タイム・コンサルタントの日誌から(2001年)

Christmas メッセージ — 電子調達の未来形 (2001/12/24)

スケジューリングは最適化の問題ではない (2001/12/08)

サプライチェーンの再生力 (2001/11/19)

ロジスティクスと兵站の間 (2001/10/20)

巨人達のPetroCosmはなぜ失敗したか (2001/5/26)

Blackoutとシリコンバレーの憂鬱 (2001/4/25)

M2M 統合とwebMethods (2001/3/29)

e-Collaborationに向かうOracle (2001/2/27)

i2 Technologies社はなぜ「RHYTHM」を捨てたか(2001/1/30)

Christmas
メッセージ — 電子調達の未来形



Merry Christmas!!


まずは、このサイトを読んでくださるビジターの皆様に季節のご挨拶とお礼を申し上げたい。険呑なことも多い一年だったが、世の中が着実に少しずつ変わって行く証左だと思うことにしよう。


おかげさまで、私が開発にたずさわってきたエンジニアリング業界向けの電子商取引市場「epc-business.com」も、12月20日に正式版であるVersion
2のサイト運用を開始することができた。専門業界向けのB2Bサイトではあるが、すでにパイロット開発版のVersion 1から累積で取引金額100億円を突破しており、後発ながらなかなかの成功事例ではないかと、われわれも多少自負している。


われわれのサイトは、他と何がちがうのだろうか?


他の多くのE-Commerceサイトが、定型化・標準化された製品群の取引を行なうカタログ購買であり、カタログ機能やコンテンツの充実をめざして競争しているのに対し、われわれのサイトは個別発注品の調達プロセス全体をサポートすることに主眼をおいている。毎回個別に仕様を決めて発注する品目のことを普通Engineered
Item
と呼ぶが、個別発注主体の調達活動をよぶ適切な用語がまだないため、Engineering Procurementなどと(いささか苦しい)用語をつくったりしている。


適切な用語がないということは、この複雑なプロセスに対する世間の(とくに経営情報学的な研究の側面からみた)認知が足りないということでもある。これは大変残念なことだ。Engineering
Procurementは、3種類のM、すなわち



  • SCM(Supply Chain Management)
  • PM(Project Management)
  • MM(Material Management)

の交差する領域であり、興味深い課題を豊富に抱えている。


たとえば、カタログ購買の考え方でいうと、品目Itemに、その仕様Specデータがぶら下がっており、それらデータは品目マスタMaterial
Masterの中でフィールドとして定義されている、という風になるだろう。


しかし、個別品調達の考え方では逆であり、仕様データ(Narative Specificationないしフィールド数が膨大にあるData
Sheetのかたまり)に対して、Item Listがぶらさがっている、という風になる。とうぜんながら標準的な品目マスタは存在せず、そのかわりをプロジェクトごとの調達仕様書リストがつとめる。こうしたことから、どれぐらいのデータモデルの隔たりが出てくるか、情報技術者ならば想像がつくだろう。


こうした課題について、時間の許す限り、このサイトなどでもぜひ詳しく順次紹介していきたいと望んでいる。


昨年から今年にかけてネットバブルは崩壊したが、そのかたわらインターネットはますます生活必需品になった。今や家庭の主婦も学生もお年寄りも、老若男女みなメールアドレスをもつ時代だ。電子メールがなかった時分にはどうやって仕事をしていたのか、いまや思いだそうとしても思い出せない。一方向にしか進めない歯車のラッチのように、こうしたことは後戻りのきかない性質がある。それもたった5、6年ほど前のことなのに。


いまから5,6年後には、SCMや電子調達がなかったときにはどうやって仕事をしていたのか、もう思い出せない、という具合になっているだろうか。そういう風に、未来を創り出していくのが私たちの仕事であると信じたい。


どうか来年が皆さんにとって実り多い年でありますように。


Wish you a happy new year!


