外注のスケジュール・コントロール

カミカゼ・タクシーという言葉があるなら、その運転手にこそふさわしい呼び方だった。ある外国企業とジョイント・ベンチャー・プロジェクトを始める打合せのために、我々は空港からタクシーを拾ったのだった。目的地まで何分かかるかたずねたら、運転手は答える代わりに猛スピードで走り出した。高速道路を時速120km以上で飛ばしながら、混み合う車の列を、ほんの10cm間隔ですり抜けて走る。

「寿命が縮むかと思ったよ。」目的地について、助手席からふらふらになって降りた営業部長はそう言った。「ガイドブックには約40分って書いてあったが、たった15分で来たものな。」

初顔合せの相手と組んでプロジェクトを始める時の気分は、初めての外国でタクシーに乗る時の緊張に、少し似ている。道は分からず、言葉はロクに通じず、しかも荷物も時間も相手に任せきるしかない。ひどい回り道をされて、余計な運賃を請求されるケースも多い。かのカミカゼ運転手は、最短経路を最短の時間で運んでくれて、メーター通りしか請求しなかったのだから、まだ良心的な部類だったと思うべきだろう。

私の勤務先・日揮はエンジニアリング会社だが、プロジェクトの8割近くが海外向けである。国も場所も毎回異なるため、初顔合わせの相手とパートナーを組んだり、初めてのベンダーから重要な資材を買ったりしなければならないことが多い。相手を選ぶときは会社が定めた手順に従い、慎重にも慎重を期するし、契約書や調達仕様書には成果物も納期も品質も支払い条件も、事細かにしばりを入れている。

だが、それでも、予定通りに満足すべきアウトプットが出てくるかどうか、勝手に余計な回り道をされて、追加の手間や費用が発生しないか、ひやひやしながらつき合わなければならない。相手に支払うコストや役務のスコープは、状況を見て増減できる。しかし、時間はいったん失ったら二度と戻ってこない。身柄をあずけてタクシーに乗るのと、同じ気分なのだ。

気心の知れた相手と、くり返し同じ種類の仕事をする時と比べて、初顔合わせのプロジェクトでは、過去の経験値がない分、プロジェクトの進め方に注意が必要となる。では、初顔合わせの相手とのプロジェクト・スケジュールを立案する時は、どうやって期間(納期)の見積をすべきだろうか?

答えは簡単で、相手に聞くしかないのだ。--タクシーと同じである。旅行ガイドブックには目安の時間が書いてあるだろうが、混雑状況次第でいくらでも変わりうる。自社内で仕事をやる場合や、系列企業に発注する場合は、「これこれの期間内でやってほしい」と依頼することができる。しかし、未知の相手と初めて組む場合、過去の経験値の蓄積がないから、向こうの納期回答をまず聞く必要がある。

大事なのは、この時の聞き方である。単に納期をたずねるだけでは不十分だ。必ず、結果に至るプロセスをたずね、そのステップごとに工期を分解して聞く。そして、どこでチェックポイントを入れるか、考えてみる。

たとえば、エンジニアリング業界で資機材を調達する場合、ベンダーに発注書を出してから、納品まで腕組みをして待っているようなことは絶対にしない。資機材のほとんどが個別受注生産品であるため、発注の後にも、
 (1)キックオフ・ミーティング
 (2)設計図面の提出と承認
 (3)主材料の購買手配
 (4)工場での製造開始
 (5)工場立合い検査
 (6)工場出荷
 (7)納入先到着
といったマイルストーンを定めて、それぞれの予定期日をたずねる。このように分解すると、従来経験した類似のケースから見て、相手の見積の妥当性を部分的には検証できるようになる。

無論、こうした方法をとっても、相手の納期回答を完全に信頼して良いものか、確証はできない。そこで、初顔合わせの相手を選ぶときは、納期だけでなく、相手のスケジュール管理能力自体を評価する必要が出てくるのである。

たとえば、「チーム員は毎日、工数実績と進捗を記録していますか」という質問をしてみる。日報や週報を、勤怠管理の一環として、記録させている会社は多い。しかし、たいてい実態は、週1回まとめて書き込むだけだ。実績工数の集計結果が出るのは月1回だったりする。しかも進捗状況までは記録していないケースが多い。理由は、進捗の測り方(業務プロセスやWBS)が標準化されていないからだ。

これでは、プロジェクトが今どこまで進んでいるのか、あとどれだけ工数(費用)が必要なのか、リアルタイムに把握できない。たとえて言えば、たまにメーターを見るだけのタクシーの客と同じで、なりゆきまかせだ。これで予定通りプロジェクトが完了したらおなぐさみである。

ところで、最近はGPSとカーナビを積んだタクシーも増えてきた。自分の位置がリアルタイムに把握でき、到着時刻も見積もりやすい。ならば、現代のホワイトカラーが集まって進めるプロジェクトだって、GPS的な仕組み=進捗マネジメント・ソフトウェアが必要だと、そろそろ気づくべきだろう。

ただし、いかに精密なGPSを積んでいても、偶発的な渋滞が起こるのを防ぐことはできない。プロジェクトでは必ず、計画外のリスク事象が起こる。プロマネはそれを事前に察知して、『渋滞』を避けるよう進路を変える能力を持たなければならない。

そこで、私は、初顔合わせの相手から見積をもらったときに、上記とは別に、相手のプロマネに対して、必ずこう質問することにしている:

 「あなたのスケジュールのクリティカル・パスは何ですか。そして、スケジュールのリスク要因は何と何ですか?」

これに満足に答えられない相手とは、原則として仕事をするべきではない。たとえ仕事をするとしても、こちら側がスケジュール・コントロールにかなり工数を割かなければならないだろうと、覚悟して実行予算を決める。

理由は明らかだろう。クリティカル・パスとリスクを読むこと--これがスケジュール管理能力の最大のポイントだからである。