工順
Routing
「革新的生産スケジューリング入門」第5章講義5.2

 BOM(部品表)は、製品と部品、また部品と原材料の関係を表した基準技術情報(マスタ・データ)であり、製造業の生産管理における中核としての役割を果たすものである。BOMにおいては、製品→部品→サブ部品→原材料、という親子関係を階層的に表す(BOMの世界の親子関係は、“親から子が生まれる”のではなく“子が親を産む”ので、その意味では逆さまだが、この辺にはいかにも組立加工業の感覚が強い--一つの原料が多数の製品を生む素材産業からBOMが誕生していたら、こういう用語にはならなかっただろう)。
 
 1960年代に生まれた初期のMRPでは、この子部品と親部品の間に、員数(親1に対して子がいくつ必要かを示す数量)と、標準リードタイムの値をきめ、属性として直接登録していた。その標準リードタイムは、子を親に加工する工程において必要な期間(工程における待ちや滞留を含めたトータルの日数)として、タイム・バケット単位で与えた。

 ところで、80年代に完成したMRPⅡでは、BOMの親子関係を、すなわち『子部品を加工/組立することで親部品が出来上がる』、という風にプロセスとして解釈する。その加工/組立のプロセスは、実際には一つないし複数の作業から成り立っていると考える。そして、そのプロセス(これを加工順序ないし工順 Routingと呼ぶ)を、独立したマスタ・データとして扱い、標準リードタイムはこちらの属性として登録するようになった。これが工順マスタである。
 
 日本における生産管理の本は、いまだにその多くが現代のMRPⅡではなく昔のMRPしか紹介していないため、この工順マスタに関する説明が抜け落ちているケースがかなり多く見られるようだ。ともすると、APSの解説にさえ、工順の概念が抜けていたりする。

 ところで、なぜ、このような工順の概念が必要になったのだろうか? 単なる工程のままで不十分だったのは、なぜか。
 それには三つの理由がある。

 まず、生産能力(キャパシティ)を正確に表現する必要がでてきたためだ。MRPのつくる生産スケジュールの最大の問題点は、無限能力を前提とした計画であることだ。しかし、実際の工場の生産能力にはとうぜん限界がある。MRPが計算してつくったスケジュールにしたがって、作業工数の負荷山積みをしてみると、現実には不可能な数量を同一期間内に集中して作る計画になってしまうことが起こりうる。そこで、山積みされた負荷と、実際の生産能力上限を比較して、生産着手の順序を調整するCRP(Capacity Requirement Planning)の手法が生み出された。

 ところで、CRPを正確に行なうためには、「工程」のような大括りの概念ではなく、その工程内で用いられる、個別の製造機械や人間(手作業が入る場合)のサイクルタイム=能力をつかむ必要がでてくる。ことなる種類の製造機械や作業者には、それぞれ異なる能力値と上限があるからだ。

 次の理由は、コンベヤ等を使った流れ作業やフローショップ型工場における表現のためである。コンベヤによる流れ作業は、複数の加工作業がライン上にならぶ。もし、あらゆる種類の品目が、かならずコンベヤの端から端まで、まったく同じ作業を通るのならば、ライン全体を一つの工程としてまとめて扱っても、何の支障もないだろう。

 ところが、製品の多品種化が進むと、品目によってコンベヤの途中から流したり、最後まで流さずに途中から抜き出したりして、コンベヤの部分的機能だけを使うケースが増えてくる。このようなときには、同一の工程としての括りはできない。しかし、これらを別の工程として登録してしまうと、その能力上限を正しく把握できなくなってしまう。この矛盾を解決するために、工順の考え方が生み出された。工順は複数の作業の順序を定義する。そして、能力上限は工順自体ではなく、各作業の方にもたせるようにすることで、この問題を解決したのである。

 三番目の理由は、加工順序の代替性からくる。工場において、同一品目を製造する場合でも、複数の異なる機械と手順がありえたり、あるいは一部を外注加工に出したりするケースがしばしばある。MRP自体は、このような、生産手段が複数ある際の選択は苦手だが、工順マスタに代替工順を設定しておけば、CRPの検討の際に山崩しが楽になる。

 これらの理由から、MRPⅡでは次第に工順マスタの利用が広まり、この考え方はそのまま現代のAPS製品の大多数(全部ではないが)にも採用されるに至ったのである。