スケジューリングは最適化の問題ではない



旅行の予定を立てるとき、普通はまず時刻表を見る。飛行機か鉄道か、手段はさまざまだが、目的地と到着すべき時刻がはっきりしている限り、コストと所要時間を見てもっとも良い移動方法を見いだすことは簡単だ。経路が複雑な場合は手間がかかるかも知れないが、それでも最適なルートは必ずあるはずだ・・・。


こういう信念で生産計画の問題にも挑みたくなる気持ちはよく分かる。工場の稼働時間と生産能力、こなすべき生産指示と必要な資材、こうした条件がはっきりすれば、手間さえかければ最適なスケジュールを組めるはずだ。問題はその手間をいかに短くするかにある、と。


ところで、あいにく私自身はこうした意見に反対だ。スケジューリングを最適化問題の枠組みでとらえるべきではない。拙著「革新的生産スケジューリング入門」でも、その後の学会発表などでも、つねに私はこう主張してきた。しかし、なかなか理解してもらえない。私自身の非力さはむろんのことだが、人々が問題にアプローチするときのパーセプション、おおげさにいえばパラダイムの強さをまざまざと見る思いがする。


私が最適化のアプローチに反対するのは、それが生産計画の問題をスタティックな(静的な)構造の中でとらえる傾きがあるからだ。さながら時刻表を読む人のように。しかし果たしてそれは本当だろうか?


空港に来てみると、お目当てのフライトが天候を理由にキャンセルされている。次の便は4時間後の予定だ。別の会社の便は1時間後に飛び立つが、経由地があって遅くなるし、こちらも天候が不安だ。途中でおろされてはかなわない。今から市内にもどって鉄道で行くべきか、しかし座席はあるだろうか・・・。我々が生産の中で直面する現実とは、ほんとはこんな風なものだと私は思う。どの選択肢を選ぶにせよ、それが正解だったのかどうかはあとになってみないとわからない。その時点では正確に比較評価しようがないのだから。


「最適化」は多くの人が好む言葉だ。なんとなくかっこいい響きがそこにはある。だからコンサルタントも学者もソフトウェア・ベンダーも、こぞってこの言葉を使いたがる。たとえば「最適スケジュール」というと、ぎりぎりの資材手配の中で目を見張るような短納期が実現されるような空想を持つ。しかし、そのように美しいスケジュールは、飛び込み注文のFAX1通で、ガラス細工のように無残にこわされる可能性がある。こわれて飛び散ったガラスのかけらを拾い集めながら、あなたはもう一度、別の美しい像を完成させる気力があるだろうか? 多少隙間があって不格好でも、多少の飛び込みには耐えられる、柔構造のプランが欲しいと思わないだろうか?


スケジューリングは最適化の問題ではない。


二つ以上の選択肢があったときに、その中から一つを選ぶのは最適化の一部だと人はいうかもしれない。あれかこれか、の可能性があるときに、その中からもっとも良いものを選ぶのは当然の義務だと。


それでは、あなたが結婚相手を選んだとき、それは最適化の問題だっただろうか? あるいは(この比喩は結婚の経験がない人に誤解されそうなのであわてて言い直すのだが^^;)、あなたが自分の進路を選んだとき、それは最適化の問題だっただろうか?


選択というものは常に「賭け」なのである。それは未来に対する自分のコミットメントだからだ。そして、その結果は、そのときの結果だけで評価されてはならない。評価すべきなのは、その決断をしたときの戦略であり、それがどれほど確としたスタンスの元に行われるかなのだ。


生産の世界では、一瞬先のことはわからない。海図はあっても、先の天候はわからないのが航海の宿命だ。生産計画はけっして港の事務室に座って海図に線を引く作業ではない。刻一刻と変わりつつある風向きをとらえ、波しぶきを切って船の進むべき方向を決める航海士の仕事こそ、生産スケジューリングと呼ばれる業務なのである。


サプライチェーンの再生力



Verizonという会社をご存じだろうか? アメリカの通信事業会社である。専門分化し細分化された米国の通信業界において、長距離通信と携帯通話サービスで健闘している。しかし何よりも、NYのウォール・ストリートを中心とした金融街の通信事業者の中核として、Verizon社はその独自の地位を築いている。


9月11日の悲劇から1週間後の月曜日に、NY証券取引所はその業務を再開した。全員が「ゴッド・セイブ・ジ・アメリカ」を唱和し、続いて会頭の振りおろすハンマーによって業務を再開する映像は、世界中に放映された。フランスのニュース番組は、『アメリカがここまで信心深いとは知らなかった』と皮肉っていたが、アメリカの社会がもつ再生力を象徴するシーンだったことはまちがいない。


