「マイナス在庫」の意味 (2007/01/18)

サプライチェーンにおける在庫問題を考えるとき、だれしも一番違和感を感じるのは『マイナス在庫』という用語に突き当たったときではないか。「マイナス在庫を許すべきか、どうか」というような問題で、大のおとなが議論をたたかわすのは、奇妙な光景といえなくもない。だって許すも許さないも、在庫の量なんてマイナスになりようがないはずではないか。

たしかに、在庫量を「倉庫にある現物の量」と理解すれば、ゼロになることはあっても、マイナスになるはずなど無い。しかし、在庫の話は、そう単純ではないのだ。なぜなら、そこには二つの要素、帳簿在庫と引当の概念がかかわっているからだ。

まず帳簿在庫の話からしよう。これは理論在庫とも言う。“帳簿在庫”とは“実棚在庫”と対比される概念である。実棚在庫(現物在庫)は文字通り、倉庫の棚の上に実際にある数量だ。これに対し、理論在庫の方は、帳簿上の入庫と出庫の差し引きから、「現在これだけの数量があるはず」と計算された結果である。先月のおわりに、部品Xは2個あった。今月、さらに3個、サプライヤーから仕入れた。しかしすでにこれまで4個、製造に使用した。だから、

 理論在庫=前期末の在庫量+供給量-使用量
 
で、つごう2+3-4=1個残っているはずだ、と考える。ところが、たまにおかしな事が起こる。たとえば、「じつは今週さらに製造ミスで2個よけいに使用しました」という報告が追加で上がってきたりするのだ。なぜ!? そうしたら在庫量は2+3-4-2=マイナス1個になってしまうではないか。あなたはあわてて倉庫に確認に行く。すると棚にはまだ現物が2個残っていて、あなたは狐につままれたような気分になる。

こうなるケースのほとんどは、「前期末の在庫量」が正しくなかったためだ。ほんとうは、前期末には4個残っていたのだろう。上の式の表記はじつは不十分で、「前期末の理論在庫量」とすべきだ。そして、理論在庫(帳簿在庫)は実棚在庫とは必ずしも一致しない。これがいかに一致するかは、在庫精度という尺度で測る。そして両者を一致させるために、定期的に棚卸を行なうわけである。

むろん、これ以外に、供給量や使用量の数字に誤差があって、帳簿上のマイナス在庫が生じるケースもある。たとえば材料の使用量は製造ラインで機械がリアルタイムにカウントして行くが、補充による供給量は手書き伝票の転記入力で1日遅れる、などというのはよくある話だ。こうなると、その1日間は理論在庫がマイナスになってしまう。

マイナス在庫が発生する第二の要因は、『引当』である。引当とは、“今後消費する予定です”という、一種の予約行為だと思えばよい。予約であるから、現物としてはあいかわらず棚の上にある。しかし、見かけ上は12個あっても、そのうち8個は、すでに来週の生産に使う予定かもしれない。したがって、「未引当在庫」は4個という事になる。ところが、何か緊急の事態が起こって、棚の上から部品を10個出庫して、使用にまわしてしまった。このとき、現物は2個、棚の上に残っているが、未引当在庫はマイナス2個、ということになってしまう。このままでは、来週の生産に支障がでることになる。

在庫品のコントロールをコンピュータ・システムでやっているとき、もしマイナス在庫を許さなかったら、どうなるだろうか(コンピュータは帳簿の一種であり、その中の在庫数値は理論在庫量であることに注意してほしい)。そうすると、目の前に現物があっても、製造に使用できないという事態が生じる。と同時に、未引当在庫にマイナスを許したら、どうなるか。すると、製造予定を無視して出庫できることになるから、製造現場が欠品で混乱することになる。どちらもうまくないようだ。

このような矛盾が起こる根本の理由は、在庫という量を1点で、すなわち現時点で考えているためだ。じつは「引当」という行為は、その中に『未来の在庫使用』を考えている。すなわち、時間軸を伴う未来在庫の概念を内包しているのである。

在庫は時間で計るべきだ、と「時間を在庫する」(タイム・コンサルタントの日誌から、2006/12/12)で書いた。かりに在庫を数量で計る場合でも、それは時間軸に沿った数量として考える必要がある。先ほどの例でも、もしかしたら来週頭にはさらに3個、補充される予定かもしれない。だとしたら、べつに10個出庫しても、来週の生産には困らないのだ。このように、マイナス在庫の問題は、時間の視点から考えてみて、はじめて正しい方針が決められるのである。