「ITって、何?」 第15問 システムの値打ちは何で決まるの?(1/2)
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「ねえ、でも、今までのあなたの説明はみんなシステム作りの値段がいくらかかるか、みたいな話だったわ。私が聞きたいのは、そうじゃなくてシステムの価値なのよ。」
--え? 質問の意味がわからない。値段がその価値じゃないか。
「値段と価値は違うわよ! 値段て結局は売り手のコスト勘定でしょう? 私がいってるのは買い手にとっての価値、つまりシステムの値打ちなの。百万円のドレスだって、自分に似合わなかったら一文の価値もない、ってことがあるじゃない。そこよ。」
--買ってみたけれど、やっぱり気に入らないから使わない、あるいは自分のニーズにぴったり合っていないから使わない、というケースはたしかにITの世界にもあるね。しかし、使う使わないは、ユーザの自由だからな。
「それはあなたが作り手の側にいるから言える、勝手な理屈だわ。情報の値段の時も同じような話をした気がするけれど、体に合わないような服を、オーダーメードで作っといてお金を取るなんておかしいでしょう? 買う側にだって、自分なりにコストと、ITでえられる効果とを比べるための価値観があるはずだわ。
--ユーザにしっかりした価値観があればどんなにぼくらの仕事も楽かと、いつも思うけれどね。問題はITで得られる効果をどう評価するかだ。
「ITでみんなの仕事が楽になるんじゃないの?」
--必ずしもそうとは言えない。今まで慣れ親しんできた仕事のやり方を捨てて、機械の要求する四角四面なやり方に仕事を合わせなければならない。融通も効きにくくなる。
「じゃあ、仕事が早くなるとか。」
--それはある。それに、正確になる。
「人も減るんじゃない?」
--さあそこだ、一番の問題は! コンピューターを入れると人件費が減るだろうという経営者の思いこみが、あまりにも広く行き渡っている。ITは合理化の道具だ、という思い込みがね。
「違うの?」
--違うね。もし合理化が単なる人減らしの同義語であるならば。むろん、合理化という言葉が、仕事を本当に合理的なものにするという意味だったとしたら賛成してもいい。
「仕事を合理的なものにするってどういう意味よ。」
--仕事をルールとロジックにのっとったものにするよう再整理することだ。あいまいで属人的なものではなく、客観的で再現性のあるものにすること。仕事のやり方を言葉できちんと記述できるかどうかがポイントかもしれない。ロジックであらわすことができれば、それはITツールにのせて加速できる。
属人的なスキルってのは加速できないだろ? それに、仕事の中に、必ずスキルに依存する部分は残るものだ。ただ、その中からいかにスキル以外の部分をそぎ落として、人間に人間様でなければできない仕事に集中させるかが、IT投資のカギだと思う。
「ふうん。」
--これまでITを、省力化のための投資というふうに、狭くとらえすぎてきたところに弊害があった。でも、ITへの投資は、たとえば“新しい工場を建てる”と同格の設備投資だと認識した方がいい。これまでやってきた仕事で人が何人減るかということではなく、これまでできなかった仕事ができるようになる、新しい仕事ができるようになる、そうとらえるべきだろう。
「そうなの?」
--じっさい人間がやったら一日かかるような計算を数秒で終わらせるとか、電話帳並みに分厚い台帳の中から、目当ての記録を一瞬のうちに取り出してくるとか、ジャンボジェット機の姿勢を精密に制御するとか、こうしたことはみんな、従来できなかった新しい仕事だ。省力化の効果なんか計算できやしない。そうだろ?