ところで、この劇的な再生シーンの背景に、Verizon社の死にもの狂いの努力があったことはあまり知られていない。


取引と言うと机と紙しかいらなかった旧時代はともかく、現代の金融取引の中心手段は通信である。そして、その通信の物理的な基盤はウォール・ストリート中に張りめぐらされた光ケーブル網であることも、考えてみればすぐ分かることだ。


そのケーブル網は、ワールド・トレード・センターのツインタワーの崩壊によって、当然ながらずたずたにされてしまった。Verizon社の中核設備は同センターの7階区にあるが、これも大きな被害を受けた。そして、ウォール・ストリートの機能の復旧とは、すなわちVeirzon社がどれだけ彼らの顧客への接続サービスを再生できるかにかかっていたのだ。


この間のVerizon社の不眠不休の努力は、Fortune誌(20001年10月15日号)の記事に詳しい。9月11日の朝、同社の社員たちは、本社ビルからツイン・タワーの崩壊場面を呆然と見つめていた。「これを目撃した以上、全力で復旧作業を行わなければ気が済まないという心理でした。」と彼らは同誌に語っている。事実、ウォール・ストリートから世界各地へと送られる声とデータ情報をサービスし、350万以上のハイ・キャパシティ・サーキットと電話回線30万本を処理していていた4個の巨大な交換装置が危機に瀕していた。


これらネットワークを、危険地区を避けてマンハッタンの別の場所に迂回させ、つなぎ直す作業にどれだけ超人的な努力がいるか、通信技術者でなくても想像がつくだろう。彼らはさらに、金融街に戻ってくる何千人もの企業人の便宜を図るため、携帯電話用の仮説アンテナを設置することまで行なった。


米国の通信業界が細分化され競争社会にあることが、この場合は幸運に働いた。大手企業は複数の通信業者を同時に採用しており、一ヶ所に危機が起こった時に別のルートやサービスが選択できる状況にあった。いわばシステムに冗長性があった訳だ。また、ふだんは競争している通信業者が、このような社会的危機の際には団結し協力して動いたことも大きい。ここらへんは開拓者の子孫たちから成り立っているアメリカ社会の良い面だろう。


再生力のポイントをもう一つ上げるなら、それは自己責任による判断があったことだ。Verizon社が、自社の設備の危険性を承知で、あえて事故後しばらく稼働させたまま放置した(人間は避難せざるをえなかった)こともそれだ。こんな状況にどう対応すべきか、当然ながらそこまで社内規定では決まっていなかったにちがいない。現場判断による一種の賭けである。このおかげで多くの電話回線が数時間のあいだ生き続けて、人々の連絡を助けたのだ。


複数の競争があること、しかしそれを超えた協力もできること、自律性すなわちマニュアルに無い状況でも自己判断ができること・・こうしたことが相まって、ウォール・ストリートのネットワークの再生力を強めた。


これからえられる教訓はなんだろうか?


我々の社会においても、サプライチェーンの危機管理が今や真剣に問われている。危機管理を考えるとき、事故や災害や悪意の攻撃を未然に防ぐ方策は何より大切だ。


しかし、もうひとつ大切なことは、サプライチェーン全体の再生力を高めることだろう。供給のネットワークを単線化せず、複数事業部間で協力ができること、そして何よりも、危機的状況が起こったときに、現場での自己責任による判断が許されるような緊急時の権限委譲が保証されていること・・こうしたことを包含してこそ本当の対策となるのである。


ロジスティクスと兵站の間



SCMのコンサルティングをしていて、最もよくぶつかる誤解は、『SCMって、ロジスティックスすなわち物流の改善のことでしょ?』というものだ。この誤解は関門のようにSCMの入り口に立ちはだかっていて、まずこれを崩さなければサプライチェーンの中核問題の解決に踏み込むことなどおぼつかない。


