所要時間の見積り--時間と期間の差

スケジュール計画立案の中心は、時間の見積だ。これから行なわなくてはならないタスク(課業)の所要時間をどう見積もるか。この正確さが、計画全体の信頼性を決めるといっても過言ではない。

タスクの時間見積には、一点見積と、三点見積法がある。一点見積とは、文字通り、作業時間を一点で見積もる方法だ。たとえば、「外部インタフェース設計」というタスクがあったとして、その作業時間は3週間、というたった一つの値を、いきなり見積もる。それが過去のデータを整理して求めた値だろうと、あるいは経験者が“エイヤー”で決めた値であろうと、最初から一点で答えを求める方法が、一点見積だ。生産計画手法としてのMRPが、BOM(部品表)に付随してもっている標準リードタイムは、その典型だ。

それに対して、三点見積法は、確率的変動に基礎をおいている。同じ作業を繰り返し行なっても、所要時間にはいろいろな幅がでる。そこで、所要時間の「最善値(=最短期間)」「最悪値(=最長期間)」「最頻値(=その期間でおわる頻度が最も高い値)」の三種類の数字を見積もる。そして、
 推定所要時間=(最善値+最悪値+4×最頻値)÷6
という式によって、所要時間を求める。

三点見積法は、PERTの歴史とともに生まれた。その背景には、所要時間はさまざまな外的要因によって変動するため、確率的にしか定まらないという思想がある。しかも、その変動の形は、平均値のまわりに対象に分布する正規分布ではなく、プラス側(右側)にダラ下がりとなる、非対称な分布だろうと考える。その一つのモデルとしてベータ分布を用いると、上記の式が得られるのである。

しかし、この二種類の時間見積法には、ともに欠点がある。それは、総所要期間と純作業時間の区別が十分にされていない点だ。

総所要期間(elapsed time)とは何か。それは、タスクにとりかかってから、それが完了するまでの、全体の期間だ。「総所要期間=終了時刻-開始時刻」と定義してもよい。一方、純作業時間(duration)とは、作業者がそのタスクを完遂するために、本当にそれにかかわっている時間だ。前者は後者よりも、通常長い。総所要期間≧純作業時間となるのが普通だ。

それでは、なぜその両者に差が出るのか。プロジェクト・マネジメントの教科書的ガイドブック「PMBOK Guide」では、コンクリートの養生作業を例にとって、実質2日間のdurationで終わるはずの作業も、金曜日に始めたら週末の二日間の休日のために月曜日いっぱいかかり、実質4日間のelapsed timeになるかもしれない、などと説明する。これは、カレンダー日数と、終業日数の違いから来る、単純な例だ。

しかし、差異の本当の原因は、じつは作業者のマルチ・タスキングから来ることが多い。作業者が複数のプロジェクトのタスクに従事しているとき、おのおののタスクに着手から完了までつねに没頭できるケースはまれである。往々にして、別のプロジェクトの用件の邪魔が入り、作業を中断したりスイッチしなければならない。このために、総所要期間≧純作業時間となるのである。

かりに一歩譲って、マルチタスクによる割り込みや時間の分散がなく、担当者がつねに一時に一つのプロジェクト・タスクに従事したとしても、総所要期間≧純作業時間 となる場合がある。それは、その担当者の決済箱にたくさんのタスクが入ってきて、処理待ちの行列を作っているときである。

これはちょうど、大病院は3時間待ち・3分治療だ、という皮肉と同じ現象である。一人一人の患者に対する医師の作業時間は3分だ。決して複数の患者をマルチタスク的に並行して診ているわけではない。しかし、大勢の待ち行列のために、患者の側から見ると作業期間は3時間になってしまう。

プロジェクトにもこれと同様の事象がおこる。特定の繁忙部署やボトルネック工程の前には、長い行列ができている。PERTCPMの弱点は、ここだ。クリティカル・パスは純作業時間ではなく、総作業期間の長さで決まる。しかし、この例のような状況では、一つのプロジェクトの中だけを見ても、クリティカル・パスは定まらない。かといって、『平均滞留率』のような曖昧な指標にたよるのも、ありがたくなかろう。

プロジェクト・スケジューリングにも、複数のプロジェクトを同時に計画し、うまく優先順位法山崩しのできるツールが求められているのは、このためなのである。もっともその場合でも、プロジェクト間のトレードオフは、計画者の判断が必要になるのであるが。