在庫精度

「革新的生産スケジューリング入門」第3章ディスカッション4

在庫量を調べるには人手と時間、すなわちコストがかかる。この単純な事実がしばしば忘れられるようになったのは、コンピュータが製造現場に普及して、在庫管理にも利用されはじめてからのことに違いない。それ以前の生産管理技法は、在庫量を調べるにはコストがかかることを前提に組み立てられていた。だからダブルビン法などのように、在庫量が発注点を切ったかどうかだけを見るような仕組みが工夫されたのだ。

コンピュータ以前の製造現場では在庫管理をどうやっていたかというと、倉庫番の持つ入出庫台帳で追いかけるしかなかった。入庫・出庫の手書きの数字を足し引きするわけだから、在庫量はすぐには分からない。品目別にページや欄を分けて記入すれば、個別の現在庫量は把握できたが、増減の傾向や、あるいは複数品種の合計値などをつかむのは至難のワザだ。またどうしても誤差が多かった。

そのために、きちょうめんな現品棚卸作業が要求されることになった。保管棚にある物品をいったん全部取り出して、数をかぞえ直す作業である。帳簿と数字が合っていなければ、帳簿の方を修正する。帳簿と現物の差を、在庫差異とよぶ。在庫差異を現在庫量で割った比率が『在庫精度』である。

在庫差異にはプラスとマイナスがあるため、単純に足し算をすると打ち消し合ってしまう。したがって工場全体で評価する際には、絶対値の合計をとる。通常は工場全体で1-2%以内におさえられる(そうでなかったら入出庫と保管のやり方にどこかおかしな点があるはずである)。また、扱う品種数の多い工場では、全品種をすべて棚卸ししていると膨大な作業になる。そこで、循環棚卸といって、一部の品種を順繰りに毎月チェックしていき、在庫精度を一定に保つような工夫がされてきた。

こうした手作業の現場に、コンピュータによるリアルタイム在庫が導入されたことの衝撃は大きかった。それまでは在庫数量といっても霞の向こうに朦朧とした姿があるだけだったのに、いきなり全ての数字が鮮明な写真のごとく見えるようになったのである。総在庫量の計算だって一瞬だ。しかし、このために、かえって在庫精度のことが忘れられるようになったように思える。

そもそも在庫差異が発生する理由はいくつかある:
(1)入出庫の伝票記入漏れ
 伝票を書かずにいきなり物を動かせば、数が合わないのは当たり前である。記入漏れの中には、保管場所を変更したのに、それを訂正しなかった、なども含まれる。
(2)減耗・破損
 物品の中には、有効期限や賞味期限などがあって使えなくなるもの、あるいは保管中に破損する物があり、これらは在庫差異の原因になる。
(3)盗難
 日本ではあまり心配が(今のところは)無いが、きわめて高価な物品や、あるいは外国の工場などでは常に注意が必要である。
(4)品質管理上の区分移動
 不良品はふつう在庫に計上しない。しかし、良品と信じて受入れ入庫した物が、品質検査の結果はねられることはときどきある。この際に、在庫量からの差し引きを忘れるのである。
(5)移動中
 同じ社内で、資材をA工場の倉庫からB工場の倉庫に横引き移動するとき、A工場から出庫処理をして在庫が減り、一方まだB工場では入庫計上されないと、在庫が一時的に見えなくなってしまう。荷物として車上にある物に、ともすると起こりがちなことだ。
(6)支給品在庫・預かり在庫
 外注先に対して支給した材料は自社の資産だから、在庫量に計上しなければいけない。これが見えなくなることがある。また逆に、客先からの預かり在庫(製品として所有権は客先に渡して代金ももらったが、まだ自社倉庫に保管しているもの)も在庫差異をうみがちなポイントである。

米国の生産コンサルタント、オリバー・ワイトは’80年代のはじめに、「在庫精度が5%を切れないような会社では、MRPなどの生産管理システムは使えない」と書いている。在庫精度の向上維持は、一見当たり前のことに思えるが、当たり前のことを当たり前に実行することは、案外、努力のいるものなのである。