この短いが典型的なセンテンスは、じつは少なくとも3種類の誤解が蔓草のようにからみ合って出来ている。それは、


 (1)サプライチェーン = ロジスティクス、という誤解

 (2)ロジスティクス = 物流(輸送)、  という誤解

 (3)マネジメント = 改善、       という誤解


の3種類である。


こうした誤解の生まれる背景には、ロジスティクスという概念のわかりにくさがある。最近でこそ、この言葉は誰もが知るポピュラーなものになったが、10年くらい前までは、「ロジスティクスとはそもそも兵站のことで・・・」と翻訳しなければならなかった。しかし、翻訳してもそれで理解されたわけではない。なぜなら、『兵站』という概念自体が日本では非常に希薄だからである。


では兵站とは何か。

それは、弾薬・食料・衣類・医薬品などの物資を前線の基地に、「必要な場所に、必要な量を、必要なタイミングで」送り届ける活動である(このカッコの中のセリフはみなさんもきっとどこか別の場所で聞いた記憶があるはずだ)。兵站の概念は、資材の調達や輸送、中間地点での蓄積保管なども含んでいる。物資だけでなく、兵隊そのものを移動させることも兵站の重要な一部である。


「必要な場所に、必要な量を、必要なタイミングで」という条件が付いているから、単に物資の場所を右から左へと移動する行為である『輸送』と、ロジスティクスとでは全く別次元の概念であることが分かるだろう。


アメリカの会社と一緒に仕事をすると、彼らがいかにロジスティクスに神経を集中し万全の用意をしたがるか、驚くほどである。彼らにとってはロジスティクスがきちんと準備できたら、もう仕事は半分終わったようなものなのだ。


この行動原理はアメリカの軍隊も全く同じである。彼らほど兵站に厚い軍隊はない。そして、その対極にあるのが、かつての帝国陸海軍だった。日本軍は兵隊を広大な中国大陸や南方の各所にばらばらに振りまいて、それで戦争ができると思っていたらしい。しかし鉄砲は弾がなければ撃てないのだ。いや、たとえ武器弾薬がたんまりあっても、食糧がなければ兵隊さんは戦うことができない。衣服や薬がなければ生き延びることができない。


したがって戦略論で攻撃の大きなポイントは、いかに敵の兵站線を切り崩すかであり、防衛とは、いかにそれを守り維持するか、になる。たとえ武器以外の物資の輸送でも、きちんと武装した護衛が必要なのはこのためだ。なぜなら、兵站業務とは前線で戦うことの前提条件であるからだ。


いいかえれば、ロジスティクスを遂行することは、前線に荷担するのとまったく同じ意味を持っている。兵站とは「後方業務」かもしれないが、にもかかわらず攻撃なのだ。


ビジネスに話をもどすと、セールスの達人が店でばんばんモノを売れるのも、開店前にちゃんと商品を届けてくれるトラックの運ちゃんがいるからだ、ということになる。そしてそれをさかのぼれば、午前2時に配送場で働く荷役労働者や、ドブ板踏んで仕入先を回る購買担当がいるからだ、ということにもなる。「後方支援」だ、「下積み」だ、などという上下の区別はおかしい。

こうした視野をもたないと、決してロジスティクスを正しく理解することはできない。そしてロジスティクスが分からなければ、その上位の概念であるSCMなど納得できるはずもないのだ。


第3の誤解については、また別の機会に論じることにしよう。



巨人達のPetroCosmはなぜ失敗したか



PetroCosm.com(http://www.petrocosm.com)が運営を停止した。


PetroCosmは、米国オイル・メジャーの一角であるTexacoとChevronが共同で立ち上げた石油業界向けの電子調達サイトだ。技術提供はAribaが行っている。石油メジャーの資本投資に業界トップの技術プロバイダー。この強力なコンビのサイトがなぜたちいかなくなったのだろうか?


