リソースの考え方
工場で製造作業に着手するために、必要なものは何か。まず、資材がなければならない。資材とは、原材料や部品など、その作業工程で製造されるアウトプット(製品ないし中間製品)に直接使われるものだ。
また、正しく製造作業を行なうには、情報がいる。これには2種類あって、“何を・いつまでに・いくつ作れ”という指示情報と、“それはこういう資材を使って、こういう風に作れ”という仕様情報がある。
しかし、製造作業には、これらの他に必要なものがある。まず、作業者だ。それから、加工のための機械設備。そして、副資材(たとえば切削油など)。それに、電力やスチームなどの用役。金型や治工具。そして(時には)作業スペースなどなど。
こうしたものを総称して、「リソース」と呼ぶ。リソースは製造に必要なもののうち、直接資材と情報をのぞく、すべてのものを指す。カタカナ言葉で呼ぶくらいなら、日本語で『製造資源』と呼んでも良さそうなものだが、あまり聞かないようだ。労働者のことを“資源”と呼ぶのは、抵抗感があるからかもしれない(もっとも英語では人事のことをHuman
Resourceともいうが)。
むろん、リソースの考え方は、製造作業に限らず、検査、搬送、保管などの、生産と供給にかかわる作業すべてに共通に使える。直接の資材と情報以外に必要な、機器・作業者・道具・用役などをリソースととらえることができる。
ところで、生産計画やスケジューリングにおいて、リソースの取り扱いは難関の一つである。つねに細心の注意を払っておかないと、しばしば足元をすくわれる要素になる。ERPやAPSを導入した。必要な資材も情報もそろっているはずだ。それなのに、現場が動かない。なぜだ!? という問題が出るときは、たいていどれかのリソースが足りなくなっているせいなのである。
SAP R/3などのERPパッケージが備える生産管理モジュールは、ほとんどがMRPの手法を計画系機能のベースにおいている。MRPでは原則として資材と指示情報の枠の中でしか考えないから、リソースで問題が出るのはある意味で当然だ。
リソースには現場のいろいろな制約が集中する。その中でも、ふつう一番きつい制約になるリソースは機器設備の処理能力上限である。APSは、この能力の上限を考慮しながらスケジュールを立ててくれる。だから、MRPと違い、APSは実行可能なスケジュールを与えるはずだ、と信じている人は多い。APSベンダーもそんなふうなことを宣伝する。
だが、残念ながら、リソースは設備や作業者だけではない。たいてい、スケジューリングは他のリソースでつまずくのだ。
リソースの制約は、多種多様だ。設備や作業者ならば、供給能力の上限値であらわすことができる。しかし、金型や治工具はそうはいかない。作業中は占有されていて、作業が終わると開放される、1か0かのデジタルな制約だ(より正確にいうと、前段取りや後段取り時間も考慮しなければいけない)。また、用水や副資材などのように、使用後にリサイクルされてタンクに戻ってくるリソースもある。設備にしても、同種の機械のあいだで能力をプールできるもの、一時的に代替できるもの、など、非常にバラエティに富んでいる。
そして、APSのモデル化の能力を計る、一番いい指標は、リソースについていかに多様な種類が用意されており、どの程度モデル化がフレキシブルかを見ることである。逆にいうならば、生産スケジューリングがリソースでつまづくことが多いのは、APSにおける問題のモデル表現において、フレキシビリティを補うため恣意的に使われるケースが多いからだ。
スケジューリングにとりくむ場合は、リソースをゆめゆめ侮ってはいけない。