プル型生産システム

生産において、原料に近い上流側の工程(作業)が製品に近い下流側工程に、マテリアルの使用を指示し、その量とタイミングを通知するしかけをプッシュ型生産システムという。典型的には、上流工程が製造した半製品・中間品を下流工程に引渡して、「じゃ次にこれを加工してください」と指示をわたす方式である。ひとつの工順の中は、原則としてプッシュ型となる。

プッシュ型において途中で発生する半製品の仕掛在庫は、原則的にすべて下流工程の使用予定がひも付いている(これを私は「フロー在庫」と呼んで、作りだめのストックと区別する)。プッシュ型の場合、こうした仕掛在庫レベルを決める権限は(そして在庫が過小・過大になったら、その責任も)上流側にある。

逆に、下流側が上流側に、マテリアルの供給を指示し、その量とタイミングを通知するしかけをプル型生産システムという。製品在庫を基準数量だけストックして積んでおき、それが発注点を切ったら補充生産する方式は、その典型である。定量補充・定期補充などの補充も、プル型の供給である。

プル型においては本来、在庫のレベルの維持管理は、下流側に責任がある。使用するのも、注文するのも、下流側だからである。少なくとも、下流側には引取責任がある。

後工程引取り・定数補充のカンバン方式も、プル型である。ただし、カンバン方式では使用者と補充者が分業しており、在庫のレベルの維持管理は補充者側に移る。なお、カンバン方式では資材の現場保管を活用するが、原理的には倉庫を経由しようが、プル型であることにかわりはない。

さて、見込み生産はプッシュ型システムで、受注生産はプル型システムだろうか? どうも、こうした誤解が広まっているようだが、じつはほとんどの場合、その逆なのである。

一品受注生産は、製品在庫量ゼロのプル型である、ように見える。しかし、造船であれ、複雑な生産機械であれ、実は設計の完了が購買を指示し、納品された原料資材を順に加工し、組み立てて、検査して製品にしていく。途中にある仕掛りは、すべて受注に紐づけられたフロー在庫である。上流工程が完了しなければ、下流工程は着手できない。会社全体でみれば、なるほど確かにプル型にふるまっているように見えるが、工場の中は実はプッシュ・システムで動いているのだ。

繰返し受注生産に多い、日本特有の製番管理も、ある意味で、すべての製造作業が、受注オーダー(製番)に紐付いている。そして、原料から製品へ、上流から下流へと、指示とマテリアル供給が連動して流されて行く。したがって工場の中はプッシュ型である。単に資材倉庫がプル型で補充の購買オーダーをかけているに過ぎないのだ。

一方、製品在庫・仕掛り在庫を要所要所に積んでおき、工場の中をすべてプル型で動かしている企業も、最近は多い。『売れた分だけ作る』ジャスト・イン・タイム方式、あるいは「トヨタ式生産システム」などの名前で呼ばれることもある。

売れた分だけ作る、というのは、一種の在庫の定数補充である。それは受注生産のように見えるかもしれないが、じつは、積み上げた在庫には、まだ引当の予定がない。つまり見込みで生産しているのだ。その証拠に、次の日からお客さんが来なくなれば、そこに積み上げた製品・仕掛りはまったくの不良在庫となってしまう。だから、一品受注生産の業界では、製品在庫を持って『売れた分だけ作る』などということは考えられない。これは、ある程度平準化可能な需要の見込める、自動車・家電・日雑業界などでないと適用できないのだ。

そもそも、下流側の使用予約(引当)がされているからと言って、それが最終顧客の実受注にまでひも付いているとは限らない。営業部門が見込みで工場に生産オーダーを出している場合もあろう。それは、各工程の立場からは知りようがない(最近の流行語をまねて言えば「在庫の壁」)。

メーカーが系列卸や販売店にプッシュ供給する(つまり押し込み販売する)ことは、確かにおこりうる。しかし、最終顧客に対しては、計画経済でもない限り、プッシュできないのが普通である。つまり、製造業の会社というのは、マクロに見れば必ずプル型にふるまわざるを得ない性質を持っている。その、マクロなプル型と、社内のプッシュ型の仕組みをどう矛盾なく折り合わせるかが、つねに課題となるのである。