PetroCosmは、そのライバルであるTrade-Ranger社(http://www.trade-ranger.com)とは異なった行き方をとっていた。Trade-Rangerとは、ShellやBP
Amocoなど大手石油会社14社が資本参加し、CommerceOneが技術を、i2 Technologiesがカタログを提供している電子商取引のマーケットであるが、実質的には14社の購買サイトの集合体にすぎない(共同購買ですらない)。


これに対して、PetroCosmは中立的なサイトをめざしていた。この目的のために、彼らは多くのバイヤーとサプライヤーを惹きつけなければならなかった。当初はChevron/Texaco2社だった株主構成も、サプライヤーも資本参加できるように昨年秋に方針変更した。PetroCosmはサプライ・チェーン・ソリューション全体の提供をねらっていたのでかなり広い範囲のサプライヤーを集める必要があったからだ。


これは業界特性として、どうか読者のみなさんにもよく理解してほしいのだが、欧米で製造し産油国で使用する石油業界の資材において、購買と調達は全く違う。単なる購買とは引き合いから発注書の発行までをさす。しかし調達とは購買だけでなく、工場立会い検査・輸送・通関・納品・決済支払いまで、サプライ・チェーン全体を面倒見なければならない。したがって、メーカーのみならず、輸送業者や検査業者、ストッキストと呼ばれる専門商社のたぐいまで、かなりの種類のサプライヤーがそろわないと、この「ソリューション」は成立しないのだ。


PetroCosmは結局この点で失敗した。かれらはサプライヤーはなんとか300社あまりと契約した。今年に入ってからは、独立系の電子商取引サイト
NetworkOil (http://www.networkoil.com)とも緊密な提携関係を樹立した。NetworkOilはoilfield
surplus equipmentのexclusiveな売買仲介サービス提供者として指名された。


しかし、これが消えゆくロウソクの最後のきらめきだったようだ。結局、サイトとして自立運営してゆくのに必要な取引量を確保できる見通しが立たぬまま、終焉の時を迎えてしまった。


出資者のChevronとTexacoは自社の購買は他のサイトなどを利用して続けていくと表明している。しかしこの失敗による打撃はまぬがれまい。金額的には両巨人にとって些末かもしれないが、マインドの点では大きなインパクトがあるだろう。


しかし打撃の大きさではAribaの方が大きいようだ。AribaはAgile Technologies社の買収失敗も加わって、大幅な収入のダウンを報告し、つい最近700名のレイオフを発表した。IBM-i2-Aribaのトロイカ連合にひびが入りつつあるのだ。業界関係者は今や固唾をのんでその成り行きを見守っている。


Blackoutとシリコンバレーの憂鬱(2001/4/25)



今月のはじめ、シリコンバレーに行ってきた。サン・フランシスコ空港からほど遠からぬホテルに泊まり、シリコンバレーの北に位置する訪問先企業までハイウェイで通う。夜はたいていベイサイドを望むレストランで地元のワインと、どことなく東洋風のフレーバーが効いたお洒落な料理を味わい、酒気帯び運転の車で帰る、という毎日だった(米国では「酔っぱらって」いない限り運転は合法)。


時間が空いた日に、サン・フランシスコの街まで出た。私自身は11年ぶりだ。ボストンなど東海岸の都市と雰囲気が違って、面白い。なんとなくスッキリ、こざっぱりしている。とくに大きな歴史的名所もないし、美術館や劇場、遊園地などもとりたててすごいものはないのに、なぜか人気があって観光客が訪れる。たぶん街全体にただよう雰囲気が気持ちいいのだろう。坂が多く、三方を海と湾に囲まれているので、歩いていると景色に変化が多く、美しい。不思議な魅力があるのだ。


ところで、Blackoutという英語をご存じだろうか? 「停電」のことである。いかにも直接的でアメリカ英語らしい表現だ。停電はしばしば冗談のネタになり、また広告にも「停電時にあなたのWebサーバは大丈夫ですか?」などという惹句が出てくる。事実シリコンバレーはこの度重なる停電にかなり悩まされているらしい。


しかし、私が帰国する前の日になって、とうとうカリフォルニア電力ガス会社が倒産した。日本でいえば東京電力兼東京ガスに相当する大企業が、米国の通称"Chapter
11"を申請したのだ(日本でいう会社更生法に相当する)。そしてすぐさま責任の所在をめぐり、州政府と会社の間で口汚い罵りあいの応酬をはじめた。好景気とともに電力需要が増大し、かつ原油高の時勢に、電力価格だけは州政府との協定のために抑えられていたのが倒産の原因だ。もっとも会社は州知事に多額の政治献金を続けてきたのだから同じ穴のむじなだ、と住民はさめた見方をしている。


