ERP
統合業務パッケージ
Enterprise Resource Planning
「革新的生産スケジューリング入門」第7章講義3.3

ERPとは、(元は)Enterprise Resource Planningの略で、製造業における企業全体の資源配分計画の活動を表す概念であった。しかし、今日では、実際には企業の基幹業務範囲を広くカバーする機能を持った統合パッケージ・ビジネスソフトを指す言葉となっている。具体的には、会計・財務・原価・販売・物流・購買などのビジネス系の諸機能をもち、企業の基幹業務範囲を広くカバーすることをターゲットとしている。

「ERP」という言葉をはじめて使ったのは独SAP社であると言われている。この語は、言うまでもないが’60年代に成立したMRP(Material Requirement Planning)から生まれている。MRPは元々、資材所要量計画の略だったが、それが’70年代を通じて発展し、MRPⅡ(Manufacturing Resource Planning)という概念になった。MRPは製品の最終需要(独立需要)から、BOM(部品表)をさかのぼって各部品・中間部品レベルでの所要量を算出するロジックであった。それがMRPⅡでは資材のみならず、機械・労働者などのリソース、そしてそれらを準備するための購入資金まで、製造業にとって必要な広義の資源の計画ツールに発展した。

ERPとは、さらにその対象範囲を広げた、企業活動全体にとっての資源配分計画の活動である、と位置づけられている。業務パッケージソフトとしても、生産・購買のみならず、会計・販売・物流・在庫管理・倉庫・輸送・品質管理・・とそのカバー領域を広げ、いまやオフィス活動全体をほぼ網羅するようになった。

パッケージソフトのベンダーとしては、今のところドイツのSAP社(この社名はよくサップと呼ばれるが、エス・エー・ピーと発音するのが正しく、そう呼ぶことを知っているかどうかがその道のプロであるかを示す踏み絵みたいになっている)と、米国のオラクル社が二大巨頭である。10年前にはこのほかにもJDEdwadrs, PeopleSoft, BaaNその他有力な企業がいろいろあったが、ほとんどが買収・淘汰され、ビッグ2と、あとは各国ローカルの中小ベンダー、という二極分化の構図が出来上がってしまった。

ところで、「製造業における企業全体の資源配分を計画する」というのは簡単だが、実際には誰が計画するのだろうか? ある意味で“製造業は計画ありきで動く”と言ってもいい。予算があり、販売計画があり、生産計画や配員計画があって工場も営業も動く。しかし、そういった複数部門を横断して、全体を統括し計画立案すべき部署は誰なのだろうか。それは、何を基準にして動くべきなのだろうか?

それは、財務部門であるべきだ。--これが、実はERPのテーゼである。そして、その基準としては、『原価』があり、より具体的な手法論としては、活動基準原価管理ABC=Activity-Based Costingを用いるべき、というのがSAP社の思想であった。きわめてMBA的な思考である。その結果はリアルタイムに財務諸表に表されていなければいけない、という考えから、Real Timeの頭文字を取って、製品名をR/3と名付けた。(リアルタイムというのは四半期に一度では遅すぎるという意味だ)

これはつまり、言いかえると、会社を支配するのは財務部門であるべし、という考え方である。財務部門から見て、投下するコストに対してリターンを最大化するよう、企業活動を統御すべきであり、コストに引き合わないような活動には資金というResourceは配分すべきではない。そのために、すべての活動を原価に引き戻すような還元主義的な枠組みが必要になる。これがERPであり、事実SAP R/3では、FI/COと呼ばれる会計・財務モジュールは必須の中心機能とされたのである。そして、「ERPを入れるなら、まず財務会計から」という合い言葉とともに、多くの企業に普及していったのであった。

しかし現実には、FI(会計)は使っているが、COは十分使いこなせている企業は日本では少ないと言われている。これは、原価管理が、配賦基準という形の「企業を動かすためのルール・思想」をベースにしているためであろう。何をのばし、何をおさえるかは、どのようなモノサシ(原価基準)をあてがうかによって決まる。これはつまり、そうした管理会計的なルール・思想をもつ企業が少ない、という現実を示しているのだ。

会計は、ある意味で法律上課せられている義務である。しかし、原価管理はちがう。原価計算報告は求められるが、その結果を経営判断に活かすことまでは法律では定められていない。そもそも、「ちゃんとマネジメントをしろ」などということは、法律にはどこにも書いていないのである。そして、別段プランニングだのマネジメントだのという七面倒なことを考えなくったって、当面企業は動いていく。そこで、残念ながら多くの日本企業では、原価基準は(たとえどれだけ財務部門の担当者レベルでは積極的な意見が出されようとも)経営に活かすべき思想のないまま決められてしまい、思想のないまま運営され続けるという現実が生じているようである。

製造に関して言えば、MRPもまた日本の融通無碍な(いいかえれば計画軽視の)製造現場には四角四面で使いづらい道具である。したがって、これを活かすとしたら、APSのようなフレキシブルな計画・スケジューリングのツールを補助的に使うことが求められる。

唯一、安心なのは販売・物流系であろうか。たしかに販売系はリベートその他、複雑な商慣習をフォローする必要はあるが、しょせん計画など誰も真面目にとりあわずとも済む業務である。受注トランザクションを、正確に処理してくれればいい、と皆が思っている。データさえ残れば、いつか誰かが分析してくれるだろう。ということで、ERPを作り上げた欧米の人々の高邁な理想とは裏腹に、我が国ではERPは日々の事務処理をつかさどるためのシステムとして使われているのである。

もしもこのような「仏作って魂入れず」の状態を避けて、高価なERP(ビッグ2の製品を全社レベルで導入したら数十億は覚悟すべきだ)を活かしたいと願うなら、何よりも『製造業』の『資源』を『計画する』というのは、具体的にどのような状態を目指しているのか、まず経営者レベルで明確にする必要があるのである。