お知らせ:5/14(水)に大阪府工業協会で、生産管理のアドバンストコース(1日セミナー)を行います

生産管理の世界には「タクト・タイム」という言葉があります。生産ラインが何分周期で動いているかを示す用語です。例えば自動車の最終組立ラインは、普通の乗用車なら1分のタクトタイムで動いています。すなわち1分間で1台のペースで製品を生み出しているわけです。

1万点の部品からなる、あれだけ大きな製品を、1分に1台ずつ生産するのは大変な仕事です。そして販売価格を考えれば、1分間止まれば数百万円、10分間止まれば数千万円のロスになります。自動車業界の人たちが、一瞬たりともラインを止めないことに命がけになるのも当然でしょう。

自動車、そして家電製品の業界は、こうしたタクトタイムの概念で動いてきました。この2つの業界は、日本の高度成長を牽引し、製造業の考え方に大きな影響を与えています。ちなみにこの2業界は、薄利多売の論理で動いています。薄利だから量産する必要がある。量産することで安いコストを実現し、薄利でも売ることができる。

ところが同じ組立加工でも、一歩その2業界から外に踏み出すと、ずいぶん違った光景に出会います。量産的でない製品、多品種少量の組立加工工場では、タクト・タイムは存在しません。工場の中をじっと見ていても、時間あたり何台位のペースで製品ができていくのかよくわかりません。

そういう工場では、しばしば、よく似た問題に突き当たります。コンピュータの中にある生産計画と、製造現場の作業が、合っていないのです。これは特に中堅以上の企業に多いようです。零細な工場ではそもそも、生産計画をコンピュータで作ったりしません。社長が現場を見渡して、何をどう作るべきか、頭の中と指示が合っているからです。

ところが、それなりの工程数と規模をもつ複雑な工場では、現場を一目で見渡して、すべてを判断し、動かせる人間などいません。そうした企業でよく見かける光景は、生産管理システムの計画と現実とのギャップを埋めるために、誰かがExcelで生産スケジュール表を作り、毎朝現場のチームに配ったりする姿です。

元々、タクト・タイムの『タクト』とは、指揮者の振る指揮棒のことです。日本の多くの工場は、指揮者のいないオーケストラに似ています。オーケストラに弦楽器や管楽器、打楽器といった専門職種があるように、工場には機械加工、溶接、熱処理、組み立てなどの専門工程があります。各工程は皆、それなりに優秀です。立派な機械設備を持っていることも多い。だが、全体として協調して動けず、不協和音があちこちから響いてくるのです。

その結果として生まれる事象は何でしょうか。まず、誰も、個別の製品の納期を正確に答えることができません。計画があてにならないので、部品や材料も調達もうまく生産とマッチできず、あっちでは欠品が生じているのに、こっちでは当面使う予定のない資材で溢れています。

そこで、何が必要なのかを工場に尋ねると、たいていは「立派な製造機械を新設したい」との答えが返ってきます。工場の人は機械が好きなのですね。でもそれは、ちょうどオーケストラに解決策をたずねて、立派な楽器が欲しい、と答えるのに似ていませんか。本当の問題の原因はそんなところにはないのに。

どうしてこうなるかと言うと、答えは簡単で、全体を見る有能な指揮者がいないからです。多品種少量では、決まったリズムのタクト・タイムはありません。しかし各セクションへのタイミングの指示は、要ります。いや、むしろ、決まったタクト・タイムが無いからこそ、指揮者が必要なのです。

もちろん生産管理と呼ばれる仕事は、一応あります。ところが生産管理の仕事は、少なからぬ企業で、工場のブルーカラー業務の延長と見られているようです。また生産管理は文系の仕事だ、と考えているところも多いのです。「管理」は文系の仕事だから、と言うわけです。文系理系の差をとやかく言うつもりはありませんが、数式や計算を敬遠し、ルールや人柄や気合いを重んじる「管理」だけで、複雑な工場という仕組み(システム)のタクトが振れるでしょうか?

オーケストラの指揮は、棒さえ振れれば、誰にでもできるように見えます。しかし、指揮は立派な専門職です。音楽大学の指揮科で専門の勉強をし、プロの先輩について修練を通じて、次第に指揮者になっていくのです。同じように、米国には生産マネジメントを専門的に教える大学・学科があり、資格制度と相まって、大勢のプロを生み出しています。それに必要な理論や知識も、専門の学者が研究し蓄積しています。

生産マネジメントには、基礎となる理屈・理論の体系があり、蓄積された技術やノウハウがあります。その事をこれまで毎年、大阪府工業協会の1日セミナーで話してきました。ただし時間の制約もあって、エントリーコース的な内容に限っていました。今回、幸いにも一種のアドバンストコースを作る構想があり、お声がけいただいて、全4回のコースの冒頭を受け持つことになりました。

ちなみに、「世界標準のビジネスプラクティス」を名乗るERPパッケージをはじめ、生産管理用のITシステムは世の中に多数あります。しかし製造DXの一環として、立派なツールを導入しても、上手に使いこなすためには、いわば「魂を入れる」ことが必要なのを、ご存じでしょうか? 生産マネジメントでは、何を重視し何を目指すかが、大事です。それはいわば、会社の価値観ないし戦略です。立派な自動車を買っても、どこを目指してどんな運転をするかで、大きな違いが生まれます。それは売り手のベンダーには、決められぬこと。決めるのは、皆さんなのです。

大勢の方のご参加をお待ちしております。
<記>

日時: 2025年5月14日(水) 9:45~16:45

テーマ: 生産管理 実務力強化 レベルアップコース「1 生産計画の実践

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会

会場: 大阪府工業協会 研修室

セミナー詳細・申込み: 下記Webサイトをご参照ください


佐藤知一




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