APS
APS
革新的生産スケジューラ
Advanced Planning and Scheduling
「革新的生産スケジューリング入門」第5章
MRPの限界を打破した、より現実的で精度の高い生産計画・スケジューリング手法の総称。あるいは、それを実現するためのソフトウェアを指す。厳密な定義はないが、MRPの無限負荷計画よりもリアルで柔軟な制約条件を入れてスケジューリングできるものをAPSとよぶ事が多い。
筆者も理事を務めるNPO法人「ものづくりAPS推進機構」では、『ホワイトペーパー:APSの基本アーキテクチャーとシステム実装技術』(2004年12月)で、APSを次のように定義している。
「APSとは,プランニングやスケジューリングなどの組織の意思決定の要素を統合させ,さらに各部門が組織間や企業間の枠を超えて同期をとりあいながら自律的に全体最適を志向するしくみのことである.APSは,もともと米国にて1990
年代に提案されたコンセプトであり,拡張された詳細スケジューリング技術によって,企業間のサプライチェーンマネジメントを含む,製造業の全体最適化を指向したものであった.」
もっとも、この説明だけでは抽象的でいささかわかりにくい。もう少し今日的な言い方をするならば、APSとはERPのもつ計画機能の弱さを補完するものだ。ERPパッケージを生産管理分野に導入する企業は、APSとよばれる外部モジュールを追加し、両者を組み合わせて使うケースが増えている。ERPパッケージのほとんどはMRPⅡをベースとしたスケジューリング機能を持っているのに、なぜそれだけでは足りないのだろうか?
MRPのスケジューリングは、必要な資材を必要なときに必要な量だけ供給する、ジャスト・イン・タイムのロジックで動く。それは在庫ミニマムのリーン生産を実現する『最適スケジュール』を作成できるはずである。しかしMRPの解は、工場が無限に生産能力をもつことを前提として計算される。つまり、最適であるかもしれないが、実行不可能な絵に描いた餅のスケジュールになるケースが多々あった。
CRPとクローズド・ループMRPを上手に運用すれば、この欠点はある程度解消できるが、それでもまだ深刻な弱点が三つほど残る。
(1)能力以外の制約条件の考慮ができない。
現実の工場の生産スケジューリングには、多数の制約条件が存在する。たとえば治工具・金型の数の制約とか、中断不可能な作業の存在(複数日にまたがったスケジュールが許されない)とか、設備能力はあっても多能工作業員が足りない、などの制約である。こうしたケースでは標準リードタイムと標準能力の設定だけではうまくモデル化できない。
(2)生産効率の視点からの最適化ができない。
たとえば、代替部品や代替工程が複数存在する場合に、どちらを選ぶべきかの判断は、MRPでは自動化できない。あるいは、段取り替え作業に順序依存性がある場合(たとえば色の薄いものから濃いものへの切替時間は短いが、その逆は長い、など)に、適当に色の濃さを合わせて、順序づけて流す、などの工夫ができない。MRPにあるのは、在庫ミニマムという最適化だけである。
(3)工程レベルでの納期回答ができない。
MRPIIでは、MPSとATPによる製品レベルでの納期回答は可能である。しかし、飛び込みや急な変更、資材の遅延などにともなう納期照会に対しては、製造工程レベルで納期を追う必要がある。しかしMRPでは個別ロットと生産オーダーの対応関係(ペギング情報)が保存できないため、精確な納期回答が困難である。
そして、さらに大きな問題として、クローズドループMRPでは計画立案のサイクルタイムが長くなりすぎる点を上げなければならない。市場環境の変化が急速になった今日、週単位で計画をまわしていくことが望まれる。しかしMRP←→CRPの手戻りのため、計画の立案から確定までへたをすると3,4日かかってしまう。
こうした問題点を解決するために、高速かつ柔軟なモデル化能力を備えたAPSが登場したのである。
APSはふつう、ERPなど生産管理の実行系システムから、需要オーダー・在庫量などのデータを各種マスタデータとともにダウンロードする。そしてデータの整合性をチェックした後、スケジューリング計算に用いる。スケジューリングでは、需要オーダーをもとに部品展開をして、優先度とロットまとめを考えながら在庫の引当計算を行ない、個別工程における製造オーダーを作成する。そして着手日の計算と、能力の負荷山積みを行なう。
ここまでの手順は、MRPとよく似ている。ただしAPSでは『タイム・バケットを単位とした標準リードタイム』の考え方をとらず、作業時間を直接、個別に計算する。
作業時間=製造オーダーの所要量/割りつけた生産資源の処理能力+前後の段取り時間
作業の着手日計算は、納期から逆算するバックワード・スケジューリングで行なう。しかし資材などがネックになる場合は、納入を起点としたフォワード・スケジューリングをする。
この時点で得られているスケジュールは、まだ能力制約を満たしていない。そこでAPSは、高速で自動的に山崩しをして実行可能解を作成する。また代替部品や代替工順などの選定もこの中で行なわれる。このロジックの高速性が、APSの競争力のポイントである。
こうして得られたスケジュールを、APSはガント・チャートなどの形で計画者に対し出力表示する。スケジュールは、必ず人間の目で評価しなければならない。納期遅れが生じている場合、どれを優先し、どれを後回しにすべきか、あるいは加工外注でしのげるかなど、判断を機械まかせにすべきでない事柄が残っているからである。そして、GUIによって手で修正したり、あるいは条件を変えてケーススタディを行なったりといった作業を経て、はじめてスケジュールが確定する。
確定スケジュールは、製造部門に対して開示され、直近に着手すべき製造オーダーがディスパッチされる(つまり製造指図が差し立てられる)。そして、スケジュールファイルとして保存され、納期回答や次回のスケジュール立案のベースとして、利用されるのである。
ものづくりAPS推進機構のホワイトペーパーでは、APSの主要な要素技術として以下の事項をあげている。
・作業中心のBOMデータ管理(内部に工順を持つ)
・生産現場の詳細なモデリング
・有限能力&有限資材スケジューリング
・ボトルネック指向スケジューリング
・MPS詳細シミュレーション
・ダイナミック・フルペギング
・メタヒューリスティックによる最適化
これらは、どちらかというと内部機能的な観点のリストである。私は、これとは別に、「APS導入を考えるユーザがベンダーに聞くべき10の質問」として、以下の問いをあげたいと考えている。
(1)この製品は生産計画もできますか、それともスケジューラ機能だけですか
(2)この製品はBTOに対応できますか
(3)この製品は複数工場のスケジューリングができますか
(4)BOMの切替えや代替にはどのように対応しますか
(5)リソースにはどんな種類がありますか
(6)工順や設備・ライン・作業の選択は、どのような判断基準で行いますか
(7)ローリング・スケジュールのタイム・フェンスはどう設定できますか
(8)リモート・バッチで納期照会が可能ですか
(9)MESから進捗情報をとりこむ機能がありますか
(10)最適化機能のチューニング・ツールはそろっていますか?
念のためいうが、これらすべてが必須項目だという訳ではない。ただ、これらの質問に、ベンダーが的確に答えられなかったら、ちょっと心配だから誰かコンサルタントに相談されるといいと思う。そして、これらの質問の意味がユーザ側にとって半分以上わからなかったら・・もしかしたら、まだAPSの導入は早すぎるのかもしれない。