基準生産計画(MPS)と販売・操業計画(S&OP)の間
基準生産計画(MPS)と販売・操業計画(S&OP)の間
先日、「図解サプライチェーン・マネジメント」の読者の方から質問をいただいた。それは、「MPS(Master
Production Schedule)とS&OP(Sales
and Oepration Plan)の関係が分からない。両者は別物なのか、それとも同じものを指すのか」という意味のご質問だった。
たしかに、どちらも、MRPの出発点である、というような説明をされることがある。そもそも、MRP自体が日本で普及していない訳で、MPSとかS&OPなどの実態にふれる機会もほとんどない。だから、その違いが分かりにくいのも無理はないだろう。また、S&OPは「販売部門と生産部門が調整して立案する計画」という説明もあるが、これもMPSも該当するように思えるから、いよいよ混乱しがちだ。
それで、答えから先に言うと、「基準生産計画(MPS)」は「販売・操業計画(S&OP)」から直接、算出されるもので、いわばS&OPの一部である。S&OPは文字通り販売計画(需要計画・販売チャネル管理・ATP予約など)を含むもので、生産側だけを対象にしたものではない。
なお、S&OPはこれまで『販売・事業計画』と訳されることが多かったが、“事業”という言葉はビジネス的な意味が広すぎて、かえって対象範囲が分かりにくい。ここで指しているのは、販売と対をなす、供給の範囲の仕事、すなわち生産・輸送・在庫などの、工場・物流センターの操業のことである。そこで、最近MIF研究会の仲間で「工場管理」誌に連載をはじめるにあたって、『販売・操業計画』という訳語の方がいいだろう、という案が出された。これは良い訳だと思うから、ここでもそれを使わせていただく。
最近は「生販在計画」、あるいはProduction, Sales & Inventoryの頭文字をとって「PSI計画」という用語も普及しはじめているようだ(私のATOK
12は、うっかりするとこれを“性犯罪計画”と誤変換してくれるから油断も隙もない^^;)。これは複数の生産拠点や物流拠点、販売チャネルを持つ大企業におけるS&OPの一種だと思ってさしつかえないだろう。
これに対し、基準生産計画(MPS)は生産だけにかんする計画である。MPSの中核は、じつは生産オーダーの集合である。私の知る限り、MPSはベストの企業でも週次サイクルで、ふつうは月次から月2回サイクル程度しか作っていないと思われる。工場側はその生産オーダーを工程展開して、実際の製造スケジュールや作業指示をつくっていく。MRPの出発点だといわれる所以である。
日本の多くの企業では、「月例生販会議」などと称して製造側と営業側の代表者が集まり、お互いの見通しを出し合って数字を調整する機会を持っている。だから、この会議の結論がMPSであると考えたいところであるが、じつはここには留保条件がつく。それは、「計画」としてのコミットメントの度合いである。言い方をかえると、どれほど皆がこの数字を尊重しながら動くか、がポイントなのだ。
本来、MPSには需要タイム・フェンスを設定して(数日から1週間程度)、「もう直近のこの期間内の需要変更は受け付けません」という運用ルールを、営業・生産両者で守るべきものだ。むろん、営業にいわれるまま、毎日のように生産オーダーを変更調整している会社は多々あるが、そんな状態のものをMPSと呼ぶ価値があるかどうか、私は疑問に思う。
そして、そのために役員クラスのマネジメントのコミットメントが必要とされる。これが本来のS&OPの目的であろう。
「販売部門と生産部門が調整して立案する計画」というとき、それがマネジメントによってオーソライズされ確定された計画のことをいうのか、単に部員同士が寄り集まって“声の大きいもの勝ち”で作られる紙切れのことをいうのか、その実態を見極めなければ意味がないことを理解すべきである。