リサイクル型BOM

リサイクル型BOM

BOM with recycle

「革新的生産スケジューリング入門」第6章講義1.1、演習問題

「BOM・部品表入門」第2章Q3



ふつうの組立加工型製造業では、原材料や部品を順次加工して製品に仕上げていく。原材料から製品への流れは一方向であって、ストラクチャー型BOMを書くと、製品を頂点としたきれいなツリー型の構造になる。アルファベットのAの文字に似ているため、この種のBOMを「A型」と呼ぶ。



ところが、製造業の中には、せっかく加工して作った製品の一部を、原材料に戻してしまう業種がある。この、一見奇妙なタイプの業種は、案外多い。たとえば、シャンパンの醸造工場では、製品の一部をとっておいて、翌年の仕込みの原料にブレンドする。もったいないようだが、これによって、毎年の製品品質が安定するのである。自動制御理論を知っている人には、移動平均的な安定化の効果がある、と説明すれば分かりやすいだろうか。



この種の製法は、シャンパンに限らず、お酢や乳製品など、醸造プロセスを含む飲料・食品工業ではよく見られる。農産物を原材料にする業種では品質のばらつきをいかにおさえるかがカギなのだ。数年前に、北海道を代表する名門企業だった雪印乳業が品質問題のスキャンダルで倒産に追い込まれたが、これもじつは、製品を原材料にリサイクルするプロセスで、保存状態に失敗したため起こったことだった。



リサイクルのあるBOMの構造図では、原材料から製品への流れにループができる。そこで、私はこれを「Q型BOM」と呼んでいる。



さて、こうしたQ型BOMをもつ工場で生産計画や原価管理を行なおうとすると、BOMにリサイクルがあるため、たちまちある種の問題に突き当たる。



たとえば、MRP=資材所要量の計算である。MRPの計算ロジックは、製品から順次部品・原材料にさかのぼって、正味所要量と引当の計算を展開していく。ところが、ここにリサイクル型BOMが存在すると、製品を頂点とした階層が決められなくなってしまう。生産計画/スケジューリング用ソフトウェアの中には、副製物(by-product)を、マイナスの員数をつけて表現するものがあるが、原料にマイナスとプラスの員数を二本立てに記述できないと、この種類の計算はうまく扱えないことになる。



もう一つの困難は、個別実際原価計算である。実際原価は、それぞれの製造ロットにおける使用材料費・労務費・直接経費を個別に把握するところからはじまる。ところが、製品が原材料にリサイクルされてしまうと、この計算が単純には求まらなくなる。そこで、厳密に計算するためには、収束計算が必要になる。多くの原価管理ソフトウェアには、この機能が欠けている。



ところで、Q型BOMを持つのは、飲料・食品など、ごく特殊な一部業種だけだろうか? じつは、そうではない。たとえば、日本を代表する重工業である製鉄である。製鉄業では、鉄クズを原料の一部にまぜて使う。ガラス工業もそうだ。ガラスの主原料の一つは、カレットと呼ばれるガラスクズなのである。こうした業種では、品質安定という目的もさりながら、製品の破片を廃棄せずに再利用することも主眼のひとつである。



樹脂成形加工業も似ており、型への導管部分は再び溶かして原材料に使うことができるのだが、品質劣化を防ぐため、逆にリサイクルの混入率の上限を決めたりしている。



このように、製品の原料へのリサイクルは、少なからぬ業種で行なわれている。にもかかわらず、ERPやAPSなど、現在の市販パッケージでは、Q型BOMへの配慮が足りないように思われる。導入の際には、十分注意が必要である。

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