モダンPMへの誘い 〜 中間まとめと、ガントチャートのアップデーティング
この「モダンPMへの誘い」シリーズについて
今回は久々の、「モダンPMへの誘い」である。前回の記事から、少し更新の間隔があいてしまった。シリーズを始めたのは2024年の1月だから、最初の記事から2年半以上も経ったことになる。そこで現時点で少し、まとめをしておこうと思う。
元々、このシリーズは、プロジェクトの状況を把握するために発すべき「3つの質問」から始まった。それは、次のようなものである:
(1)プロジェクトの『スコープ』はどうなっているのか。WBSを見せろ。
(2)プロジェクトの『クリティカル・パス』は何か? Activity networkの上で示せ。 主要なリスクは何か?
(3)現在までのPV, AC, そしてEVはいくらか。完成時のCost EACを計算せよ!
皆さんが経営者で、もし自社のプロジェクトが問題に陥っているなら、プロマネを呼び出して聞くべき質問は、この3つである。 少なくとも、私が長年勤めてきたエンジニアリング企業の経営者なら、言葉遣いは多少違うとしても、この3つを聞くだろう。しかし世間の多くの企業では、経営者もプロマネも、これら質問に出てくるモダンPMの用語・概念をそもそも知らないことが多い。最低限これらを理解しなければ、 ある程度以上の規模のプロジェクトを回すのは、危ない。
モダンPMは、プロジェクトの計量的な計画立案とコントロールのための技術である。 1950年代半ばに米国で生まれ、60年代のアポロ計画、70年代以後の航空宇宙産業や建設エンジニアリング産業で普及発展してきた歴史を持つ。「計量的な」との言葉をわざわざ入れたのは、わが国伝統の「気合と根性」論や、通常の教科書に出てくる「マネジメント/リーダーシップ」論だけでは、カバーできない面がプロジェクトにあるからである。会社はお金を軸に動いているから、最低でもコストを計量的に把握・予見できなければ、マネジメントしていることにはならない。
シリーズの中間的まとめ
そもそもプロジェクトには、スコープ・スケジュール・コストという、大きな3つのKPI(ないし制約条件)がある。これがモダンPMの出発点、原点となる問題意識だった。プロジェクトのスコープ(仕事の責任範囲と仕事量)、完了期限(納期)、そして予算の上限。 これらは多くの場合プロジェクトの最初から決まっている。そして3者は互いに関係しあっており、他に影響与えずに1つのKPIだけ変えることはできない。
そこで、3つそれぞれの要素を押さえるための技術・手法が生み出されてきた。スコープを把握し構造化するためのWBS(Work Breakdown Structure)、 スケジュールの全体工期を把握するためのクリティカル・パス法、そして ポストの出費傾向を把握するためのEVMS(Earned Value Management System)である。
計画を立案する際のステップでは、これら3要素は、スコープ→スケジュール→コスト、の順に決めていく。仕事量と範囲がわからなければ、各作業の期間も推定できず、期間がわからなければ、コストも見積もれないからである。
ただし、このシリーズ記事では、これを結果から逆順に追ってきた。というのも、プロジェクトの問題はたいてい、「赤字問題」で火を噴いて大騒ぎになるのだが、その経緯を探ると「スケジュール遅延」がほぼ必ず付随していて、さらに原因を探ると「スコープの増大や乱れ」が根底にあることが多いからだ。
EV(Earned Value、出来高)とは「その日までに完了したアクティビティの予算額の合計」という、一種人工的な指標である。これを軸に、実績出費(AC = Actrual Cost)および計画出費(PV = Planned Value)との差異を分析していく手法がEVMSだ。
また、プロジェクトの全体工期を決める『クリティカル・パス』とは、Activityで構成したネットワークの開始点から完了点までを結ぶ、最長の経路を指す。これを軸に、プロジェクトが納期を守れるかどうかを考えていく。これが、PERT/CPM法と呼ばれるプロジェクト・スケジューリング手法だ。
計画能力と遂行能力
EVMS手法もPERT/CPM法も、理屈としては明解で見事であり、わかりやすい。 しかし勉強してわかったつもりになっても、現実に使うためには、それが適用可能となる前提条件や、留意点(手法の限界)について、理解しなければならない。 例えば、プロジェクトを構成する最小単位であるアクティビティとは、どのような構造のものか。リソースとの関係はどうなっているのか。アクティビティの期間の終わりは、どうやって判断するのか。これらを知らずに使おうとしても妙に挫折して、「こんなの使えねえや」という感想に終わってしまう。
もう一つ、忘れてはならないことがある。それは計画立案と、現実の遂行における問題解決とが、車の両輪の関係にあることだ。わたしの経験では、米国企業はどうやら、計画立案偏重のきらいがある。詳細で立派な計画を作る。方針や能書きも見事である。しかし現実がうまく進まなくなると、ひたすら物量を動員して力づくで解決しようとし、かえって問題をこじらせたりする。
他方、多くの日本企業では、「現場力重視」の傾向が強く、計画立案が甘くなりがちである。現場での問題解決は上手だが、全体的な戦略が卓越しているとは、到底言えない。 残念ながらどちらも偏っている。計画能力と遂行能力は、言うまでもなく、バランスが大切だ。
例えばプロジェクトの進捗が、もともと予定していたスケジュールから、ずれていたとする。遅れているなら、挽回のための方策を取らなければならない。だがそもそも、どれくらい遅れているのか、いつから遅れ始めたのか、その影響はどこまで及ぶのか。 そうしたことの把握が必要だ。
工程表(ガントチャート)のアップデーティング
たいていのプロジェクトでは、マスタースケジュールをガントチャート形式の工程表で作っている。ガントチャートは誰にもわかりやすい。ただしプロジェクト工程表を、初期の計画段階に1回作成しただけで、それ以降はずっと手を加えないまま、虚しく壁に貼り出してるケースなども時折見かける。
ガントチャートは生き物である。プロジェクトの進行とともに、現実をガントチャートに書き加えて、生きたものにしなければもったいない。これを工程表のアップデーティングと呼ぶ。
工程表のアップデーティングの表現方法には、イナズマ線と二重線の、2種類のやり方がある。図を見てほしい。これらについては随分前に解説の記事を書いたので、ここで詳しくは繰り返さないが、どちらも長所短所がある。イナズマ線は、この線を定期的に書き込んでいくことにより、プロジェクト全体の経緯や傾向が一目で分かる利点がある。一方、二重線は、下流側のアクティビティがいつ開始できそうか、現在のリソースはいつリリースできそうかが分かりやすいが、予測線は毎回、引き直す必要がある。
どちらを選ぶかは、そのプロジェクトをどのようにマネージしたいかによって決まる。ただ(当たり前だが)大事なのは、基準となるベースライン計画(最初のマスタスケジュール)が、ちゃんと作成されていることである。そうでなければ、そもそも計画との差異を把握する意味がなくなる。同時に、現実を素早く・正確に把握しなければ、まともな問題解決はできなくなる。だから、計画と遂行は車の両輪なのである。


<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い 〜 この質問の意味が分かりますか?」 (2024-01-14)
「イナズマ線と二重線 — 工程表のアップデーティングとは何か」 (2012-02-19)