決して電子黒板のマーカーペンのインク切れを起こさない方法を、「ホワイトボードの謎 - 在庫の「見える化」の効用」(『考えるヒント』2006/09/12)で紹介した。同じ色のペンはつねに2本ずつ用意する。1本が書けなくなったら備え付けのビニール袋の中に、その場ですぐ捨てる。補充係が定期的に電子黒板を見回って、ビニール袋から不用になったペンを回収し、同色のペンを補充しておくのである。

お気づきの方も多いだろうが、このやり方は「ダブルビン法」と呼ばれる在庫管理方法の応用である(「ツービン法」と呼ばれる場合もある)。ダブルビン法とは、資材を保管するときに、半分ずつ別の容器に入れ(あるいは二つ棚を用意し)、その片方が無くなったら、補充手配をかける方法である。上記の例では、使用済みペンをビニール袋に捨てる動作が、すなわち補充手配に相当する。似たようなやり方は、乾電池であるとか、感熱ロール紙であるとか、切れるとちょっと不便なものにも応用できる。私の知っている人は、お米をこのやり方で買っていた。小型の米びつを二つ用意して、片方が切れたら買いに走るのだ。

ダブルビン法は“簡易在庫管理”手法だと言われることが多い。ダブルビン法が適している在庫対象は、次の3つの特徴に合致するものだ:(1)欠品すると困る、(2)比較的安価である、(3)消費量は多くないが比較的安定している--電子黒板のマーカーペンは、この条件にたしかに合致している。つまり、切れると困る(緊急性がある)が、重要と言うほどでもない品目だ。ついでにもう一つ例を挙げるなら、よくデパートのトイレットペーパーで、予備のロールがついているホルダーを見かける。あれもダブルビン法だ。たしかに安価だし、在庫が無くなるととても困るし。

いわゆる在庫のABC分析をやったとき、BC分類に入るもので上記3条件を満たす場合は、ダブルビン法が楽である。しかし、なぜ楽なのだろうか? この点を突き詰めた考察はあまり見たことがない。じつは、ダブルビン法は、在庫数量をカウントする手間がいらないから楽なのである。在庫量を把握するには、手間とコストがかかる。そして必ずしも簡単ではないのだ(マーカーペンの中のインクの残量を測れるかどうか考えてみてほしい)。在庫管理理論は、この点をあまり強調していないようだが、モノの数を把握するには、コストがかかるのだ。

ダブルビン法は、在庫チェックと補充手配を同時に“見せる”ことができる点がすぐれている。この技法は、発注点を切るまでは、いちいち在庫量を測定する必要はない、との考え方が根底にあるのだ。

そのかわり、最大在庫量の半分を発注点としているため、平均在庫量は多めになる(だから単価の安いものにしか向かない)。また需要変動が激しく、あるとき一瞬にして全在庫が無くなってしまうようなタイプの品目にも向かない。

ペンやロールのように、物理的に2個セットにできるものは簡単だが、お米のように1kgでも2kgでも5kgでも、好きな分量に分けられるものは、どう水準を設定すべきだろうか。これは、先々の説明にも関係するので、今は答えを書かないでおく。ちょっと考えてみてほしい。

ところで、最初に書いたマーカーペンの補充だが、一点だけ問題があることにお気づきだろうか? じつは、マーカーが2本トレイに置いてあると、使用者は両方のペンをランダムに使うことになる。すると、2本が同時にインク切れになる可能性もあるのだ。同じ問題は、トイレットペーパーでも起こる。たまに、単純なホルダーを二つ並べているトイレを見かける。両方のロールが使われていく。すると、どちらも残量が僅少になっていくケースがあるわけだ。これではダブルビン法の意味になっていない。

ダブルビン法を成り立たせるためには、すなわち、二つある在庫の内、使うのはつねに一方だけで、残りは必ず全量残っている状態にするべきなのだ。だから、同じペーパーホルダーを二つ並べてはいけない。マーカーペンでは、どうすべきか。答えは簡単だ。補充した新品のペンには、テープかシールを貼っておく。そして、新品と使用中のペンが並んでいたら、必ず使用中のペンを使い続けるようにすれば良いのである。