リードタイム

リードタイム

Lead Time

「革新的生産スケジューリング入門」第3章講義6・ディスカッション2

「BOM・部品表入門」第3章Q3・付録Q2



リードタイムとは、「オーダーを出してから、それが完遂(fulfill)されるまでの時間」のことである。オーダーとは異なる組織間でやりとりする正式な指示であり、いろいろな種類がある。そして、リードタイムはそれぞれのオーダーの内容に対応して定義される。つまり、リードタイムと一口に言っても、その指し示す内容は様々であり、聞き手と話し手の文脈理解の差がある場合は、しばしば誤解が生じやすいので注意が必要だ。



企業間でやりとりするオーダーの代表例は、需要オーダー(あるいは受注オーダー)である。会社によっては単に『オーダー』とも呼ばれる。これは、製品の販売行為に対応する。製品Aを100個売る注文を顧客Zからもらった。納品の納期は来週末だ。こういうとき、需要オーダーが成立する。そして、この需要(受注)オーダーの完遂までの期間が、受注から納入までのリードタイムとなる。今日が月曜日なら、実働日単位では9日間、カレンダー日では11日間だ。



この注文が、もし“できる限り早く納品してくれ”という要求であり、かつ、営業部門の持っている未引当の製品在庫が120個あったら、どうなるか。すぐに100個の引当処理を行い、出荷手配をかけるだろう。国内ならば、3~4日で納品できるかもしれぬ。その場合、受注リードタイムは4日以内となる。



この例からわかるとおり、受注から納入までのリードタイムは、定まったものではなく、製品在庫の状況によってかわる。ここを良く理解してほしい。つねに在庫をたんまり積み上げている製品(たぶん主力製品で見込み生産のもの)は短いだろう。しかしうっかり在庫を切らしたら、工場に製造を依頼しなければならない。そうなると、ずっと長くなる。リードタイムに定まった“標準値”など、とくにないのだ。それは目安に過ぎない。



この売り買いの関係を、逆から見てみると、それは外部企業からの買い物、すなわち購買オーダー(発注書)になる。そして、購買リードタイムとは、発注書を切ってから、受領検収するまでの日数をあらわす。どうだろうか。購買リードタイムの「標準値」を、固定したデータとしてMRPの購買情報マスタに登録する意義は、どれほど薄弱なものかおわかりだろう。サプライヤーに在庫があるかどうかによって、実際の日数はかわってきてしまうからだ。



また「来週の金曜日に持ってきて」と期日指定したら、サプライヤーにいくら在庫があっても、その期日が購買リードタイムになるのである。もしも購買リードタイムの標準値を3~4日に設定していたら、それはサプライヤーに「いつも在庫を持っておけよ」と無言で指示しているに等しい。そうしたら、彼らの在庫保管費用がかならず乗って、購入単価は高くなっているはずだ。え? カンバンはどうか? カンバンというのは分納指示であって、購買オーダーではありません。



ちなみに、受注の際に営業マンがかけた出荷手配は、物流センターの人間にとっては『出荷オーダー』になる。物流マンにとって、出荷リードタイムはどう定義されるのか? それは、出荷オーダーを受け取ってから、製品を倉庫からピッキングして出荷梱包してトラックに乗せるまでの時間になる。これは、物流センター全体の仕事量と効率性できまる。当日注文、当日出荷できるところは、かなり優秀な企業だ(あるいはよほどヒマな企業か)。普通だったら、いいところ翌日出荷だろう。なお、トラックに乗せてから客先に届くまでは輸送リードタイムである。つまり、受注リードタイム=出荷リードタイム+輸送リードタイム、という関係式が成り立つことになる。



さて、受注はもらったが製品在庫が足りなかった場合のことを考えよう。この場合、正味所要量の分だけ、生産部門に対して生産依頼をかけなければならない。工場はこれを生産オーダーとして受け取る。工場に製品在庫がたまたま余っていれば、それを出荷して完了(fulfill)となる。しかし普通は生産管理部門が、製品の必要数量を部品表(BOM)と工順表から展開して、各作業区に対して製造オーダーを渡すことになる。そしてここでも、工程がいかに混み合っているか、また部品/原材料が在庫してあるかどうか、が所要日数のカギになる。



もし原料在庫が足りなければ、サプライヤーに対して購買オーダー(発注書)を切ることになる。つまり、生産リードタイム=各工程の製造リードタイム合計+原料の購買リードタイム、という関係式が成立する。そして、ここでもサプライヤー側の在庫の有無が関係して・・・



ポイントがお分かりだろうか。まず、リードタイムは固定的な期間ではありえない。標準値などというものは、一応の目安に過ぎないのだ。



また、リードタイムは、どれだけ混み合っているかでずいぶんかわる。「大病院は3時間待ちの3分診療」という言葉を思い出してほしい。3分は製造リードタイム、3時間は生産リードタイムだと思えばよい。つまり、その製品だけの固有の事情では決まらないのだ。



そしてもう一つ。リードタイムは、在庫のあるなしで大きくかわる。「在庫」とは、言いかえれば『時間の缶詰』であり、何かの仕事を、見込みにしたがって先行して行った結果である。つまり、リードタイムを短縮したければ、安定した、信頼に足る“見込み”を与えるにしかず、ということになる。これがリードタイムの、一番重要な原則なのである。

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