ディスパッチング、シーケンシング、スケジューリング


「ディスパッチング」と「シーケンシング」は、『スケジューリング』の類義語であり、いわば兄弟の概念である。そして、しばしば混同して使用されている。スケジューリングという用語自体、計算機のOS制御からスポーツ大会の競技組合せ問題まで、かなり広い分野で使われている言葉であるが、ここでは生産スケジューリングの領域に限って解説しよう。



ディスパッチ(Dispatch)という語は、もともと誰かを派遣する、何かを送り出す、という意味である。技術者を現場にディスパッチする、という風につかう。生産管理の世界では、これを転じて、具体的な作業の指示を現場に送り出す、という行為をディスパッチと呼ぶようになった。その日にやらなければいけない作業をリストアップし、それを各作業員に対して、順番を定めつつ、指示していく。これがディスパッチングである。



日本の工場では、「差立」(さしたて)を使っているところが多い。差立とは、手紙を入れる状差しや棚のようなもので、それを縦横に複数並べて工場の壁にとりつけたものである。機械や作業区ごとに、それぞれの箱が定められている。たとえば「旋盤1」「旋盤2」、「プレス工程」「表面加工工程」・・といった風に。ときには、機械別ではなく作業員の名前が付けられている場合もある。



工程管理をしているチーフや班長は、その日の作業指示書を、その差立に手で入れていく(箱に差して立てるので「差立」という名が付いた)。これがディスパッチングに相当する。入れる順番は、作業の順番である。各機械や作業区の作業員は、自分の担当する差立から、作業指示書を1枚ずつとりだして作業にかかる。つまり、ディスパッチングとは、非常に短い期間の、製造作業のスケジューリングなのである。



スケジューリングとディスパッチングは、本質的には同種のものである。では何が違うかというと、対象とする問題のスコープの大きさが違うのだ。あるいは、計画担当者のうけもつ「自由度」が違うと言い直してもいい。工場の生産スケジューリングでは、ふつう生産オーダーを受け取って、それを部品表(BOM)にしたがって工程別の製造作業指示(製造オーダー)に展開し、時間軸にそって割り付け、スケジュールを作る。対象期間は2-4週程度が多い。そのスケジュールは、一応コミットされているが、先々変わりうる可能性が高い。



これに対して、ディスパッチングは、1日か、せいぜい数日の範囲で考える。そして、生産スケジュールの結果を受けて、現場のリソース状況や細かな制約条件を考慮しながら、製造作業指示を出していく。その指示は完全にコミットされ、現場に送り出され、実行される(むろん、例外的な中断やキャンセルはあり得るが)。



ところで、これと少し違った意味でディスパッチングという語を使うことがある。それは、一つの機械や作業区だけを対象として、やらなければならない作業指示をどの順番で着手するのがもっともいいか、を考えるケースである。これは上記の差立問題に似ているが、対象とする期間を1日よりもずっと長くとらえる場合が多い。



このような、1リソースに限った順序づけの問題は、正しくは「シーケンシング」と呼ぶべきである。したがって、正確にいうと、ディスパッチングは生産スケジューリング問題の計画期間を限定した部分問題であり、シーケンシングは対象機械を限定した部分問題だと理解してもいい。



ただし、1機械の最適着手順を考える研究者たちが、これを「ディスパッチング・ルール」と呼び慣わしてきたことが、用語の問題をややこしくしている。生産管理関係の用語はまだまだ混沌としており、それがどこの工場でも共通に整理されるまでには、百年河清を待つ、の覚悟がいるかもしれない。

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