広義のBOM--その輪郭

広義のBOM--その輪郭

製造業のDNA情報であるところのBOMを考える際には、マテリアルの概念を正しく再定義する必要がある。BOMとはマテリアルの数量的関係を表わしたリストだからである。したがって、BOMデータの構築のためには、まずマテリアル・マスタ自体を一貫性のある形に統一する必要がある。また、マテリアルとBOMをつなげる役割を果すのが工順(routing)である。したがって、マテリアル・マスタとBOMマスタと工順マスタは、互いに整合性がとれた形で構築されていなければならない。



さらに言うと、購買オーダーの明細リスト作成用のマスタはマテリアルをキーに持つ訳であるし、工場のリソース作業のマスタも工順に関連づけられている。こうして、BOMマスタを正しく再構築しようとしたとき、関連して見なおさなければならないマスタ・データもいろいろあることが分かってくる。



そこで、拙著『BOM/部品表入門』の中で、私は「広義のBOM」という、あまり世間では聞き慣れない概念を提出した。広義のBOMとは何かというと、

 

「マテリアル・マスタを中心とした製品構成と製造工程にかんする基準データ、ならびに、そこから派生する履歴データ」

 

と定義される、まとまったデータである。その中心は、(狭義の)BOMマスタと、マテリアル・マスタ、工順マスタの3つのマスタだ。中でも工順は重要で、その中には、時間とリソースの情報があるため、マテリアルのサプライチェーンを統御するために不可欠である。これに加えて、製造指図や製造実績報告などの履歴データ(この中にBOM履歴が格納される)がある。広義のBOMとは、こうしたさまざまな要素からなる、マテリアルに関連する大きな情報の体系を指している(下図)。

広義のBOM





BOMの問題を考える際には、狭義のBOMマスタだけの単体で考えてみても無意味である。広義のBOMの体系の中で、狭義のBOMデータが(あたかもDNAのように)どこで生まれ、どこに複製・転送され、どこで製品として具体的な肉体化されていくか、プロセスの視点から整理する必要がある。



広義のBOMの範囲を図に描いてみると、これが複数部署にまたがるマルチ・ファンクショナルな存在であることが目に見えてくる。たとえば、工順データは工程設計の結果として生まれるものだから、ふつう生産技術部門がオリジネーターとなる。製造指示データは生産計画部門がつくる。購買品目マスタは購買部門、といった具合である。たしかに狭義のBOMマスタ(製品構成情報)は最初、設計部門が作成するものだろうが、その中だけて考えていては全体の整合性などおぼつかないのである。



これは、とくに製造自体を外部に委託する動きが加速している昨今において、大事な視点である。製品開発だけが企業のコア・コンピテンシーであって、生産は“誰でもできる”力仕事だから、労賃の安い海外にシフトしようと言う傾向が2000年頃から強まっている。しかし、製造業のDNAであるBOMデータは、決して製品設計段階だけでまとまるものではない。もしも強い製造業を目指すのならば、強くて一貫性のある「広義のBOM」をどう維持していくかを考えなければならないのである。

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