日数基準による発注点と安全在庫の計算法

日数基準による発注点と安全在庫の計算法 (2007/04/02)

従来の在庫理論は物量、すなわちモノの数量をベースに構築されてきた。部品資材は大量に発注して安く買いたい、発注の手間も省きたい、でも欠品も避けたい--そこでどうすべきかが、問われてきた。これは、生産管理学発祥の地である米国が、抜きがたい大量生産志向をもっていたことと、多少関係があるように思える。

ところで、すでに何度も書いてきたように、在庫とは時間の缶詰めでもある。ストック在庫を持つ理由は、あらかじめ在庫の形で時間を先取りしておいて、受注から納品までの製造リードタイムを短縮したいからだ。これを考えると、在庫理論は物量基準ではなく時間(日数)基準でアプローチしたほうが有用なこともありそうだ。事実、発注点の決め方は日数基準の方が簡単になる。今回はそれを説明しよう。

発注点方式による在庫コントロールが適するのは、ABC分析でBCランクに分類されるような、使用量が比較的小さいものだ。毎日何十個も何百個も使用される部品はむかない。どちらかというと、ぽつりぽつりと消費されていくタイプの品目が適当だ。たとえば、受注生産、それも個別受注生産の企業なら、間歇的に受注があって、そのたびに部品が必要になるから、ストック在庫の部品はこうしたパターンで消費されていくだろう。

個々の受注(=消費)が間歇的で、一定期間でならせば平均的には安定しているが、受注が互いに独立している(周期性もなく団子状態でも来ない)としよう。このとき、受注の間隔をしらべてみると面白いことがわかる。受注間隔を横軸にとり、その頻度を縦軸に(ただし対数で)とって片対数グラフを描くと、右下がりの直線になるのだ。これをポアソン到着という。単発的で比較的頻度の低い出来事はみな、ポアソン到着になることが知られている。たとえば(楽しい例ではないが)地震の生起はこの形になる。だから、大地震の直後には余震が起きやすい。間があくほど、確率は低くなる。しかし間隔の平均値は存在して、実績から計算できる。

さて、いまある部品の消費実績を調べたら、平均τ日の間隔でぽつりぽつりと使用されることがわかったとしよう。一方、この部品を購買手配してから納入されるまでの購買リードタイムは日だとする。たとえば、鋳物部品で、使用間隔は7.5日間、購買リードタイムは1ヶ月(30日)としようか。

発注点の基準は、購買リードタイム期間中に消費される数量だ。それはL/τで与えられる。この例では4個になる。逆に言うと、4個は30日分に相当する。発注点のレベルを日数で測るなら、それはL日(すなわち30日)になるのである。

ところで、これは安全在庫を無視したときの数字だ。実際には、受注間隔に変動があり、しかも短い期間に続けてくる確率の方が高いわけである。だから安全在庫は必要だ。こちらはどう決めるべきか? そもそも安全在庫とは理屈と現実をすりあわせる潤滑油のようなもので、安全在庫のない在庫管理なんて、オイルを入れずにギアボックスをまわすも同然である。

ところで、平均間隔τ日でポアソン到着する出来事(部品使用)が、一定期間L日内に何回発生するかは、じつはL/τだけで決まる。その確率パターンはやや右に尾を引いた山形になる。上記の例では、次のようなグラフになる。つまり、1ヶ月間に3個消費される確率が約2割、4個消費される確率も2割ある。ぜんぜん出ない確率も、2%ほどある。5個以上出ていく可能性、つまり欠品の危険性も、かなり(37%)ある。

面白いことに、このグラフの形はLとτの比だけで決まるから、L=20日、τ=5日でも同じ結果になる。購買リードタイムの絶対値にはよらないのだ。このグラフの形をポアソン分布と呼ぶ。また、ポアソン分布の標準偏差は平均値の平方根になる、といった性質があるのだが、ここではちょっと忘れておこう。

さて、この例で、欠品の危険率を5%以下におさえたかったら、どうすべきだろうか。答えを先に言うと、発注点を7個におけばよい。すなわち、安全在庫=3個である。ちなみに、発注点(日数基準)をP、購買リードタイムをL、平均使用間隔をτであらわすと、

P = 1.4 L+1.1τ (日)

で近似的に求めることができる。上の例で言うと、約50日分強だ。実に簡単である。このように、日数基準の生産管理理論の可能性は、もっと研究されていい分野だと、私は考えている。

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