なぜ、人を追加すると納期に遅れるのか?

「遅れているプロジェクトに人を追加すると、もっと遅れてしまう」という言葉は、名著『人月の神話』を書いたBrooksの警句だ。Brooksは1960年代のはじめに、IBMで伝説的な汎用機SYSTEM/360のためのOSである、OS/360を開発したプロジェクト・マネージャーだった。彼が後にNorth Carolinaの大学に移って著した『人月の神話』(Mythical Man-Month)は、ソフトウェア開発のプロジェクトがいかにリスクが高いものであるかを詳しく書いた古典である。

プロジェクトが遅れそうだからといって新たに人を追加しても、その新規要員の教育・知識習得のための立ち上がりの時間がかかるのは、周知の事象だ。しかし、そればかりか、プロジェクト・メンバーが増えると、ふつうはその数の自乗に比例して、要員間のコミュニケーションの時間が増えてしまうため、思ったほど工期短縮には寄与しないとBrooksはいう。

しかし、プロジェクト・スケジュールがある特殊な条件を満たすと、コミュニケーションの因子を抜かしても、要員増が全体スケジュールの延長をもたらすことがある。その特殊な条件とは、(1)要員は多能工で、どのタスクでも担当可能である、(2)要員の手待ちが発生したら、その時点で着手可能なタスクにすぐ着手する、(3)タスクの遂行は途中で中断してはならない、の3点である。いかにも当たり前に思われるこれらの条件下で、いかにしてパラドックスの事象が起こるのか、拙著「革新的スケジューリング入門」の第2章に例示した、下記のアロー・ダイアグラムでPERT/CPMの手法をつかって検討してみることにしよう。

要員2人の場合に、各人の着手すべき作業をガント・チャートの形にすると、下記のようになる。工期は全部で41週である。

ところで、要員が3人の場合に、同じくガント・チャートを作成すると、次のようになる。つまり、工期は全部で49週かかり、2人の時よりも延びてしまうのだ。

なぜ、このような現象が起きるのか? 図でわかるとおり、このプロジェクトには、大きくわけて3つのパスがある。図の上段の機器の概念設計から外注製作までのパス、中段のコンテンツ企画から印刷までのパス、そして下段の広告企画・制作のパスである。そして、クリティカル・パスは、図中で赤く示したA→E→Iのパスで、合計41週かかる。これはまさに、2人で実現した工期である。これ以上、いくら人間を投入しても、プロジェクトの工期は短縮されないのだ。

それどころか、人間を3人に増やすと、皮肉なことに、2人の場合は並行して分担することができたタスクDとタスクEを、同じ人間が連続して担当せざるを得なくなる。なぜなら、他の2人は「手待ちを許さない」という上記(2)の条件により、別のタスクがすでに入っているからだ。

もう一つ、もっと逆説的な現象がある。このプロジェクトの各タスクの所要期間を、すべて1週ずつ短くしたとしよう。そうすれば、当然プロジェクト全体の工期も短縮するはず--である。だが、下のガント・チャートを見ていただきたい。そうはならないのだ。工期は全部で45週になるのである。

これも、「手待ちを許さない」着手ルールのせいである。そもそも、プロジェクトの工期を短縮するには、並列して作業可能なタスクは、極力並行して進めることが鉄則である。PMBOK Guideでいう「Fast Tracking」という技法は、クリティカル・パス上の直列(Finish-Start関係)に並んだタスクを、並列(Start-Start関係)に変えることによって、工期短縮をはかっている。

じつは、上記の例でこの並列作業をするには、要員が着手可能なタスクをあえて置いておき、意図的に手待ち状態で待ち受けていなければならないのだ。

人間を追加投入すれば作業の工数が短縮するというのは、そのタスク群に並列性が高い場合である。そして、並列性を確保するためには、リソースをあえて待たせておける判断が必要なのだ。しかし、多くの組織では、この判断ができない。「稼働率アップ」などのモノサシに動かされて、ローカルな効率を上げようとすると、プロジェクト全体のパフォーマンスを下げる結果になる可能性があることを、管理者は肝に銘じておくべきであろう。