律速過程
Rate-determining Step
「革新的生産スケジューリング入門」第1章講義2

アイスランドの火山噴火の影響で、大混乱に陥っていた欧州の航空ネットワークが、ようやく復旧にむかっているようだ。職場の同僚や知人にも、このためにずいぶん予定をくるわされた人が出た。

遠方への旅行のスケジュールを立てるとき、移動手段の内でおそらく最初に決めるのは飛行機の便だろう。空港への電車の切符をそれより先に手配するという人は少ないと思う。その理由は、飛行機の方が電車やバスなど近郊の移動手段より、通常は選択肢の幅がずっと少ないからである。1日に数便しか飛ばない飛行機の方が、1時間に何本も走っている電車より「自由度」が少ないのである。したがって旅行全体のプランは、希望する日に飛行機がとれるかどうかに、かなり依存する。

以前、JALのフライト・アテンダントのサービスの質について皮肉を書いたことがあるが(「JALに乗るおじさんの日記」2010/02/27)、本当のことをいうと、航空会社のサービスを比較する際は、地上職員の質の方がはるかに重要だ。なぜなら、飛行機というのは自由度が小さい上に、しばしば気象その他の理由で遅れたり欠航したりしがちであるからだ。そうしたトラブルに見舞われて、あてにしていた便に乗れないとわかったとき、スムーズに予定変更できるかどうかが、旅行では重要なのである。地上係員の気が利かないと、トラブルもアナウンスが遅れるし、代替手段も得られないことが多い。

だから私は、地上職員の対応がしっかりしている航空会社だったら、多少機材が古くて小さくても、我慢して選ぶようにしている。それに比べれば、アテンダントが美人かどうかなど、まったく取るに足りないどうでもいい項目だ。

旅行のスケジュールにおける飛行機のような存在を、「律速過程」とよぶ。律速過程というのはもともと化学の用語で、反応が複数の過程を経て進む場合に、その中で一番速度の遅い(時間のかかる)反応を呼ぶ。その過程が全体の反応速度を律するので、「律速」と呼ぶのである。ふつう私たちが複数の手段を組みあわせて計画を作るときには、その中で一番ネックとなる律速過程の工程に焦点を合わせて、スケジュールを組む。ネックというのは、時間的に長くかかるとか、自由度が少ない上に代替手段がないとか、リスク確率が高くてなかなか期待どおりにいかないとか、そういった問題のあるものだ。

そして、律速過程の前には時間的な余裕をおくことで、プラン全体を予期せぬ出来事から守れ、というのがスケジューリングの大原則だ。飛行機の場合には、十分余裕を持って空港に着くようにするわけである。

ネックとなる律速過程は、プランを立てる上での自由度が少ない。つまり、いいかえると自由度とは、私たちが予期せぬ出来事に対応できる余裕・能力を意味している。そして私たちは経験的に、自由度を最大限確保するようにスケジューリングすることを身につけているのである。もう少し公式化するならば、「自由度が最小の律速過程を見いだせ。律速過程よりも上流ではフォワード、下流ではバックワードでスケジューリングせよ」という原則で表すことができる。これを律速過程中心のスケジューリングと呼ぶ。

律速段階には時間的余裕を持ってたどり着くようにするべきである。この余裕を、『保護バッファー』という。律速段階の「あばれ」から全体スケジュールを保護するためのものだからで、これは期間として確保する場合と、逆に在庫として確保しておく場合がある。ただし、保護バッファーのコントロールに十分な経験とスキルのある場合は、上流側もバックワードで計画してもかまわない。

では、工程が非常に多数あって、それらの間に順序関係や依存関係があったりなかったりしたら、どうしたらよいだろうか? 人の直感や経験知だけでは、律速段階を見つけてコントロールするのは難しい。そして、現代スケジューリング理論と、その嫡子であるAPS(先進的スケジューラ)こそ、まさにこうした問いに答えるための道具なのである。