書評:「外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント」 山口周・著






外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント」(新装版) 山口周 (Amazon)




良書である。少なくとも、わたしは大いに楽しんで読んだ。著者は最近ビジネス書では超売れっ子の作家である。本書は【新装版】として2023年に再発刊されているが、元は2016年の本で、この当時はまだ外資系コンサルティング会社であるコーンフェリー・ヘイグループ勤務だったから、こういうタイトルなのだろう。

著者とは2年ほど前に、勤務先の仕事でちょっとだけお顔を合わせた事がある。その時のお話で一番印象に残っているのは、「組織をどう最適化しようかなどと考えるのはムダです。会社の組織はすでに最適化されているからです。」という一言だった。すでに最適化されている? そう。「ただし、それはhidden agenda(暗黙の目標)に対する最適化で、会社が公式に唱えている方向性に対してではありません」。

たとえば経営者がSDGsだ社会貢献だ、などと何を唱えようと、会社が暗黙の内に、「短期利益の最大化」だけを目指しているなら、どの部署もその方向性に向かって構造化されていく。こういう発言を聞いていると、この方がいかに「見えないもの」見抜こうとしているかが分かる。

ところで本書は、わたしのような人間(大規模・複雑な受注型プロジェクトのマネジメントに関わってきた者)から見ると、驚天動地のテーゼの連続である。たとえば著者は、良い人材を集めてチームが組めれば、それだけでプロジェクトの成功確率は高まるとして、こう書く。「 プロジェクトに必要な人材の質と量に対して、ちょうど100%になるようなチーム体制では必ず破綻します。なぜなら、危機対応できないからです」(p.24)。

まったくその通りだ! ここには確かに、プロジェクトの現場をくぐり抜けてきた者にしか言えぬ実感の裏付けがある。しかし。 世の中の大抵のプロマネは、100%どころか、80%しか配員されない状況の中で、悪戦苦闘しているのではないか。

また著者は、プロジェクトを炎上させたことが1度もないと書いた上で、その理由を「端的に言うと、筆者は確実に成功が見込めるプロジェクトだけをやってきた」からだと言う(p.12)。勝てるプロジェクトを見極めて、そこに自分の身を置く。 これが、プロジェクトリーダーとして成功するポイントだと。

自分が携わるプロジェクトを自分で選べるなら、そんな楽な事は無いと、受注型ビジネスの多くの人間は思うだろう。案件も、チームの配員も、そして納期や予算も全部、上から決められて、その中で闘うしかないのが、エンジ業界やSIerをはじめ、日本企業のふつうの姿だ。スター・コンサルタントとして、自分で案件を提案しチームを組成できる外資系コンサルとは世界が違うよ、と思う読者も少なくあるまい。

だが、山口周氏の言いたい本当のポイントは、そこではないのだ。プロジェクトの成否は、始まる前に半分以上が決まっている。つまりプロジェクトの目的や座組み、フレームワークやロジックの骨格などが、実は成否を決する重要なファクターで、そこを制するかどうかが分かれ目なのだと。いや、まさにその通りだ。

とくに彼が大切にするのは「プロジェクトの目的」である。「世の中には、実際には目的になっていないにもかかわらず、目的としてかけられている手法が、あまりにも多い」(p.19)。 これを読む読者は、例えばDXとか、生成AIの活用とか、最新人事制度の導入といった例を思い浮かべるかもしれない。

適切な目的設定には2つの役割がある。1つは動機付けで、「人間は意義を感じない。仕事には情熱を持って取り組めません」(p.39)。 また、それはメンバーの判断基準としても役に立つ。すべての決断をプロマネがすることはできない。適切な権限以上がチーム組織の肝だが、そのためにはプロジェクトにとって何が重要であるかを共有することが大切だ。

そして言う。「プロジェクトが成功すれば、それはリーダーの評価になり、失敗すれば、やはりリーダーの評価になる」と強調する(p.26)。だから良いリーダーと認められて、さらに良い仕事のチャンスを得たければ、そこを妥協すべきではないと。

本書はまたリーダー論でもある。著者は執筆当時、外資系のヘイグループに所属している。英米コンサル企業はリーダーシップ論を熱心に調査・分析するので、その知見も披露されている。例えば、統計的にはっきりと出ているのは「慕われるだけのリーダー」でも「恐れられるだけのリーダー」でもダメで、両者を高次元でバランスさせているリーダーこそ、良いリーダーだ(p.173)とある。

しかし、現代の日本では、なかなかリーダーが育ちにくい。「リーダーシップというのはスキルやケイパビリティといった自己完結的な能力と異なって、周囲や環境との作用によっていわば文脈依存的に発生するものです。(中略)リーダーシップはフォロワーシップと表裏一体になって、同時に生成されるものなのです」(p.185)。 これは非常に鋭い洞察に思われる。日本では周囲のフォロワーシップが乏しく、リーダーの登場を認めたがらない。「だから、日本のリーダーは、ほとんどが権力と紐もづく形で登場する」(p.186)。

だとするなら日本においては、権限なきリーダーシップの確立が課題だ。 歴史を見ればわかるように、世の中を大きく変革した人たちは、必ずしも権力者ではなかった。会社も同じで、変革の機動力はむしろミドルにあり、経営者はそれを是認しバックアップするだけ、と言う例もよく見る。もっと言うと、「権力があるのにリーダーシップが足りない」人びとが多いことこそ、現代日本社会の問題なのではないか?

著書は最後に、ビジネスマンのスキルを、「その会社で評価されるスキル」「その業界で評価されるスキル」そして「どの業種でも、評価されるスキル」の3種類に分け、プロジェクトマネジメントこそ、第3の、最も重要なスキルだと主張する。これも全く賛成である。

ちなみに本書で紹介されているのは、目的設定やチーム組成、ステークホルダとのコミュニケーションなど、PMのソフト面が中心である。WBSやCPMといった計数管理のハードな面(つまり、拙著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』などに書いた方法論の多く)は省かれている。無論、それはそれで構わないと思う。計数管理はコストや納期の制約条件の厳しい大規模プロジェクトにこそ、必要な手法だ。

と同時に、本書で扱ういくつかの重要トピックは、実は英米のPM論の外側にある。なぜなら、プロジェクトに目的を与えるのも、PMをアサインするのも、重要なステークホルダとのチャネルを設定するのも、英米では上位のスポンサーないしプログラム・マネージャーの仕事だからだ。それを日本では、なぜかプロマネがやらなければならない。なぜなら、上位権限者のリーダーシップが弱いからである。つまり本書の3分の1くらいは、実はプログラム・マネジメントの本なのである。

そう考えると、今のわたし達の社会で本当に必要とされることが見えてくる。足りないのは、一つは権限なきリーダー(若手ミドル層)のための、組織変革・組織開発の取り組み方である。もう一つは、プロジェクトの組成から完了までをすっぽり取り囲む、プログラム・マネジメントの考え方である。どちらも、日本社会ではあまり知られていない。だから、そうした領域をカバーできる本を作るのが、わたしの使命かもしれないと感じている。山口周氏の本は、非常に有用だ。プロジェクトに関わる者は、ぜひ読んだ方が良い。だが外資系コンサルが教えるのではなく、ふつうの日本企業の中の人が経験する、変革プロジェクトの話も必要なはずなのである。