生産管理
Production Management

生産管理とは何か。この問いは簡単なように見えて、意外と奥が深い。

製造業とは、マテリアルを加工し販売することで利潤を生む企業体である。その企業において、生産活動に直接たずさわる業務の計画・組織化・統制にかかわる仕事を、通常は生産管理と呼ぶ。販売・設計・研究開発業務ならびに会計・人事等の間接業務をのぞいた、いわゆる工場での仕事に関わる『管理』活動と考えられている。

ここで「計画・組織化・統制」なる語を用いたのは、一応これが日本の伝統的な経営学で、経営管理の三要素と呼ばれているからである。したがって普通に考えれば、

生産管理=生産計画+生産組織化+生産統制

という等式が成り立ちそうだが、ことはそう簡単ではない。生産計画という語は実務の場でふつうに使われるが、「生産統制」はめったに聞かず、「生産組織化」となるとまず使わない。「生産組織」だったら多少は分かるが、会社の人的組織図を連想しがちで、語の本来の意図とはずれていく。

そこで、英語のマネジメント・サイクルの概念であるPlan-Do-Seeをもってくる、あるいは継続的改善のPDCAサイクルを持ってこようか、と考えることになる。しかし、Production Planという語はあるが、Production DoだのProduction Actionだのといった言葉は存在しない。なにか言おうとするとExecutionやControlなどの語を引っぱり出さなくてはならない。

このように、生産管理という概念をWBSのごとく仕事の部分品に分解して組み立てる説明は、あまりうまく行かない。それでは、目的から説明したら、どうだろうか?

以前紹介した良書「SEのためのMRP」の著者・鳥羽登氏は、同書の冒頭で
 「『最小の在庫で、顧客の納期を守ること』
  このことは、生産管理の最も重要な課題である」
と書いている。これは、なかなか含蓄の多い言葉だと思う。

在庫最小で納期を守ること。これはすなわち、供給線を需要線に一致させることだと言いかえてもよい。私はマテリアルの累積供給量と累積需要量をグラフに描いて考えることが多いが(このような図表を『流動図表』と呼ぶこともある)、このグラフ上で供給の線が需要より上にずれれば在庫になり、下にずれれば納期遅れになる。

でも、果してこれだけを達成すれば、生産管理の仕事は完璧か? たとえば、最小の在庫で変動にどう対応するのか? あるいは、製造原価の制約を考えずに納期だけ守ればいいのか?

むろん、そんな単純なことではない。だから鳥羽氏は、目的だとは言わず、最重要課題だと言っている。生産管理業務には、他にも課題があるのだ。生産効率だとか製造原価だとか品質だとか生産の自由度だとか。つまり、生産管理は本質的に多目的な問題なのだ。

そして、その多目的性ゆえに、生産管理には統合の視点が必要になる。ちょうどPMBOK Guideがプロジェクト・マネジメントの中心要素としてプロジェクト統合管理なる概念を導入したように。

生産とは、大きく見れば、インプットをアウトプットに変換する機能を持つシステムである。その入出力は、
(1)インプット:生産オーダーなどの需要情報、ならびに原料・部品・副資材というマテリアル、
(2)アウトプット:製品および副産物などのマテリアル、ならびに品質報告書や製造実績報告などの情報
であり、このために製造設備や用役や作業員などのリソースを占有・使用する。また外部環境として市場動向・法規制・技術動向などがあって、つねに変化している。

そして、生産管理とは、この『生産システム』の円滑な運用のために必要とされる間接業務の全てを指すのである。情報の交通整理のこともあるし、設備の改良のこともあるし、モノの流れを整えることもある。こうした活動全てを“管理”の語で呼ぶから理解しにくくなるのだ。

したがって生産管理の対象範囲は、企業の生産形態によっては、工場内のみならず、設計や調達や物流にかかわることもある。それは生産システムを運転するための総合的な活動であって、そこにはシステムを理解する総合的な視点、そして企業としての仮説(すなわち戦略)が盛り込まれなければならない。

製造業の目標達成のために、このレベルに達してこそ、初めてそれは生産管理の名に値するのである。