わたしが以前から所属している「生産革新フォーラム」(Manufacturing Innovation Forum、通称「MIF研」)は、中小企業診断士を中心とした生産系コンサルタントの集まりである。毎年2回、工場見学を実施することをモットーとしており、昨年夏には慶応大学管理工学科の学生さんたちと合同見学会を実施したりした。製造現場をほとんど全く知らない学生と、それなりに経験を積んだ診断士では当然、同じ工場を見ても目をつけるポイントが違う。しかし学生さんにも素人ならではの意表を突く着眼点があり、交流してみるとなかなか楽しい。

そのMIF研で、もうけっこう前になるが、九州までの工場見学旅行があった。二日がかりでトヨタと日産の工場を一日ずつ回って見学し比較する、という興味深い企画で、わたしも行きたかったのだが、諸事情で参加できなかった。ただ、行ってきた仲間の報告が、とても面白い。トヨタと日産の生産方式は、用語は違うが、似ているところもたくさんある。自動車という複雑かつ大量の機械製品を扱う以上、当然のことかもしれない。そして両者とも、顧客の需要に合致したプル型生産を行っている。トヨタはこれをジャスト・イン・タイム(JIT)と呼び、日産は同期生産と呼ぶ。だが、同じプル型生産といっても、じつは根本の思想がかなり違う、というのが、見てきた仲間が語ったことだった。

では両社は、どう違うのか。ふつう、プル型生産とは、次のように理解されることが多い:需要に応じて、消費された分だけを補充して作る方式である。プッシュ型生産は、需要を予測し、生産計画を立てて製品を市場に送り出し(Push)する「見込生産」であるのに対し、確定した需要に応じて引きとられた(Pull)消費分を補充していく「受注生産」である、と。トヨタの有名な「かんばん」(引き取りかんばん)方式は、これを後工程から順次、最上流の部品材料投入やサプライヤーまでさかのぼって適用したものであり、自動車各社は呼び方は違えども似たような方式をもっている。

したがって、プル型生産を徹底するとなると、生産計画などは廃し、少量の製品在庫や中間在庫を要所要所に積んでおき、その消費された分だけを補充生産する、ということになる。事実、そういう風に部品メーカーを指導している、いわゆる「JIT生産」コンサルタントも多い。

ところが、このやり方を全社で貫こうとすると、非常に困った問題点が一つ出てくる。その問題に対するスタンスが、トヨタと日産ではほとんど正反対だ、というのが、見学してきた仲間たちの報告であった。その問題点とは何か。

それは『内示』の出し方である。プル型補充生産を徹底するためには、サプライヤーからも、「必要なときに必要なモノを必要な量だけ」納品してもらう必要がある。トヨタ風用語で言うと、ジャスト・イン・タイム納品(JIT納品)である。しかし、サプライヤーは、ドラえもんのポケットではないのだから、いわれたものをすぐ次々と宙から取り出してみせる訳にはいかない。事前の準備が必要なのだ。このために、自動車メーカーは通常、本生産の前月、2ヶ月前、3ヶ月前というタイミングで、部品別の発注量の「内示」を出す。

ところが、この「内示」とは、需要の読み(見込み)に他ならない。自動車の納入リードタイムは、ディーラーで内容・オプション等の細かな仕様が確定し注文してから、組立・製造・輸送(陸送)を含めて、最短でも10日程度だといわれている。書類手続きがはいるため、ユーザの手元に届くのは1ヶ月近くなるが、いずれにせよ、3ヶ月よりはずっと短い。だから、内示情報をサプライヤーに与えるためには、どうしても「需要の先読み」行為が不可欠になる。

ところが、当然ながらこの「先読み」には誤差が伴うわけだ。そこで3ヶ月前、2ヶ月前、前月、というタイミングで少しずつ修正をかけていくのだが、それでも、受注が確定するのはラインオフ(工場出荷)のわずか数日前である。どうしてもずれが生じる。別の言い方をすると、在庫や欠品のリスクが出てくる。そのリスクを、どうヘッジするのか。これが、トヨタと日産で逆方向なのである。

日産の場合、生産側でなんとか誤差を調整しようとするらしい。もとより在庫はミニマムだから、部品在庫や中間在庫で需要変動を吸収することは、難しい。頑張って、全工程に渡ってプル型補充生産を実行し、それをサプライヤーにも要請する。サプライヤーに手配する納入リードタイムも、いきおい短く設定せざるを得ない。リードタイムが長くなるほど、読みの誤差が大きくなるからだ。事実、別の時に、あるサプライヤーの工場見学できいた話では、96時間ほしい所を、どうしても日産は72時間しか与えてくれない、ということだった。それだけ努力しても、先行内示と、現実の発注量には、やはりけっこうな差が出てしまう。これが悩みらしかった。

ところが、トヨタのやり方は全く違う、という。まず、トヨタは意図的にバッファー在庫を持っている。自動車工場は、(1)ボディショップ→(2)ペイントショップ→(3)最終組立工程、というのが大きな工程の流れだが、彼らはペイントショップと最終組立工程の間に、バッファー在庫を置いているらしい(らしい、というのは、この部分は決して外部に見学させてくれないからである)。それ以外にも、いくつか、意図してバッファーを持っているところがある。そして、受注が確定したら順序計画で引き当てていく。まるで、デル・コンピュータのBTO(Build to Order)方式である。

日産はかんばん方式、トヨタはBTO方式」というのが、行った仲間の結論だった。日産は確定受注に同期して生産する、という思想なので、生産計画というものは予測ないし目安に過ぎず、位置づけが弱い。ところが、トヨタは工場に入ると、生産表示板に「今月の生産計画」が機種と台数で掲示されている。計画生産なのである。では、どこで計画と実需のアジャストをするかというと、大きくは月間生産・販売計画(最後は旬単位になる)で合わせて、細かな差は直前の引取かんばんで制御する、という仕組みになっている。だから生産計画の位置づけが重い。

トヨタ自動車社友(OB)で、現在は九州工業大学客員教授である黒岩惠氏は、このようなトヨタの思想を、端的に「内示でPushして、かんばんでPullするのがTPS(トヨタ生産方式)だ」と表現されている。まことに至言である。ここにあらわれているように、トヨタは決して、日産のように“100%受注生産”を志向していない。彼らは、ある部分は見込で、プッシュ生産である、と割り切っている。そして、必要とあれば、販売側に引取義務も課している。それは、トヨタ生産方式の最大の眼目である“平準化”を実現するためなのだ(これは別の機会に、トヨタの技監の方から直接うかがった話である)。

結果として、日産のやり方では、需給ギャップのリスクは生産側が負うのに対して、トヨタのやり方では、販売側が負うことになる。日産は全面的にプル型生産であるが、トヨタは実はプッシュ+プル生産だと言えるだろう。プッシュで計画し、プルで制御(調整)するのが、トヨタのやり方なのだ。

両者のどちらがベターかについては、議論もあろう。ただ、生産側と販売側と、どちらが市場に近く、どちらが需要(の変動)に敏感かといえば、やはり販売側ではないかと、わたしは考える。だとしたら、敏感な側に、より責任を持ってもらう方が合理的なのではないだろうか?

追記:
部外者のわたしの説明では信用されない方は、富野貴弘「日産生産方式と受注生産 ―トヨタとの比較を通じて―」(東京大学ものづくり経営研究センター、2010年) も、参考までにご覧いただくといいと思う。この論文は最後に、日産はマーケットイン的な色彩が強く、トヨタの場合は「販売が安定的な生産動向に合わせる」プロダクトアウト志向が強い、と結論づけている。