前回は生産形態の区分として、「見込生産」(MTS)、「繰返し受注生産」(MTO)、「個別受注生産」(ETO)の3種類について説明した。この3種類を比べると、在庫リスクと納入リードタイムのトレードオフ関係が成立していることが分かる。見込生産は納入リードタイムは最短となるが、在庫リスク(売れ残りや陳腐化のリスク)は最も大きい。その対極にあるのが個別受注生産で、製品在庫は無いし原料在庫も(ほぼ)不要だが、そのかわり受注から出荷までのリードタイムは最長となる。

では、ちょうどいいバランス点はないのか、という疑問に対する一つの答えとなるのが、第4の生産形態=「受注組立生産」である。受注組立生産とは、部品をそろえておいて、客先からの注文が入ると、すぐに組み立てて出荷する生産形態を指す。それって繰返し受注生産とどこが違うんだ、と疑問に思われるかもしれない。違いは、二つある。

第一に、受注組立生産では、サブモジュールないし加工組立を終えたサブアッセンブリの形で、在庫を持っておく。だから注文を受けたら、最終組立工程だけ済ませて、すぐに出荷できる(たいていは1日以内)。一方、繰返し受注生産の場合は、注文を受けてからキーとなる部品の引当手配をかける。サプライヤーからの調達リードタイムが加わるため、どうしても全体リードタイムが長くなる。かりに原材料及びローレベルの部品はすべて常備品として在庫しておいたとしても、加工・組立工程が入るため、やはりリードタイムは受注組立生産よりも長くなってしまう。

この違いはちょうど、昔からの鰻屋と、現代風の食堂のようなものだ。古風な鰻屋は、客の注文をきいてから、鰻をさばきはじめる。それから串をうって、蒸して、焼いて、タレをつけて、丼やお重に盛って、と工程が続く。注文してから出てくるまで3, 40分かかるのが普通だから、客はその間、つきだしと小料理か何かで酒を飲みながら待っている。とおろが現代の客はそんなに悠長ではない。したがって、鰻丼のメニューを出す食堂では、先にさばいて白蒸しにする工程まで済ませ、在庫しておくのである。注文が来たらタレ焼きにして盛付けて、すぐ「お待ちっ」と出せる。この現代風のやり方こそ、『受注組立生産』なのである。

受注組立生産を英語では普通、Assemble to Order=ATOと呼ぶ。受注組立生産は、在庫リスクをある程度抑えながら、短い納入リードタイムを実現できる。Dell Computer社は、このやり方を同社のネット直販方式と組合せ、受注当日出荷・翌日配送(地域によるが)を売り物にして大いに市場シェアを取った。Dell社がこのやり方を、あえてBuild to Order=BTOと呼んで違いを強調したこともあって、今日ではBTOという用語の方が広く普及しているようだ。

先日の「工場見学ほど面白いものはない - K歯車工業に学ぶ」で紹介したK社も、標準歯車に若干の追加工を施した『追加工品』を収益の一つの柱としている。標準歯車は、工場で見込生産して、常時ストックを数千種類持っている。そして、客先からのオーダーにしたがってボスだとか穴あけだとかの追加工を行い、当日出荷する。この「受注当日出荷」の能力を競争力の源泉として守るために、あえてトヨタ系のやり方に固執するJITコンサルタントと喧嘩してでも、受注時間帯の制限を設けなかったというエピソードこそ、BTO方式の価値を象徴している。

現代風の食堂のみならず、カウンター式の鮨屋やラーメン屋の屋台なども、みなBTO方式である。つまりBTOは、「一人屋台生産方式」と非常に親和性が高いのだ。

むろん、古風な鰻屋の場合でも、生きた鰻という原材料だけは、ストックしている。注文を聞いてから、おもむろに川に釣りに行く鰻屋はいない。そういう点では、繰返し受注生産と受注組立生産の違いは、どの段階の部品材料をストックするかの違いとも見える。

