最近、二人の方からよく似た質問を、別々の機会にいただいた。内容は、生産管理システムと生産スケジューラの連携についてである。10年前に「革新的生産スケジューリング入門」を上梓し解説した自分としては、なぜ今さらこの質問、と思わないでもない。だが近年、生産管理関係の書籍や情報は、トヨタ生産方式やジャスト・イン・タイム(JIT)流の現場カイゼンの解説が全盛だった。経済ジャーナリズムも、基本的だが地味な生産システム関係の話題はあまり扱わず、マクロな経済不況への嘆きか、ミクロな現場の職人技の賛美を報じたがる。生産システムはマクロとミクロの中間に位置するメゾスケールの問題のため、実務経験のない文系記者達には扱いにくい題材なのだろう。だから、こうした、ある意味でいろいろな製造業に共通する問題が見えなくなっているらしい。

その質問の内容だが、知人のコンサルタントからいただいたのは、「APSはMRPとともに用いられることが一般的だと考えていいか」という問いだった。一方、リードタイム短縮に関するセミナーで受講者の方からいただいたのは、「生産管理でつかえるスケジューラ・ソフトウェアにはどんなものがあるのか」だった。APSAdvanced Planning & Schedulingの略称で、最新型の生産スケジューリング用ソフトウェアを指す。一方、MRPMaterial Requirement Planningの略で(後にはManufacturing Resource Planningという『進化形』に言いかえられる)、従来型の生産管理ソフトウェアの計画系機能を表す。だから、二つの質問はある意味でよく似ていて、「従来型生産管理システムと、最新型生産スケジューラは、どう使い分けるのか、あるいは併用させるのか」という問いである。

最初に答えを言ってしまうと、「両者を上手に連携させるのが賢い使い方です。生産管理システムのMRPの機能を、外付けのAPSで置きかえる形がいいでしょう」となる。いわば、ハイブリッド型の構成で運用するのである。もっとも、片方だけでは運用できないのか、と言われると、むろん可能である(ソフト・ベンダーは皆そう言って売っているはずだ)。でも、多くの業種においては、十分ではない。

この話を理解するためには、まず製造業における情報の流れがどうなっているかを知る必要がある。図1は、わたしが「MES入門」で描いた図を少し修正したものだ。製造業においては基本的に、計画・指示系の情報の流れ(図では上から下へ)と、進捗・実績系の情報(下から上へ)がある。また、計画立案では実績情報を参照するし、現場作業は指示を実績に変える仕事である。したがって製造業では、反時計回りの情報のサイクルによって全体を動かしていることが分かると思う。

さて、図2を見てほしい。大手・中堅企業ではこの10年ほどの間に、ERPパッケージの導入がブームだった。それ以前は汎用機やオフコンでの業務ソフトが主流だったが、今やERPがそれをかなり置きかえている。ERPは“機能のデパート”みたいなソフトで、生産管理モジュールを持っている。そして、その生産管理モジュールの計画系機能の中心はMRPである(そもそも、「ERP」という用語はMRPをヒントにSAP AG社が発明した)。

だからERPさえあれば、生産業務も全部OKです、とベンダーは宣伝してきたが、現実はそう簡単ではない。MRPのロジックは、A型BOM(組立型の部品表)、固定リードタイム、タイムバケット単位の時間刻み、そして無限負荷能力などを基本としている。いいかえると、ディスクリートの組立型業種で、製造リードタイムは比較的長く、かつ工場の生産能力にかなり余裕がある工場をイメージしてできている。MRPの生まれた’60年代の米国ならこれで良かっただろうが、2000年代の日本には到底合わない。そのため、これをもとに現場を動かそうとすると、かなりの手作業ないしアドオンの追加が必要になっている。これが図2である。

この問題は、ERPを使わずに、専用の生産管理パッケージソフトを利用している場合でも、ある程度生じる。その根本原因は、MRPの計算ロジックとデータモデルが不器用で窮屈な点にある。そこで、より柔軟なロジックとデータモデルを備えたAPSを使おう、ということになる。APSは、それこそ今から10年前は米国製の非常に高価なものが主流だったが、今日では日本製のPCで動く軽いパッケージがいろいろ普及している。

MRPの機能は、需要情報から在庫引当てを行い、部品表展開して各工程の期限を計算する機能である。これは通常のAPSはみな持っている。だから、MRP抜きでAPSだけでも動かすことができる。では、「APSを単独で(MRPを使わないで)使用している企業も多い」かというと、答えは「微妙」である。

というのは、APSは通常、部品の調達系機能を持っていない。このため、部品納期がクリティカルとなりやすい場合には、単体では使いにくい。サプライヤーからの納期回答や入荷予定などの情報を別途取り込んでやらなければならないからだ。そういうケースでは、調達系機能をもつ生産管理システムあるいはERPと一緒に使う必要が出てくる。もう一つ、Allocated ATP(生産座席予約)を販売系と共有する場合も、ERPとともに用いることが便利だろう。

したがって、現場への指図(製造オーダー)はAPSから直接出すが、サプライヤーへの購買オーダー(発注書)発行は工場レベルの生産管理システム(あるいはMES=製造実行システム)などを利用する、というハイブリッド型の形態が現実解となってくる。これが図3に描いた仕組みである。なお、製造現場の特性によっては(とくに組立工程が中心の工場では)、別にMESではなくERPの生産管理モジュールをそのまま利用してもいい。図2や図3は、例を挙げただけであって、その企業のニーズと特性にしたがって、最も適した構成にすればいいのである。

そうは言いながらも、ちょっと気になるのは、最近の日本企業には、このようなメゾスケールの観点からシステムのアーキテクチャーを構想できる人が次第に減ってきている点である。組織の分業病が進行して、工場管理者は皆、ミクロな視野の中を生き延びるのに汲々としており、一方、本社の企画部門は分社化や買収など、マクロすぎる話に熱中している。肝心の生産システムに、システム設計者が居なくなる、というような状況でなければいいが、と老婆心ながら心配している今日この頃である。