半製品の適正在庫量を計算する

半製品の適正在庫量を計算する

およそどのような種類の製造業でも、ある共通した法則がある。それは、サプライチェーンの上流側(原料に近い方)では、見込み生産で作らざるをえないのに対して、サプライチェーンの下流側(最終消費製品に近い方)は受注生産による供給を求められることである。半導体用のシリコンは、特定の需要家が決まっていなくても量産できる。しかし、コンピュータのサーバは、顧客の注文の仕様に合わせて、工場で組み立てて供給する。

寿司屋のカウンターに座って、お好みで食べるのは、寿司屋(これは立派な食品製造業だ)に、受注生産を依頼していることになる。ところが、寿司屋の方は、注文を受けてからマグロを買いに行ったりご飯を炊いたりはしない。酢飯はあらかじめ作っておき、食材もあらかじめ仕入れておく。あるところまでは見込みで生産しておくのだ。そして注文を受けたら、ストックして置いた半製品を組み立てて(むろんそこに技巧があるのだが)握りやチラシを作るのである。だから寿司屋はデル・コンピュータと同じ、BTO方式の生産をしていることになる。ただし、売れ残ったら、寿司屋がリスクをとる。デルの場合、在庫は部品メーカーの資産としているので、何のリスクもとらない点が違う。

寿司屋の酢飯のような『半製品在庫』を、仕掛りと混同してはならない。『仕掛り』(英語でWork
in Process, 略してWIPと呼ぶ)とは、生産の前工程と後工程の間に、一時的にたまってしまうモノを指す。これは本来、前工程と後工程を完全に同期化できていれば、発生せずに済んだ存在、つまり「できちゃった在庫」である。産出されるはしから、消費されていくべきものだ。これに対して、半製品在庫は意図して持っている在庫である。

それでは、このような半製品や中間品の適正な在庫量(ならびにその保管スペース)は、どのように決めるべきだろうか。不思議なことに、在庫理論の本を見ても、あまりすっきりした説明がない。製品や原材料の安全在庫量については、あれこれと説明や数式があるのに、である。また、ERPパッケージやAPSパッケージの多くは、MRPの所要量展開の計算ロジックを実装しており、そこでは中間品・半製品に対しても基準在庫量を設定できるようになっている。しかし、その値をどのように設定すべきかについては、指針らしい指針がないのである。これは、半製品の需要が、いわゆる『従属需要』に属していること、そして計画生産における変動の取り扱い方法が考慮されていないためである。

私の考えでは、半製品の最大在庫量は、次の4種類の要素の合計で計算できる。

半製品の最大在庫量 = 計画ピーク在庫量 + 需給ギャップ在庫量

          + エージング在庫量 + 需要誤差安全在庫量

(1)計画ピーク在庫量:

これは中期計画的な『つくりだめ』のための在庫量である。強い季節性そのほかの要因によって、年間を通して生産量を平準化できない業種は多い。工場の製造設備も、ピーク・シーズンに堪えきれるほどの能力は持たないのが普通である。そこで、こうした業種では、需要の閑散期に意図的につくりだめをしておいて、繁忙期にそなえる。年度ごとのマクロな需要の読みにもとづいて、これを設定する。一品受注生産の業種では、最終製品に近い段階でのつくりだめはしないが、部品の共通化を推し進めている会社では、部品レベルでの計画ピーク対応が必要になる。

(2)需給ギャップ在庫量:

需給ギャップとは、需要側と供給側のハンドリング量の差異に起因する項である。もし仮に半製品Aの需要と供給が、平均的には1日100個のペースで完全にバランスしているとしても、供給側(上流工程)の製造ロットが200個(つまり2日に1ロットの生産)で、消費側(下流工程)の製造ロットが10個だったら、あきらかに瞬間的には最大200個=2日分の在庫を持たざるをえない計算になる。平均値は1日分である。一般的に、供給側ロットの方が消費側ロットよりも大きい。この差が、需給ギャップ在庫量となる。

また、BOMをさかのぼって、半製品Aが部品x・y・zの3品目から組み立てられるとき、xの供給ロットが100個、yの供給ロットが40個、zの供給ロットが150個だったらどうか。かりにx・y・zは、それぞれ1日に1ロット、2.5ロット、そして1.5日に1ロット供給されることになる。消費側は、100個ずつ、毎日1ロット製造に消えていく。この場合、部品xの在庫量は(うまく同期されている限り)最大で100個である。しかし部品yは、どううまく同期化しても、最大で120個を積み上げている瞬間が必ずある。部品zは、最大200個を持つことになる。これが需給ギャップによる在庫である。

(3)エージング在庫量:

これは、製造上の理由から、ある程度の日数「寝かせて」置かなければならない品目の在庫である。一番端的な例はウィスキーやワインの原酒であろう。寝かせているといっても、その間に内部では反応が進行しているわけで、見かけ上はストックに近いが、一種の製造工程にあたる。また検査に時間がかかり、合格判定まで保管が必要なものも、これに相当する。

(4)計画誤差安全在庫量:

これは、計画生産をしている場合の、「計画精度」(需要予測精度)の悪さに起因する項である。月末までに100個つくるという計画で手配をしていたのに、直前になって「やっぱり120個くれないか」と営業からFAXがくる、そうしたシチュエーションに対応するために置くべき在庫量である。あるいは、製造現場から、「品質が安定しなくて、どうしても90個しかできませんでした」という状況の場合もあるかもしれない。

これが最終製品で、しかも計画生産ではなく、製品在庫による顧客需要(独立需要)への対応のみのケースでは、いわゆる「安全在庫量の理論」と同じ計算式になる。計画生産のときに、計画の精度を数値的にどう計算するかは、「計画生産における安全在庫量の設定」に書いたとおりである。また半製品は従属需要になるため、最終需要の計画誤差を員数で展開した上で、親品目の安全在庫量のカバーレンジを考慮して決める。しかし、通常はそんな計算は複雑すぎてやっていられないだろう。そこで、平均需要(下流工程の消費速度)に基準日数をかけて、決めることが多い。

ついでにいうと、いわゆるカンバン方式における仕掛カンバンの枚数を決める問題も、同じである。ただし、御本家トヨタ自動車の場合、徹底した平準化とライン同期化と計画需要の保証によって、最後の第4項だけで済んでいると思われる。

Follow me!