情報処理産業としての製造業(およびアペルザTV出演のお知らせ)


最初に、お知らせです。

ものづくり産業向けポータルサイト Apérza(アペルザ)の提供するビデオプログラム【アペルザTV】に出演しました。アビームコンサルティング(株)の阿部洋平さん、(株)フロンティア・ワンの鍋野敬一郎さんと、小職の3人による鼎談形式で、製造実行システムMESについて語り尽くす内容です。

【特別対談】工場のAI活用・スマート化をもっと早く実現させる“MES術” | Apérza TV(アペルザTV、アペルザテレビ) | ものづくり産業向け動画サイト









阿部さん・鍋野さんは、わたしが以前から幹事を務めている(財)エンジニアリング協会「次世代スマート工場のエンジニアリング」研究会の中核メンバーで、とくに阿部さんは3年ほど前から活動をはじめた、研究会内の「MES導入促進ストラテジック・プロジェクト」のプロマネでもあります。このプロジェクトでは、すでにこのサイトでもご案内したとおり、『MES/MOM導入のための標準業務一覧』 を昨年10月に策定・公開し、その活動は昨年度の「ものづくり白書」でも紹介されました。

アペルザTVの特別対談の中で、わたし自身はMES/MOMシステムそのものよりも、なぜ今、日本の製造業にMES/MOMが必要なのか、その位置づけについて主に説明しています。それは、現在の製造業が直面していながら、ほとんど意識されていない、ある重大な課題があるからです。その課題とは、「製造業の情報処理産業化」です。

製造業の情報処理産業化とは、どういう意味か。それは簡単に言うと、「ものづくりの主要なインプットが、原料・部品から『需要情報』に変わった」という事実です。製造業とは、製品を産出することによって付加価値を稼ぐ業態であり、モノを作るからには原材料部品が必要なことに変わりはありません。それなのに、主要なインプットが原料から情報に変わったとはどういう事なのか。

アペルザTVの対談ビデオでは、工場を「生産のためのシステム」ととらえ直し、システム工学の論理で説明しています。でも、ここでは少し違った観点からも、この問題を説明したいと思います。

この6月の初めに、わたし達の研究会は「スマート工場 構想企画人材 育成セミナー」(第6回)を、日本の製造業のメッカの一つである東海地方・愛知県で開催しました。2日間のセミナーで、初日はオフィスでの座学とディスカッション、そして2日目は工場見学と質疑、という構成です。今年は見学先として、工作機械メーカーの雄であるオークマ(株)さんにご協力いただき、本社工場『Dream Site』 を一緒に見ることができました。このDream Siteは、日本のスマート工場のトップランナーの一つだと、我々は考えています。

わたしは機械エンジニアではないため、工作機械それ自体について知っていることは、ごく限られています。しかし、工作機械が極めて多数の部品から成り立つ、精密な機械であること、また顧客の仕様に応じて、数多くのバリエーションが存在する(また個別設計がしばしば必要である)製品であることくらいは、理解しています。

「多品種少量」という言葉には厳密な定義がある訳ではなく、ムードで使われがちです。ただ、オークマ(株)さんの場合、本社工場の月産台数が約600台とされる中で、月産5台以上が「量産品」と分類されるとのこと。量産基準が、わずか5台ですよ。いかに通常品が少量か分かると思います。そして量産品の部品は、週末の土日に、ほとんど無人化した工場内で、自動加工される運用になっています。それ以外の部品は、小ロットなので、人の多い週日に加工されます。

ところで、ここで注目してほしい事は、無人とか自動加工とかではなく、顧客からの個別仕様要求という「需要情報」が、工作機械の生産をドライブしている点です。オークマさんのような業態では、「部品・材料があるからとりあえず製品を作っておこう」などという判断はあり得ません。どの品種をいつ作るか、きちんと判断して現場に指示しなければなりません。つまり需要情報を指示情報に変換・処理する、きちんとした仕組み=「情報処理機能」が必要なのです。