ところで、需給バランスが悪いのなら遠方から買ってでも間に合わせられないのか、と誰もが考えるだろう。米国は発電事業と送電事業が分離されているから、線さえつながっていれば東海岸からだって調達は可能なはずだ。そうだ! これこそe-Commerceにぴったりの商品ではないか! と。


そうなのだ。電力は米国の電子調達ではすでに重要な品目となっている。総合エネルギー企業のEnronは自前で相当な人手と資金をかけて、<<無料の>>電子市場を開催している。いや、それどころか、米国では電力の先物取引さえ行われているのである。この、全く貯蔵に適していない商品を、シカゴの相場師達はちゃっかり売買しているのだ。


それなのにBlackoutが起こるのは、もはや政治的な理由か、さもなくば相場の思惑を超えた長期トレンドが逆向きに作用したとしか説明がつくまい。


逆トレンド。そういえば昨年後半からシリコンバレー自身もまた、大波を被っている。ドットコム・カンパニーが次々と縮小倒産し、大量のレイオフが続いている。1年前は30分かかったフリーウェイでの通勤時間が今年に入ったら20分で着くようになった、とある技術者は言っていた。ラッシュアワーが緩和されるほど、はっきりと人が減ってきているのだ。


昨年前半の、これからはドットコム・エコノミーだ、いけいけ、という盛大なかけ声。あれは傍目から観れば明らかにネット・バブルだった。B2B市場のプランはほとんどバブル時代のゴルフ場開発計画そのもの。どうみたって正気の沙汰ではなかったのだが、それに気がついて正気に返るまで、騒ぎの渦中にいる人間はなかなか時間がかかる。


そして今や、シリコンバレーはBlackoutの暗闇の中で、目覚めの時が来たとやっと自覚しはじめているかもしれない。


M2M 統合とwebMethods(2001/3/29)



ARCWire News Summary for the Week Ending Mar 16,2001より


M2Mという用語を聞いたことがおありだろうか。B2B, B2CがそれぞれBusiness to Business,
Business to Consumerの略なら、M2MはMarket to Marketの略で、すなわち電子市場同士の取引関係を意味している。ある電子市場での需要と別の市場の供給を橋渡ししたり、カタログ情報を転送して使ったりすることである。


この概念自体は1年前からあった。しかし具体的な接続の技術が固まってきたのは最近のことだ。


そのトップランナーがwebMethods社である。同社はつい最近、i2のTradeMatrixとの提携関係を強化すると発表した。またTradeMatrixと企業内の基幹システムとを接続する技術としてもwebMethodsが推奨されることになる。


webMethods社の技術の中核は、XMLを用いたEAI(=Enterprise Application Integration)である。3文字略語には食傷気味のみなさんも、さすがにXMLだけは覚えざるを得ないだろう。HTMLの兄弟分であり、柔軟なデータ記述能力をもちシステム間のデータ交換の標準となるべき役割を期待されている言語である。webMethodsは、そのXMLをメッセージ交換に使い、複数の情報システムとのやりとりを「相互にアクセス可能な共通のB2B
レジストリ」という形で見せるような仕組みを提供する。さらに独自のFLOWというプロセス記述言語をもちいて、複数のシステムを串刺しにするようなトランザクションを実行できる環境を作っている。


この技術を、企業内のシステム統合だけでなく、電子市場間の接続すなわちM2M integrationの実現に使おう、というのが最近の動きである。電子市場自体、「ネットワーク外部性の法則」=参加者数の2乗に比例して効用がふえる、という法則に従う存在である。webMethodsに代表されるようなM2M技術の発展が、点と線を結び合わせるように電子取引の姿を変えていくのは必至だと思われる。


e-Collaborationに向かうOracle(2001/2/27)



NMM WEEKLY MARKET NEWS, Week of January 22, 2000, Vol.
IV, #4
より


Commerce One, i2, Aribaなどが電子調達市場で快走している間、Oracleはやや遅れをとっていた。たとえば、米国自動車のビッグスリーが共同設立したCovisintに対し、Oracleはいろいろと技術を提供しようと努力していた。にもかかわらず、Covisintが技術パートナーとして正式に選定したのはCommerce
Oneの名前だった。


