安全在庫
Safety Stock
「革新的生産スケジューリング入門」第7章講義3.2
「BOM/部品表入門」第4章Q6、第5章Q3

企業のもつ在庫は、引当先の決まっているフロー在庫と、引当先が未定のストック在庫とに大別できる。ストック在庫は一種の「時間の缶詰め」であり、生産リードタイムを短縮するために見込みで調達ないし生産した結果として生じるものである。さらにこれは、意図してもつ在庫と、偶発在庫(『できちゃった在庫』)に区分できる。

意図的にもつストック在庫は、さらにその意図を分析すると、中期的な計画に沿った計画在庫(たとえば季節的な作りだめや定期補修対応のための作りだめ)と、変動を吸収するためのバッファー在庫に分けることができる。いわゆる安全在庫とは、この意図的な短期バッファー在庫を指す言葉である。

在庫-┬フロー在庫(引当先の決まっている在庫・滞留)
   └ストック在庫-┬偶発在庫
           └意図的在庫-┬中期計画在庫
                  └短期バッファー在庫(安全在庫)

JISでは安全在庫を、「需要変動または補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫」と定義する。手短で簡潔な定義だが、これだけだと若干舌足らずなことにお気づきだろうか? もう少しお節介に言葉をおぎなうならば、「欠品をさける目的で」と追加したいところだ。安全在庫とは、欠品を極力さけるために置くものなのである。欠品しても平気な商売だったら(そういう「売り切れ御免」のビジネスモデルだってたくさんある)、安全在庫など必要ない。

しかし、製品販売では機会損失につながることが多いので、一般に欠品をきらう。工場でも部品材料の欠品は計画混乱要因なので、きらわれる。そこで安全在庫の必要がでてくる。

手配(購入品の場合は購買オーダー)をかけてから補充されるまで、ふつうは日数がかかる。もし在庫がゼロになってから手配していたのでは、その期間内はずっと欠品状態がつづいてしまう。そこで、補充リードタイムの期間内に消費される分を見越して発注点をきめる。1日あたり需要量が平均20個で、補充リードタイムが2週間(実質10稼働日)かかるなら、発注点は200個と決めるわけだ。

ところが、需要には変動がつきものだし、補充期間も(機械のトラブルやトラックの遅れなどで)かわることがある。手配から補充までの間に、実際は187個消費されることもあるだろうし、210個の要求がある場合もあろう。後者の場合は、途中で欠品が生じることになる。

このような変動に対応するために追加でもっておく短期バッファーが安全在庫である。安全在庫の算出方法については古くから研究があり、いろいろな提案がある。たとえば、在庫理論のわかりやすい入門書である「適正在庫のマネジメント」(勝呂隆男・著)では、古典理論の計算式として

安全在庫=安全係数×単位期間あたり需要量の標準偏差×√(最大リードタイム)

を紹介している。最大リードタイムに√がついているのは、変動に正規分布仮定をおいた結果である。安全係数は、許容欠品率に応じて決まる。欠品率1%ならば安全係数=2.33、許容欠品率2%ならば安全係数=2.06%という具合である。

上記の例でいえば、平均需要量が20個/日、その標準偏差が2個/日、最大リードタイムが12日、許容欠品率を2%とすると、安全在庫=14.3個と計算できる。

いうまでもないが、「欠品ゼロ」で計算することはできない(欠品ゼロのためには無限大の安全在庫が必要になる)。このことは、生産計画には必ず失敗のリスク確率がともなうことを意味している。欠品率2%とは、補充手配を50回くりかえしたとき、1回欠品が生じる確率になる。つまり、補充手配間隔が2週間なら、2年に1度欠品になる、ということだ。

この式でむずかしいのは、『単位期間あたり需要量の標準偏差』の算定である。入出庫の実績を分析すればいい、と思われるかもしれないが、現実には間歇的な需要もあり、季節変動もあり、販売キャンペーンの影響もあり、分析はそう簡単ではない。

ところで、今日の製造業はほとんどが計画生産である。古典理論はこの点を考慮していない。季節変動や販売キャンペーン対応などは、ふつう生産計画の中であらかじめ考慮されている。したがって、安全在庫は「計画上の予測値があたらなかった場合」に対応すればいいことがわかる。この場合、次の式で在庫量を決めるればよい。
 
 安全在庫量=平均需要量×予測誤差×計画変更不可日数

くわしくは、「生産計画 ワンポイント講義」の中の『計画生産における安全在庫量の設定』(http://www2.odn.ne.jp/scheduling/SCM/Onepoint.html#anchor17433)を参照してほしい。