ファントムBOM

ファントムBOM

Phantom

「BOM/部品表入門」第6章Q5



生産計画とスケジューリングのためにMRPAPSに登録するBOMは、ストラクチャー型が原則である。ストラクチャー型BOMは、最終製品(End
Item)から、その構成部品、さらにその構成部品、と上流にたどって、購買原材料まで順に展開して表現したものである。中間部品・中間製品をすべて登録したもの、と言いかえてもよい。



それでは、原材料から加工段階を通って最終製品までの製造過程上に現れる、中間的形態のマテリアル(品目)全てをストラクチャー型BOMに登録するかというと、そんなことはしない。BOMマスタにマテリアルを1種類登録すれば、それだけデータの保守・更新の手間と費用が増える。したがって、BOMへの登録品種数は、できれば少ない方がよい、と実務家は思っている。



BOMマスタにマテリアルを登録するかどうかの基準は、そのマテリアルが在庫管理の対象となっているかどうかで決まる。その中間製品が在庫管理の対象ならば、それはBOMに登録すべきである。逆にいえば、加工されてできあがる端から、次工程に消費されて、なくなっていく中間部品は、BOMに登録する必要はない。たとえば、ベルトコンベヤで何段階も工程が並んでいるとき、ふつうはBOMにはコンベヤに供給される末端の品目だけを登録し、途中段階で少しずつできあがっていく中間製品は登録しない。在庫として管理する対象ではないからだ。



ところが、こうした在庫対象ではないはずの中間製品を、あえて、BOMマスタに登録することがある。これを『ファントム』あるいは仮想部品、などと呼ぶ。ファントムをBOMに登録すると、いったい何の役に立つのだろうか?



典型的な例は、ふだんは次工程にすぐに使用されて無くなってしまうけれども、まれに何かの事情(機械トラブルや組み付け相手の品質不良など)で、前工程の完了後に現場保管されることがある品目を、ファントム扱いにするケースである。後に同じ製品の製造指示が出たときには、現場保管の在庫分を先に引き当て処理して使っていく。こうした中間製品は、ファントムとしてBOMに登録しておくとよい。



MRP/APSのBOMマスタ上では、ファントムは製造リードタイムをゼロに設定し、ロット・フォア・ロットで作るように設定する。



すると、MRP/APSで計画を立てる場合、ファントムの在庫がゼロの場合は、処理を飛ばしてすぐ下の部品階層に行く(そしてふつうファントムは在庫ゼロである)。しかし現場在庫が残ってしまった場合は、それを引き当ててから、下の部品の正味所要量を計算するように動くはずだ。



また、返品の発生しがちな業界(たとえば再販制度のある出版業界など)では、顧客からの返品の再利用にもファントムは役に立つ。通常、返品された製品は、いったんばらして不要な外装などを捨て、中核の健全な部分だけを再利用する。このときに、その中核部分(書籍ならカバーと帯をはぎとった本)をファントムとして登録する。このような中核部分は、裸のまま仕掛り在庫としてとっておかない。しかし、ファントムを登録すると、返品の再利用にそれなりに有用である。



また、つねにセットで使うことが分かっている部品群を「キット」として扱う場合も、ファントムで登録すると便利だろう。



このように、ファントムを上手く使うと、製造現場での運用上のニーズを、BOMマスタとMRP/APSにうまく反映させることができる。BOMの実践的なテクニックの一つだと理解すべきであろう。


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