「そんなに素晴らしいものなら、なぜ使われないシステムなんかができるの。」
--うーみゅ。答えにくい質問だなあ。
ひとつの答えは、機能とデータとユーザのアンバランスにあると思う。この三要素がバランスよく組み合わさることが、いいシステムの条件なんだ。
でも、ソフトウエアを作って売る側は、こんなこともできます、あんな機能もありますというふうに、多機能であることを売りたがる。買う側もそれにつられて、あれもしたい・これもしたいと考える。
でもね。複雑で細かい機能は、それを使うユーザにも、きめ細かな運用の仕方を要求する。さらにその機能を動かすために必要なデータの量や質も向上させなければいけない。これは口で言うほど簡単なことではないさ。
「うまく逃げたわね。」
--たとえばねえ、原価管理を製品ごとに厳密にできるシステムを作ったとする。製造原価だけじゃなく、設計や販売の人件費まで一日単位できちんととらえる、と。そのためには、設計や営業の部員が一人一人日報をつけて、今日はどの製品開発に何時間ずつ働いたかをタイムシートかなにかに記録しなくちゃならない。でも、そんなことを外回りの営業マンがいちいち会社に戻って入力すると思うかい?
「・・たしかにまあ、しないかもしれなさそうね」
--ITの世界には『ガーベッジ・イン、ガーベッジ・アウト』という言葉がある。クズのデータを入力すればクズの結果が返ってくる、という意味だ。
システムに余計な機能を追加しすぎるとユーザの負担が増える。とうぜん不正確なデータが入り込みがちになる。すると誰もそんなレポートを信用できなくなる。そのあげく、そんなシステム全体を使いたくないという雰囲気が強くなるものさ。
「でもね、たとえば設計するときに、仕事のロジックをつかまえ損ねてしまったから使われなくなっちゃった、ということはないの?」
--残念ながら、それもしばしばあることだ。どこの組織にもタテマエとホンネはあるけれど、その乖離がひどいと、建前のロジックをプログラムに組み込んだけれと、誰もほんとにはそれに従わなかった、なんていうことになる。
「馬鹿野郎、仕事ってのは理屈通りになんかいかないんだ! なあんて、訳の分からないオジサンがどうせ出てきて、妙に威張るんでしょ?」
--仕事にあいまいな部分を残しておけば、自分の裁量で運用できる部分が増える。だからあえて明文化したくない、という面はあるよね。
ここのところは、最初の要件定義をする人(これをシステム・アナリストというんだけれど)の腕前にかなりかかってくる。腕がいいと、建前のロジックと、実際に積み上がっているデータとの間に矛盾を見つけて、どこかおかしいということに気がつく。あるいは現場のインタビューで本音のロジックを聞き出してくる。
こういうことは、人間の実際の業務がどう流れているかについて、十分な洞察力のある人でなければできないことだけれどね。
「だとしたら、買い手にとっての値打ちを決める物差しは何もないのかしら」
--答えになっているかどうかわからないけれど、例えば同じ業界で他のところがどの程度ITに投資しているかを、売上高に対する比率なんかで計って比べてみるのもひとつの手かもしれない。こういう同業者間の比較のことをベンチマーキングというんだけれど、米国対日本で製造業を比較してみると結構違いがある。
最近では、米国のIT投資は年商の10%くらいがベストといわれている。これはちょっとオーバーだとぼくは思うんだけれど、話半分としても3%から5%くらいは行っているみたいだ。これに対して、日本の製造業では多くて2%、年商の1%以下のところも多い。
「ITのエンゲル係数みたい。」
--なるほど、そうだね。この数字の差は、二つの国がITに対してとらえている値うちの差だと思っていいだろう。
(この項つづく)
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合理化できる部分と出来ない部分があるとすれば、裁量権は確かに重要ですね。政治でいえば「骨抜き」という作業ですが、本質がわかっているだけに、どうすれば骨抜きに出来て、「非合理化=裁量権」を維持できるかどうかに必死になる。
「うまく逃げたわね」
とはまさにその通りで、日本人の場合、みんなが不幸になる事には十分耐えられるが、一部の人が幸せになるのは許せない美意識がある。
IT投資の合理化における非効率性は、やはり日本人気質がいかんなく発揮されている面もあるように思います。