生産スケジューリングとプロジェクト・スケジューリングの違い

スケジューリングという言葉がカバーする範囲は広い。拙著「革新的生産スケジューリング入門」にも問答の形で書いたが、学校の授業時間割の決定、交通機関の時刻表の決定、病院の看護士勤務順の決定(「ナース・スケジューリング」)、スポーツの試合順を決めるスケジューリング、さらにコンピュータでのジョブの優先順位を決めるOSレベルの技法など、様々なタイプの問題がある。

拙著では、まず「パーソナル・スケジューリング」からはじめて、「プロジェクト・スケジューリング」で基本概念を説明し、「生産スケジューリング」に進む、という順番で解説している。同じ生産スケジューリングでも、組立加工系生産・プロセス生産・切替型連続生産などの生産特性によって、業種ごとにかなりの違いがあることも説明した。

ところで、最近はプロジェクト・マネジメントへの関心が急速に高まってきた。そこで、生産スケジューラを専門にするAPSベンダーにも、プロジェクト・スケジューラの案件や問い合せが増えてきているようだ。そこで、疑問が一つ心に浮かぶ。はたして同一のツール、同一の論理で両者をまかなえるだろうか?

考えてみると、航空機・船舶・大型産業機械などの一品受注生産は、両者のちょうど中間に位置しているように見える。いわゆる重工メーカーの世界である。工場の生産工程はもちろんある。しかし、個別の製品(案件)ごとに、設計・材料調達・引渡しなど複雑な日程表を決めなくてはならない。リスクもある。あきらかにプロジェクトの特性をもっているのだ。

こうした業界では、カンバン方式による単純なプル型生産管理など使いようがない。しかし、かといってふつうのMRPは適用しにくい。なぜか? それは、最初にBOMが存在しないからだ。製品のBOMは、基本設計・詳細設計を経て、はじめて確定される。へたをすると、試作テストなどを通さないと、BOMは確定しないかもしれない。

この点では、APSも同じ弱点を持つ。固定リードタイムのMRPと異なり、APSは製造の実作業時間を見積もるが、その基準になるのはあくまでもBOMと工順(ルーティング)のマスタ・データだ。一品受注生産では、そのマスタ・データが、計画策定時点で確定していないのだ。言いかえるならば、APSは原則として、見込み生産ないし繰返し受注生産の業種でないと使えないことになる。

では、APSのBOM・工順の中に、設計作業や購買作業・製造作業などのタスクを登録したらどうだろうか? PERTCPM技法で必要なタスク間の依存関係なども、APSでは柔軟に定義できるから、うまくスケジュールを計画立案できそうな気がする。

ところが、そう簡単には行かないのだ。理由は、3つある。まず、タスクの所要期間見積がむずかしい。製造工程ならば、工程のサイクルタイムと処理数量をベースに、前段取りや後段取りなどを加えて時間を見積もることができる。しかし、人間の行なう設計作業では、こうした基準数量が定義しにくいから、いきおい全部が固定リードタイムになってしまう。製造作業のタスクも、BOMがなければ、やはり固定リードタイムとせざるを得ない。これでは、何のためにAPSを使っているのだか分からなくなってしまう。

もう一つは、制約条件を意識する方向の違いだ。プロジェクト・スケジューリングは、単一の案件をベースに、それぞれ独立に行なうのがふつうである。クリティカル・パス、すなわち時間方向(横方向)の制約が主題なのだ。他方、生産スケジューリングは、複数の生産オーダーをまとめて計画立案する。それを定期的にくり返していく、ローリング・スケジュールが特徴である。つまり、生産スケジューリングでは、複数のオーダーが工場の生産リソースをとりあう、縦方向の制約をつよく意識する。問題へのアプローチも、解くための戦略も異なってくる。

そして、最大の違いは、進捗管理のあり方である。スケジューリングは進捗把握の基準線(ベースライン)として、本来の意味がある。進捗把握と統御をしないのなら、スケジューリングを行なう価値などない。単に餅を絵に描いているにすぎないのだから。

さて、生産スケジューリングは物(マテリアル)で進捗を計れる。その進度は非常に明確である。現場に行って数を数えれば、誰もが議論の余地なく同意できる。ところが、いわゆるプロジェクト・スケジューリングでは、設計・企画・外注など、人間主体のソフトな行為の進捗度をつかみにくい。アウトプットが物ではなく情報だからだ。情報の精度や完成度は、機械には判別できない。計量化しやすいのは、輸送や現場工事などのように物量で計れるタスクだけだ。

このように、生産スケジューリングでは物(マテリアル)を中心として、タスクをきちんと計量化する。プロジェクト・スケジューリングでは、タスクと物量には「ゆるやかな関係」があるに過ぎない。だからこそ、プロジェクトの進捗管理では、“見える化”の努力が非常に大きな意義をもつのである。