マネジメントと管理はどこが違うか

ゴールドラットの小説「ザ・ゴール」といえば、全世界で300万部を売ったベストセラーで、TOC(制約理論)のバイブルのような本である。「ラブストーリーの形をした生産管理の教科書」という、この奇妙な本は、日本でも2001年に翻訳が出て以来、ロングセラーを続けている。

ところで、このストーリーの中に、工場のコントローラーという人が出てくる。これは日本ではあまり見かけぬ、なじみのない職種だ。翻訳すれば「工場管理者」になってしまうが、和訳本ではどうなっているのだろうか。ちなみに、主人公のアレックスはPlant Managerであり、これも直訳すれば「工場管理者」だが、実際には「工場長」である。

つまり、米国の企業では一つの工場に二種類の管理者がいることになる。ということは、二種類の別々の管理の仕組みが存在する--そういうことだろうか?

もちろん違う。小説を読めば分かるが、工場長は一応コントローラーの上役と位置付けられている。ただし両者は明らかに別の職能であって、工場長と副工場長のように同じ職能の中での上下関係をしめしているのではない。マネジメントとコントロールは、あきらかに違う概念なのだ。

似たような例は、プロジェクトの世界にもある。わたしの属しているエンジニアリング業界はプロジェクト中心の業態だ。ここにも、「プロジェクト・マネージャー」の下に別職能としての「プロジェクト・コントロール」が所属する。これも、両者を「プロジェクト管理」と訳してしまうと、わけがわからなくなる。

なぜ英語にはこんな区別が存在するのか。なぜその違いに日本人は鈍感なのか? これを理解するためには、日本語で「管理」という言葉に対応する英単語が、
– Management
– Control
– Administration
の3種類あることを知る必要がある。

英語でI can manage.というと、「わたしが管理する。」ではなく、「何とかやり遂げるよ。」というニュアンスになる。それはうまく行く保証のない、けっこう大変なことなのだ。Manageすべき対象には予期しがたい部分があって、どこかに、暴れ馬を乗りこなすようなイメージがある。あるいは、航海に出る船長のような。

それに比べて、I can control.はもっと精密さを感じる。日本語で「制御」とか「統率」にちかい。なすべきことは計画で決まっていて、それをきちんと達成する。現実の状態を把握して、計画と実際に差があったらそれを正して行く、そんな感じだ。

ではmanageよりcontrolの方が管理水準が上なのかというと、そんなことはない。ふつうcontrolの対象は通常manageよりも小さく、御せる範囲にある。たとえていうと、controlは船の航海士の仕事にあたる。船長が決めた方針通りに、海図にひかれた航路をとっていく。

両者の大きな違いは、manageには最初に大きな「計画」をたてたり、組織や仕組みを作る「組織化」の仕事が含まれているのに、controlにはそれがないことだ(狭い近未来の範囲では多少重なるが)。また、不測の事態に対してリスク・テークしたり、あらかじめ手を打ったりすることも少ない。大方針を決めて、リスクの責任を取るのはmanageする船長の側なのだ。

もう少しエンジニアに分かりやすいたとえでいうならば、「Controlは フィードバック制御、Manageはフィード・フォワード制御」ということになろうか。先読みができなければマネジメントとは言わない。

このような観点から、自分の身の回りで「管理」と呼ばれている仕事を見直してみるといい。先読みし、リスクをとっているかどうか。それとも単なる記録と状況報告が主な役割となっていないかどうか。前者はマネジメントの名に値するが後者はコントロールにすぎない。生産管理・コスト管理・労務管理・在庫管理・・・検討すべき対象には事欠かないはずだ。

情報技術の分野でいえば、「○○マネジメント・システム」とか、 「××管理レポート」などが再検討の対象だ。入力されたデータを、単に記録し適度に集計してプリントアウトするだけの仕組みだったら、それは「○○状況レポーティング・プログラム」と呼ぶのがふさわしい。
正しい名前を与えることが、正しい事実認識の第一歩なのだから。



マネジメントと管理はどこが違うか” に対して4件のコメントがあります。

  1. なるほど・・・ より:

    administration「営率(?)」
    manage「管掌」
    controle「統御」
    という訳を与えたほうが良さそうですね。

  2. コボル より:

    たいへんわかりやすい解説をありがとうございます。
    ところで、Administrationはどのようなニュアンスがあるのでしょうか。
    手元の英和辞典には、訳語の一つとして、「支配」があります。
    なるほど、こうなるとこれはもう、管理も管理、絶対的な管理、最も統制を強制するようなイメージがあります。
    Administrationの身近な使用例というと、パソコンを起動するとき、そのパソコンの全ての機能を使用するためにはAdministratorの権限でログインする必要があります。この例からも、絶対的な支配、絶対的な管理、のイメージが湧きます。

  3. Tomoichi_Sato より:

    Administrationを辞書で引くと、「政権」だとか「経営陣」「支配」などの訳語が並んでものものしいのですが、元の動詞Administerは「行政する」という意味が中心です。つまり、お役所のように「管理する」。これは決して、人に目標を示してリードしていくタイプの仕事ではないですね。どちらかというと公僕というか、維持サービスに近い。会社で言えば「総務部門」「管理部門」の仕事です。組織と環境を維持するのがadministrationの意味だとわたしは考えています。

  4. Tomoichi_Sato より:

    ただし、ハーバード大学が経営学修士コースに"Master of Businesss Administration (MBA)"という語をつけて以来(この語には当時、批判もあったようですが)、business administrationの語義はやや格が上がった傾向があります。でも、単なるadministrationは、やはり雑用係のイメージが強いと思います。

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