Oracleに対する批評の一つは、あまりにも自社製品への囲い込み戦略が強すぎて、他の電子市場やSCMの技術と共存したり統合したりする面への配慮が少なすぎるというものだ。たしかに現在のOracle
Exchangeは米国にある同社のサーバ上でしか動かせないし、他のMarketplaceから孤立しているとの印象は否めない。


そのOracleが巻き返しをはかっている。製品ラインを強化するために、



  • Oracle Supply Chain Exchange
  • Transportation Exchange
  • Product Development Exchange (PDX)

をあらたに加えると発表した。


同社はすでに、ERP (Oracle Application)、CRM、SCMのソフトのラインアップを持っている。これらはいわば企業の社内情報化ツールだ。これをExchangeのプラットフォームにつなぎこむ方向性を鮮明にしたということだろう。ある意味で、i2がTradeMatrixで実現しているのと同じ方向、すなわちe-Collaborationのツールとしての電子調達、をめざしている訳だ。


とはいえ、この分野では後発のOracleにとって、すべてを一から開発している時間はなかったはずだ。ある程度、外部のプロダクトを買収して自社ブランドで売りながら、しだいに自社の製品ラインに統合していく、というやり方を部分的には取っている。


いずれにせよ、競争によってこの分野は進化していく。この先1年間の動きに注目していこう。



i2 Technologies社はなぜ「RHYTHM」を捨てたか(2001/1/30)



先日、日本OR学会のスケジューリングに関する研究会でお話しさせていただく機会を得た。伝統ある学会から講演依頼をいただくとはたいへん光栄な事だ。ご依頼をうけた際、i2
Technologies社のFactory Plannerを中心に話してほしいとの旨だったので、一応i2 Japanに連絡した。私自身はi2社の社員でも正規リセラーでもないから、第三者の製品についてしゃべるにあたって承諾をえておくほうがいいと考えたからだ。


OKの返事はすぐにいただいたが、一つとても驚いたことがあった。それは、「RHYTHM Factory Planner」という名称はもう使わないことに決めたから、私の講演でもそうしてほしいというのだ。そして、同製品は「TradeMatrix
Factory Planner」に名前を変えたと言われたので、私の講演の資料ではすべてその名前で統一した。


同じように、SCMソフトの主力製品である「Demand Planner」「Supply Chain Planner」も、頭につけていた「RHYTHM」の語を下ろしてしまった。つまり、今や商品ファミリーとしての「RHYTHM」は存在しないことになる。かわりに、これらの製品はすべて「TradeMatrix」のファミリー下に組み入れられている。


TradeMatrix(http://www.i2.com/tradematrix/)とは、i2
Technologies社が99年11月に立ち上げたB2B E-Commerceの基盤のことだ。この時以来、同社はSCMソフトの販売会社から、Marketplace
Service Providerとしての業態を鮮明にしている。この戦略は見事にあたって、いまやIBM-i2-Aribaの3者連合は電子商取引業界でのトップリーダーになっている。


i2社はTradeMatrixのプロモーションの機会のたびに、バックエンドのサプライチェーン技術をきちんと持たない電子Marketplaceは存続し得ない、と主張している。全くその通りだ。まともな納期も確約できないサプライヤーは市場の速度からすぐ脱落するだろう。E-CommerceとSCMは隣り合った技術なのだ。


だから、需要計画や納期回答や物流生産計画のSCMソフトがe-Marketplaceの要素技術だ、という位置づけは納得できる。これらの製品がTradeMatrixのファミリーの名前にかわったのも、i2社のそのようなメッセージが込められているのだと信じる。


しかし、Marketplaceの技術の一部として工場スケジューリング・ソフトが存在するというのは、どういう意味なのだろう? ほとんどの製造業では工場スケジューリングは純粋に社内プロセスだ。そこまでをe-Marketplaceと呼ぶべきなのだろうか? それでは例のe-Businessという曖昧模糊とした概念と同類になってしまわないだろうか? 


私はまだわずかな違和感を捨てきれすにいる。

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