--データによるマーケティング-- (2002/3/04 発信)

「でもちょっと待ってよ。本題から外れちゃったわ。セブン・イレブンは何で買う人の男女や歳が分かるの?」

--何で、って、そりゃレジの前に立った人が男か女か、店員が目で見ればわかるじゃないか。

「あ、なんだ。店員の人が見て判断してるわけ?」

--そりゃそうさ。あのレジのキーの側をちょっとのぞいてみれば分かるけれど、一番左側の方のキーの一列は、男女性別と年齢階層のキーになっている。会計をするたびにお客さんの年格好をみて、まずそのキーを打つんだ。

「なあんだ、そうだったの。・・え、だとしたら、私はいったい何歳として見られているのかしら?」

--知らないよ、そんなこと! 各店員個人の判断なんだから。年相応に見られてくやしかったらコンビニに化粧していけばあ?

「あら、お言葉ね。でもどうして性別や年格好が買い物の合計を計算するのに必要なのかしら。」

--え? 関係ないよ、もちろん。

「だって、あのレジは金額の計算のためにあるんでしょ? 内蔵しているマスター・データとかを参考にしながら合計を計算するための機械よね、さっきの話では。」

--あともちろん、レシートの印刷とお金の格納もね。

「でもレシートには私の性別とか年齢とかは書いていないじゃない? そのキーを押しても何の役に立つのよ。」

--君には関係なくても、彼らには役に立つんだ。

「だってレシートになければその情報は消えてしまうんでしょう?」

--消えないよ。POSレジの機械が覚えているからさ。

「え?」

--ああ、なんだか誤解があるみたいだね。POSレジってのはさ、印刷機つき電卓とは訳がちがうんだ。電卓とちがって、あれは入力されたデータをすべて覚えている。

「レシートにうったことを?」

--レシートにうったことだけじゃない、“入力された”ことにもとづくデータはみんなさ。だから性別のキーからの入力は、レシートに結果が出てこなくても全部記憶している。

「え、それじゃPOSレジは計算だけじゃなくて、データも集める機械だってこと?」

--そうです。というよりね、むしろデータを集めるかたわら、計算もしてレシートも打っている、という方が真相に近い。レシートをきれいに打つための清書機械、つまりさっき説明した「セミIT」用の道具が主目的ではないんだ。目的意識から言うとデータ収集の方が主になっている。

「いったい何のデータを集めているの?」

--ぼくもコンビニの専門家じゃないから推測でいうけれど、基本的にはそれぞれのトランザクションの明細とそれにともなう属性情報だろうね。

「なになに? 急に日本語じゃなくなったみたい。」

--あ、ごめんごめん。トランザクションて言葉は、つまり個別の取引のことを指す。

「取引。」

--そう。まあ会計学風には、価値と対価の交換とかで定義されるんだろうけれど、もっと平たく言えばモノやお金が移動するときの毎回の記録と思ってくれればいい。
 たとえばコンビニの買い物ならば、お客さん一人が一度にする買い物のことだ。一人で10個のモノを買うかもしれないけれど、それを1回のトランザクションという風に考える。それは1枚のレシートにまとめて印字される。10個の商品がすなわち明細だ。

「はあ。」

--その取引にともなう属性情報ってのはね、んー、なんだ、つまりその取引を特性づけるような種々のデータ項目のことであり・・

「あのぉ、まるで国会答弁みたいで、あいかわらずぜんぜん日本語になっておりませんのことよ、先生。」

--ここらへんのことって、なんだか日常用語でひどく説明しにくいなあ・・日本文化のエア・ポケットなのかしらん。えーとね、具体例でいうと、その取引が何時何分に行われたかとか、どのレジで受け付けられたかとか、売り手の担当は誰だったかとか・・

「あ、お金とは直接関係ないけれど、その取引の状況を説明してくれるような補助的な情報ね。だったら最初からそういえばいいじゃない。あなたの頭が弱いのは日本文化のせいじゃないわ。」

--そりゃどうも。とにかくそういった属性情報の一つとして、買い手の性年齢階級があるんだと思う。

「やっとその話に戻りついたわね。そもそも何でコンビニは客の個人的プライバシーみたいなことを知りたがるのよ?」

--彼らはね、売れ筋分析をしたくてデータを集めているのさ。別にお客さんのプライバシーには関心がない。つまり君という具体的な人間の名前とか、電話番号とかにはね。
 ただ単に、20台の女性だったらどういう商品を良く買うのか、どんな商品と商品を一緒に買うのか、店には何時頃来ることが多いのか、一回あたりいくらくらい買い物をするのか、そういうことを分析しようとしているんだ。

「そんなことしてどうするの? だいたい、そういう売れ筋っていうのは、問屋さんとかの方がよく知っているんじゃないの?」

--案外そうでもない。卸という業態は、どちらかというとメーカーの品物を「おろし」て配送や集金を代行する形で発達してきた。おかげで、卸はメーカーとのつながりが強いところが多い。そのため、へたをするとライバルメーカーの商品は扱えなかったりして、公平な商品の売れ行きはつかめないことがある。
 その点、コンビニはどのメーカーの商品も公平に売る立場にあるから、データは細かいけれども正確だ。これをきちんと集計して分析すれば、こういう立地の店には、何時くらいの時間帯には、どういう客層相手の商品を置けばいいのか、すごく無駄なく分かるはずだろう、という信念があるんだ。こういうのを一般に、データを活用したマーケティングという。
 性別と年齢というのは、コンビニみたいな業態ではとくに大事なデータ項目だけど、お客さんに直接聞くわけにもいかないから店員のラフな判断で入力しているんだろ。君がたとえば会員制割引のカードでも使って買い物すれば別だけれど。

「あら、それだったら正確に分かるわけ?」

--もちろん分かる。だって会員に加入する際に、必ず住所氏名と生年月日を書かせるだろう? そういうデータは、必ず会員名簿のマスタ・データに記録されるから、君の会員番号をカードから読み取れば、後は自動的に性年齢階級は計算できるんだ。
 セブン・イレブンが会員制カードを使っていたかどうか記憶にないけれど、多くのデパートやチェーンストアが、会員制カードを宣伝しているのは、もちろん固定客がほしいせいでもあるけれど、そうすれば自分の顧客のデータベース・マーケティングに役立つ情報がとれるからでもあるんだ。

「はあー。なんだか国民総背番号がしかれる前に、コンビニ総背番号制が普及しちゃいそうな勢いね。」

--あちらは政府とちがって真剣ですから。まじめに頭使って仕事しないと競争に生き残れない。だからITの利用も進んでいるのさ。

「あら、急に我田引水ね。それじゃあ、セブン・イレブンのお店は、あのPOSレジっていうの? あれに毎日のすべてのお客の買い物データを蓄積してとっているわけ?

--それだけじゃない。そのデータをISDN経由で本社のデータ・センターまで送っているはずだ。あの業界の人たちはね、いわばデータに関してとてもハングリーな経営をしている。

「なにそれ?」

--データからできる限り情報を引きだそう、貪欲にしゃぶりつくそう、という姿勢さ。データはできる限り発生源で、発生時点に、速く正確に取ろうとする。それを処理し、保存し、集中化して、データとしての価値を高めている。そしてデータに基づいて次の経営判断をする。需要にマッチするように商品を供給すれば無駄がなくなる。
 だから、もしいまだに経験と勘と根性の3Kでやっている旧態依然のメーカーや卸がいたとしたら、コンビニに頭が上がらなくても当然かもしれないね。

(c) 2002, Tomoichi Sato
              (この話の登場人物はすべて架空のものです)