変動費原価管理のすすめ (2007/07/17)

現代の企業経営は、目標管理と分業主義を軸として動いている。企業に経営目標や経営計画があるのは当たり前だと、皆が考えている(少なくとも株主はそれを要求する)。そして経営目標は、分業化された縦割り組織に、個別に与えられ下ろされていく。ま、「下ろされて」とかいたが、現実の日本の企業は、完全にトップダウンで動くケースは少ない。経営者といえども、下の人間の意見をきかないで勝手に数字を設定したりはしない(できない)のが普通だ。

それはともかく、多くの企業組織は、機能的分業化ないしは分野別分業化で区画されている。機能的分業とは、販売・マーケティング・設計・生産・物流・購買・サービス・人事・経理・財務・・といった分類による区別だ。分野的分業とは、製品カテゴリーだとか、顧客業種だとか地域だとかによる区別で、その内部は事業部として自己完結する。現実には、両者がある程度入り混じった形が多い。とはいえ、事業部の中もたいていは販売・製造・サービス・・といった機能別にさらに細分化されるのが普通だから、結局企業は機能中心の組織が一般的だといっていい。

さて、このような分業組織を動かすにあたっては、ふつう、機能別の目標尺度を与えることが多い。たとえば製造業では、販売は売上高、生産は製造原価で管理することが当然だと思われている。つまり、

 販売高-製造原価=営業利益(粗利)

という理解だ。営業部門は売上高の最大化をねらい、生産部門は原価の最小化を心がける、という寸法だ。これでたいがいの会社はうまく回っているし、不都合もないと考えられている。今回は、それに疑問をさしはさもう、という趣向だ。

(ちなみに、この式には販売機会損失による逸失利益が入っていない。つまり、在庫過剰による保管費は原価に計上されるのに、欠品や納期遅れによる損失は計上されないのだ。この一点を見ても、この式には問題があるのは分かるだろう。が、その話は別の機会にして、今回は原価管理のことをとりあげたい)

さて、たいていの企業では、上記を次のように個別に展開した式で目標設定をしている:

 営業利益=販売高-製造原価=販売数量×(販売単価-1個あたり製造原価)
 
 1個あたり製造原価=材料費原単位+(労務費+減価償却費+間接原価)÷生産数量

そして、じつはこの式ために、要らぬ誤解や無用な判断ミスがしばしば入り込む。たとえば原価を下げるために労賃の安い海外に移転すべきだとか、工場は設備稼働率を上げて原価を下げるべきだとか、自社で部品加工すると高くなるから外注先から購入するとか。こうした方策は、中期的には企業の付加価値生産性をそこない、競争力を低下させる。たとえば中国生産で懲りて国内回帰してきた会社などでは、この問題にうすうす気づきはじめている。しかし、その原因は相手側の品質不全や文化の差異などのせいにされて、上の式に問題があるからだとはなかなか理解されない。

ご存じの通り、こうした原価計算をじっさいに行うのは財務部門である。ライン部門は、その結果を後から知らされて、自分の目標値との差違を知り、業績評定を受けるだけで、原価計算の中身までは理解していない。しかし、原価計算(とくに個別原価計算)の方法には、恣意性があるのだ。それは固定費配賦において典型的に現れる。「恣意性」という表現をしたのは、妥当な範囲の中で、自由度があるからだ。それは科学や規則ではなく、ポリシーの問題なのである。そして、たいていの企業では、この原価管理に関するポリシーが明確でない(だから日本のSAP R/3導入企業の中で、COモジュール活用例がひどく少ないのである)。

固定費配賦計算の罠とは何か? その良い例が稼働率計算である。ある生産資源(機械でも人員でもいいが)の年間コストが固定費で2千万円だったとしよう。工場の年間稼働時間を2,000時間とする。すると、1時間あたり1万円の単価になる。ところが、製造日報を調べてみると、この資源は実際には年間1,500時間しか稼働しなかった。稼働率=75%だ。すると、稼働時間あたりのコストは2千万÷1,500時間=1.33万円/時になる。同じ仕事を外注したら1.1万円でできたと仮定しようか。すると、外注した方が原価が安くなる。

ところが、よく考えてみてほしい。外注したら、その生産資源はどうなるのか? 保有機械ならば、減価償却費は使おうと使うまいと変わらない。人員も、おいそれと首は切れまい。他の仕事にすぐ転用できればいいのだが、これもそう簡単ではない。その結果、固定費は残ったまま、外注費が増えることになる。したがって、企業の付加価値総額は減少してしまうのである。

あるいは外注のかわりに、「稼働率を上げる」という対策はどうだろうか。でも、もう少し考えてほしい。機械や人員の効率を下げて、同じ量の仕事を年間1,900時間かかるようにかえれば、稼働率は95%にあがる(稼働時間あたりの原価は1.05万円に下がる)。外注より安くなる。これで企業は儲かるようになるか? NO! 年間固定費は同じままだ。

なぜこのような勘違いが生まれるのか。それは、原価配賦計算が、固定費を変動費のように「見せかける」からなのだ。変動費は、生産数量に比例するように見える。しかし、配賦された原価はそうではない。

では、正しくはどうすべきか。答えは簡単である。上の式のかわりに、「付加価値総額」という指標をとるようにすればよい。付加価値は以下の式で定義される。

 付加価値総額=販売高-材料費-副資材用役費等
 
この式自体には、どこにも労賃や減価償却費が入らないことに注意してほしい。というのは、これらは固定費だから、生産管理ではほとんどコントロールできないのである。コントロールできないものをモノサシの指標に持ち込むから、おかしな誤解があまた生じるのだ。

このように、変動費のみに注目する管理方式を、変動費原価管理ということもある。また、すべての企業の付加価値総額を合計したものが、その国のGDPであることも忘れずにいてほしい。

企業組織は、モノサシで動く。かつて「モノサシを疑え」(『タイム・コンサルタントの日誌から』2004/04/03 )でも書いたように、本当にあるべきモノサシはどんな尺度なのか、いつも注意が必要なのである。