アクティビティの問題を解決する二つの方法

アクティビティの問題を解決する二つの方法 (2011/05/13)

マネジメントとは「人に仕事をしてもらう」ことであり、その仕事の最小単位を『アクティビティ』と呼ぶ、ということはすでに何度か書いた。アクティビティを規定する要素としては、アウトプット、インプット、リソース、完了条件(納期)、そして指示情報と報告情報がある(「仕事の最小単位--アクティビティの構造を学ぶ」参照)。また仕事をちゃんと動かすために、コスト(Cost)、時間(Time)、リソース量(Resources)の3種類を、基本的なパフォーマンス指標として用いるべきことも説明した(「仕事の最小単位(2)--アクティビティのパフォーマンスを測る」)。

さて、仕事をマネジメントするためには、もう一つ必須の事柄がある。それが問題解決である。どんなお仕事にも、問題の発生する可能性はつねに存在する。アクティビティで問題が発生した時、頼まれた側がすべて自分で即刻解決できればベストだ。だが、そうも行かない場合も多い。問題発生時に、それを解決することは依頼者(指示者)にとって欠くことのできない能力である。これは逆を考えてみれば分かる。自分が仕事上で何か困った事態におちいった時、相談に行っても何も決めてくれず何も助けてくれないような上司がいたら、その人は「管理者として無能」だと言いたくなるだろう。

ところで、仕事上の問題解決には二種類の方法があることをご存じだろうか? それが、「技術的解決法」と「マネジメント的解決法」である。この区分は、会社ではあまり教えてくれない--というか、多くの企業では、アプローチに二種類あることを自覚していないのである。

技術的解決とは何だろうか。それは、問題事象に対して、ツール(道具)やメソッド(技法)を用いて対応することである。設計上の不具合ならば修正する。問題の原因が不適切なツールや技法から生じた場合は、それを変更あるいは改良する。たとえ外生的な問題、たとえば材料の急な値上がりの場合でも、廉価な材料への変更や加工方法でのカバー等で影響を押さえ込むのが、技術的解決である。

ではマネジメント的解決とは何か? それは上述したコスト・時間・リソース量の調整、ならびに情報(コミュニケーション)の整理によって、問題事象がアクティビティのゴールや目標に影響を与えないよう押さえ込むことを指す。この説明ではちょっと抽象的だろうから、具体例を挙げて説明しよう。

アクティビティの担当者が困った顔をしてプロマネに報告に来た。ある装置を組み立てて客先現場に据え付けるアクティビティである。サプライヤーが納品してきた装置用主要部品の材質が指定と違っているのだという。客先の指定は金属材料だったが、実際に納品されたものは樹脂製だったことに今の段階で気づいた。その部分の再製作をサプライヤーに問い合わせたところ、素材の購入から手配しなければならないので2ヶ月かかるという。

この装置自体は、プロジェクトが納める全体システムのコアではなく周辺部分に過ぎないが、現場に設置してデータを集めることによって、コア部分の設計情報に利用することになっていた。だから、このアクティビティが遅れると、プロジェクト全体の納期遅れが生じてしまう。どうしたらいいか、という相談だった。

プロマネは、発注条件がどうなっていたかを担当者に質問した。調べてみたところ、さらに困ったことが判明した。担当者の作成した発注仕様書でも全般に金属製を指定していたのに、サプライヤーから提出された承認図には『樹脂製』と明記されているのだ。図面をレビューした時に、それを見落としたまま承認してしまったらしい。これではサプライヤー側だけのミスとは言えなくなる。再製作を指示したら追加費用も要求してくるにちがいない。

さて、あなたがマネージャーだったら、どう考えるだろうか?

この時まずプロマネがとった行動は、後続するコア部分の設計アクティビティに、追加で人を増員すると宣言したことだった。これにより、設計期間が2週間程度は短縮できる見込だった。無論、金属部品再製作に必要な2ヶ月には足りないが、担当者が少し落ち着いて考える時間は得られた。プロマネは、客先が金属製を指定した意図は何かを、担当者にたずねた。答えは、強度と耐摩耗性でしょう、というのが担当者の意見だった。

翌日、担当者はプロマネのところに解決案を持ってやってきた。強度について文献を調べてみたところ、実際の運転温度では当該樹脂は金属に負けないことが分かった。そこで樹脂部品を表面加工することで、耐摩耗性を上げる。これで客先を説得できないか、と。

プロマネの答えはこうだった。サプライヤーには、金属での再製作を指示しろ。2ヶ月かかってもいい。金額については、自分が交渉しよう。同時に、樹脂加工の案を顧客に説明しに行く。当面、樹脂製で受け取ってもらう。そして2ヶ月後に金属部品ができて来たら、あらためてそれに取り替えさせてもらう。むろん客先には無償でだ。これなら、最終的には要求通り金属製が手に入るのだから、なんとか納得してくれるだろう。

さて、担当者がプロマネに連れられて客先にいき、樹脂製の強度と耐摩耗性の話を説明したところ、相手に「わかった。じゃ、それで納めていい。」と言われて、問題はあっさり解決してしまった。金属部品の再発注の必要もなくなった(プロマネは、この追加費用はサプライヤーと折半に持ち込む交渉をするつもりだった)。

このストーリーを見ると、最終的には「樹脂の表面加工」という技術的解決で、問題は解消したかのように見えるかもしれない。しかし、それ以前に、
・後続アクティビティに要員(リソース)を追加配置する
・そのことによって2週間という余裕時間を作る(これは問題解決のために充てられた)
・サプライヤーの追加発注に費用を準備する
・顧客へのコミュニケーション/説得に筋道をつける
といった、マネジメント的解決を積み上げて、問題の外堀を全部埋めていったことに注目してほしい。

問題の種類や大きさによっては、マネジメント的解決だけで切り抜けられることもある。材料値上げ問題を、契約交渉で解決するなどは、その例である。

ついでながら、プロマネは原因となる事実関係は明らかにさせたが、責任については一言も追求しなかった。責任追及ゲームを始めてしまうと、コミュニケーションや感情がこじれて、問題解決までかえって時間がかかってしまう。いずれにせよ、ミスはいつでも生じうるのだ。そのリスクへの対応のために、時間や予算に予備(コンティンジェンシー・リザーブ)をとっておくことは、非常に大事なマネジメント的解決態度である。

問題に直面した時に、技術的解決を志向するか、マネジメント的解決を探求するか、いずれのアプローチもあり得るし、両者を複合的に使えれば一番良い。だが、技術者という種族は、(なまじ自分の技術に自信があるために)つい技術的解決のみを頭に思い描きがちである。むしろ専門的知識のない人の方が、マネジメント的解決を思いつく。そして、マネジメント的解決というのは、専門分野の如何に関わらず、案外汎用的に使える知恵だということは覚えておいていいだろう。

「技術的バックグラウンドの強い人ほど、どんな問題も技術的に解決しようとしてしまう」とG・ワインバーグは指摘している。技術的に解決できない問題をマネジメントが解決できる場合もあるのである。そのことを、技術畑の出身者は、もっと理解しておくべきではないだろうか。

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