計画生産における安全在庫量の設定

安全在庫は広く用いられている考え方だ。需要の急な変動に対応するために、意図して置く在庫をそう呼ぶ。とくに製品の需要がある程度一定していて、平均値のまわりを変動するような場合には、安全在庫量は数式で計算できる。そのためには統計学で言う『分散』の値が必要だ。

分散とは平均値からはずれる度合いを示した値であり、(個別実績値-平均値)の2乗の総和を、(データの件数-1)で割ったものである。分散の平方根を標準偏差というが、この標準偏差が小さければ小さいほど、需要変動のばらつきも小さい。そうしたケースでは、安全在庫量も少なくすることができる。

需要自体は、メーカー側でコントロールすることは不可能だ。多少の広告やキャンペーンで一時的に刺激することはできる。そうすれば需要の平均値は上がるだろう。しかし、需要の変動パターンまではとうてい支配できない。安全在庫量は、平均値ではなく標準偏差の値で決まるので、結局、安全在庫量自体を減らす方策は無いことになる。

ここまでの議論は在庫管理の参考書などにも解説されていることだ。ところで、この議論には前提がある。それは、商品の注文があったら在庫から引き当てて出荷し、その在庫レベルが減ったら生産指示を出す、という「ひっぱり型」の生産方式をとっていることだ。ここには需要の予測という観点が、全くない。

実際には、季節性の強い商品を生産しているメーカーでは、このような単純なひっぱり型(在庫補充型)方式はとっていない。年間ベースの需要変動を用いたら、安全在庫量が大きくなりすぎて、やっていられないからだ。そのかわりに、こうした企業では計画生産を行なう。閑散期に需要を先読みしながら前倒し生産をして在庫を積み増し、農繁期になると必死に売りさばく。では、こうしたケースでは、安全在庫量はどう設定すべきだろうか?

いや、季節製品ばかりではない。今日では、多くの製造業が、多かれ少なかれ計画生産を行なっている。そしてMRPをまわして資材手配をかけたりしている。こうしたMRPのシステムにも、製品別・月別に安全在庫を設定する機能がたいてい付いている。だが、MRPの安全在庫量とは、どのように設定したらいいのだろうか。

じつは答えは、簡単だ。需要の予測をしなかったときの安全在庫量は、需要の標準偏差から定めることができた。それなら、需要を予測したときの安全在庫量は、
予測誤差=(需要予測値-需要実績値)
の標準偏差をもとにして計算すればよいのだ。予測精度が悪ければ、ばらつきを示す標準偏差も大きくなり、たくさんの安全在庫がいる。もしも需要予測が完璧で、ぴったり実績値どおりだったら、安全在庫量はゼロでいい。なぜなら、安全在庫とは予期せぬ変動に対応するためのもので、完璧な予測のもとでは予期せぬことは起きないからだ。

これを言い直すと、計画生産のもとでは、需要予測の精度を上げれば、安全在庫量はどんどん減らしていけるのである。「ひっぱり型」生産よりも、先読みによる計画生産の方が、少なくとも在庫減らしの点では、明らかにアドバンテージがある。

それでは、どうしたら予測の精度を上げることができるのか? 『コンサルタントの日誌から』に以前書いた「需要予測を可能にするもの」(2002/06/01)でも触れたとおり、基本的には計画サイクルを短くすることにつきる。これこそが、計画機能の確立と強化が在庫削減にむすびつく理由なのである。