飼ってみたくなる(もちろん無理だが)。

小学生の息子をロバに乗せて、レ島の小さな公園を散歩したときが、この夏一番楽しい思い出になった。柔らかな夏の光と、丘の古い城壁。そして、その向こうには、大西洋が青く、ひたすら静かに広がっていた。

Atlantic Ocean