「オーダー」という用語は案外わかりにくい。

「たんなる『注文』じゃないか」と営業畑の人は思うかもしれない。受注管理ソフトのことをオーダー・エントリー・システムと呼ぶことも多い。たしかに英語の辞書を引いても、注文書・注文の品、と出てくる。

しかし、製造業をもう少し広く見渡してみると、もっと様々な種類のオーダーがあることがわかる。出荷オーダー、ワーク・オーダー、生産オーダー、購買オーダー、チェンジ・オーダー、などなど。これらはいったい何だろうか。

この中で、スケジューリングにたずさわる技術者にとって大事なのは(そしてしばしば誤解されがちなのは)、生産オーダーである。生産オーダーとロット、タスク、オペレーション、タスク等々とはどこが違い、どういう関係にあるのか。

これを理解するためには、まず「依頼」と「指示」の違いを認識しなければならない。英語では全者がRequestで、後者が(問題の)Orderにあたる。依頼Request(日本だとしばしば「××願」の形の帳票になっている)は承認プロセスを通って、はじめて正式な指示Orderとなる。この場合の指示とは、別に同一部署内での上司から部下への命令に限らない。むしろ、部門間、あるいは広く会社間での公式要求になる。

たとえば、何かの機械に故障が発生する。すると運転員は「修理願い」(Maintenance Request)を書く。これは運転課長と保守課長の承認の判子があって、はじめて正式な「修理指示書」(Maintenance Work Order)になる、という具合だ。依頼は承認されてはじめてオーダーになる。いや、ウチの会社はそうじゃない、と反論されても困る。ここではOrderという言葉を生んだ英米の会社の一般的な概念を説明しているのだから。

購買という行為についても同様。購入依頼(Purchase Request)は購買部門長に承認されて、はじめて発注書(英語では購買オーダー=Porchase Order, 略してP/O)になる。P/Oは会社間の正式書類で、金銭のやり取りがともなう。一般に、オーダーとは正式な確定指示情報を意味し、そこには正確なScope(内容・数量・期日・担当名)が記述され、また通常は、金銭なり予算なりの価値の交換が伴っているものなのである。

さて、生産オーダーだ。もうおわかりの通り、これは生産を担当する工場に対して、品目・数量・納期等の条件を明示して、工場外の部門(生産計画部門ないし営業部門など)が発行する指示情報を意味する。くりかえすが、生産オーダーは指示情報である。けっしてなすべき作業そのもの(=タスク)や、作業の結果である物品(=ロット)を意味するのではないことが分かるだろう。

では、なぜしばしば生産情報技術者に誤解や混乱がみられるのか。その理由の一つに、スケジューラーがガント・チャート上に並べて表示する四角い作業枠を、「オーダー」と呼ぶことがあるからだろう。あるいはもう少しさかのぼって、日本特有の製番を「オーダー番号」と呼んで、これをロットの標識に使ったりするからだ。これらは、実際にはタスクやロットのひも付け先を示しているにすぎない。オーダーとタスクと作業とロットは、かならずしも一対一に対応しないのだが、一種の目安として元ネタを表示しているのだ。

オーダーが発行されたら、かならずこれを履行して一件落着となる。これをFulfillmentという。こまったことに、この英語には定着した訳語がない。たぶん「フルフィルメント」と、カタカナで呼ぶことになるのだろう。
しかし、それもしかたがないかもしれない。オーダーだって、結局カタカナでよばないと、何となく落ち着かないらしいのだから。