そもそも原材料から製品までのサプライチェーンを考えた場合、たとえば鉄鉱石からはじまって、それが銑鉄になり鋼板になり、裁断・折り加工を経て板金の部品になり、さらにそれが組み立てられてパソコンのボディとなり・・という長い連鎖を持つ。このサプライチェーンのうち、最上流は必ず見込生産で進められる(それがたとえば鉄鉱石の採掘である)。一方、最下流は、マーケット・インとマス・カスタマイゼーションが主流の今日、ほぼ確実に受注生産となっている。この、見込(プッシュ型)と受注(プル型)の接合点が、すなわちその部品の最大の在庫ポイントとなる。この点を、「カップリング・ポイント」と呼ぶ(日立製作所の光國氏の命名による)。

だから、古風な鰻屋(繰返し受注生産)と現代風の食堂(受注組立生産)との相違点は、単にカップリング・ポイントの違いだけのように思えるかもしれない。ところが、そうではないのである。なぜなら、両者では、蒲焼きのが違うからだ。

いや、これは冗談で言っているのでは無いのである。鰻は白蒸しにして置いておくと、時間が経つうちに、風味も歯ごたえも抜けていってしまう。だから、味で比べたら、古風な鰻屋の方が普通はずっと美味しい。

つまり、在庫という行為は、それ自体にいろいろな制約があるのである。だから、繰返し受注生産の在庫ポイントだけ移動すれば、すぐBTOに移行できるかというと、そうはいかないのである。BTOを実現するためには、組立すべきサブモジュールが、在庫可能で、簡単には劣化せず、ひどく場所ふさぎでもなく、かつ種類が無制限に増えない保証がなければならない。

とくに最後の条件は重要である。たとえば、工業用の熱交換器を考えてみてほしい。圧力も、流量も、使用条件も、流体の温度や腐食性も、非常にバラエティに富んでいる。組合せの数をちょっと考えてみても、かるく百万種くらいはいきそうだ。大きさも伝熱能力によって千差万別、数十cmから数十mまでありえよう。そのための主要部品を全部そろえて在庫しておけるか? とうてい無理である。

熱交換器のような種類の製品では、主要な仕様のバリエーションを、限られたモジュールの組合せだけではうまく表現できない。パソコン製造でできることが、熱交換器の製造ではできない。これは、パソコンという製品の設計思想が、そもそもモジュラー化した機能部品の組合せとして出来上がっているから可能なのである。

製品の設計を、比較的少数の単機能型のモジュールの組合せで表現しようという考え方を、『モジュラー型の製品アーキテクチャー』と呼ぶ。これに対して、個別部品の細かなバリエーションの組合せによって表現する考え方を、『インテグラル型の製品アーキテクチャー』と呼ぶ(インテグラルを日本語では「すり合わせ」ともいう)。BTOは明らかに、モジュラー型アーキテクチャーを要求するのである。もし、ある製品をBTO生産形態で作りたければ、その製品アーキテクチャーから考え直さなければならない。これが、繰返し受注生産とBTO(受注組立生産)の第二の、そして一番重要な相違点なのだ。

BTOの工場と、繰返し受注生産の工場とでは、レイアウトがかなり異なる。それは、部品在庫の量や種類や工程の数が違う以上、当然のことだ。“部品表(BOM)を見れば、工場を見なくても、そのレイアウトがだいたい分かる”と拙著「BOM/部品表入門 」に書いたのは、このような理由による。もちろん、BOMを見れば、リードタイムもだいたい想像がつく。

より良い工場を計画するためには、製品アーキテクチャーすなわち製品の設計思想まで立ち返って、再検討する必要がある。意外かもしれないが、これが生産システムにおける真実なのだ。だからこそ、設計と生産技術と製造の各部門の間に、お互いに十分な対話が成立するような、闊達な社内マネジメントが大事なのである。