そして、それは多品種少量の製造業に共通した課題でもあります。戦後の物不足から高度成長期までの昭和時代は、「作れば売れる」時代でした。大量生産が製造業の使命で、量産によってコスト低減も可能となりました。足りないのは部品・材料で、だからその確保が主要課題だった訳です。しかし工業化社会が成熟すると、他社との競争が激しくなります。結果として、差別化戦略に従い、製品の品種数が増えていきます。増えれば、需要の予測も難しくなる。だから、需要情報が大事になってくる。つまり製造業は半分、情報処理産業化する。これが、歴史的必然です。

にもかかわらず、社内を動かす仕組みもルールもKPIも量産時代のままで、個別性の高い受注生産を実行しようとしている。これが、日本の製造業に共通してみられる問題点だと認識しています。

ところで、話をちょっと工作機械に戻します。工作機械メーカーとしてのオークマさんの特徴を、皆さんはご存じですか? 組立加工系の業界の人でないと知らないでしょうが、じつは「制御系も自社で開発製造している」のが、同社のユニークな点です。言いかえると、「ソフトもハードも自前で一緒に作っている」ことです。

他の多くの機械メーカーは、制御系を外部の専門メーカー(FANACなど)から購入して自社の機械に組み込んでいます。その方が開発コストを抑えられる上に、多くのユーザーが使い慣れているとのメリットがあるからです。これはこれで、まあ合理的な経営判断ではあるでしょう。しかし、制御系(ソフト)を外だしすることで、失われる技術的側面(加工精度など)もあるため、同社は自前主義にこだわっているようです。

そして、この思想は、工場づくりにも当てはまります。『Dream Site』工場のハードウェア、すなわち工作機械やロボットや物流搬送設備、建屋空調類は、同社が自前で設計し仕様を切って、作っています。でも、それだけではありません。製造実行システムMESも、「工場コントローラー」と呼ぶ統合的な制御システムも、自前の開発です。「ソフトもハードも自前」という思想が、工場づくりにおいても実行されている訳です。ちなみにDream Siteプロジェクトをリードされた前副社長(現・特別顧問)の領木正人さんが、制御エンジニア出身である点も、なんとなくオークマさんの社風を象徴しているように感じました。

ハードには強いが、ソフトに弱い」のが、多くの日本企業の傾向なのではないかと、わたしは思っています。’90年代、日本はコンピュータ産業のリーダーと目されていましたが、それはPCやサーバのハードウェアづくりの点であって、決してソフト面ではありませんでした。日本発の世界標準ソフトは滅多にありません。コンピュータ業界ですら、その状態です。物体としての実在があるハードについては、ひどく細かい点までこだわり抜く日本企業が、目に見えぬソフトには、急に無頓着になる。そういう例を多く見てきました。

現代日本の産業に共通する弱点は、ソフト面の弱さ、情報処理機能の感度の鈍さにあります。工場を動かすソフト面もしかり。工作機械をはじめとする、様々な工業製品のソフト面も、しかり。それは、煎じ詰めれば「情報の軽視」という文化・風土が生み出しているのかもしれません。

製造業が半分、情報処理産業化して来ている、という事実に最初に気がついたのは、もしかしたらドイツだったのかもしれません。2013年にドイツが国家戦略として「インダストリー4.0」を言い出したことが、いわゆるスマート製造のブームのきっかけでした。彼らが目指したことは、すなわち製造業の情報処理機能の拡充だったのではないか。ところが日本社会はそのメッセージを、「無人工場」だとか「ソサエティ5.0」といったレベルで受け取ってしまったように思えます。

アペルザTVでは、製造業の情報処理機能が具体的にはどこにあるのか、そのボトルネックはどこに存在するのか、といった話もしています。MESは重要なキーですが、MESだけでスマート製造が実現する訳ではありません。まずは生産を「システム」として捉えること。そして、「システムはソフトとハードを一緒に設計すべきである」という視点から、この問題をぜひ多くの方に考えていただきたいと思っています。