生産座席予約システムとATP

先日、MIF研(Manufacturing Innovation Forum)で、日本の“生産座席予約システム”と、MRPIIにおけるATPの関係が議論になった。ここで両者の相似と相違について、あらためて自分なりに少し整理してみたい。

まず、ATP = Available to Promiseからはじめよう。ATPは需要計画ないし販売枠管理において柱となる概念の一つでである。ATPとは、製品の現在庫数量を基にしたAvailability checkを時間軸上に延長したもので、客先から需要オーダーが入った時点で、当面の供給計画をもとに将来の「在庫量」を計算し、確約した受注にひも付けられていない数量ないし納期を回答する。

ATPの解説については、松原恭司郎著「図解 ERPの導入」(日刊工業新聞社[1997])のP.154-156 に、簡潔ながらすぐれた説明がある。この本は現時点で入手できる、<MRPII>に関する日本語で書かれた唯一最良の本だろう。また拙著「革新的生産スケジューリング入門」の第三章13節にも、ATPを一応解説している。

ATPの計算ロジックは、最終製品単位の基準生産計画(MPS)と、客先から受け取っている需要オーダーをベースにしている。需要オーダーには、販売担当者の願望的な予測から始まって、具体的顧客からの引き合いや予約、そして確定受注オーダーまで、さまざまなレベルが存在する。が、確約されたオーダー(committed order)から順に、将来availableな「在庫量」を引き当てて予約していくのだから、ATPはある意味でまさに生産座席予約に等しい訳だ。(「在庫量」にわざわざ括弧をつけているのは、その製品がどこかの倉庫に実際に積み上げられるかどうかは確定してないからである。)

例えば、NECで導入された座席予約システムでは、最終製品単位の供給予定量が与えられており、その中から営業担当者が順に予約していく方式であったと、知人の本間峰一氏から聞いた覚えがある。

ところが、青山学院大学の黒田先生のご説明によると、生産座席予約システムでは、MPSではなく生産能力(capacity)がベースになっているとのことだ。予定されている生産能力に対して次々予約を入れていくことによって、初めて最終製品品目が確定していくので、MPSはむしろ座席予約のアウトプットであるということだった。

生産座席予約の具体的事例をあまり知らぬまま敢えて憶測するのだが、このような形の「能力」予約が可能であるためには、満たされるべき条件があるような気がする。それは能力が製品数量の形で表現可能だということである(普通MRPIIの世界では、能力は時間で表現するので)。

製品ファミリー別に製造ラインを持っているフローショップ型の企業では、能力を製品数量の形で表現することは難しくない。しかし、一般にジョブショップ型の企業では、この関係付けはなかなか困難だろう。

とはいえ、ジョブショップ型製造業の中には、いわゆる、T字型のBOM構造を持つ業種がある。自動車やコンピューターなどがその典型である。こうした製品は、基本モデルに対し、オプション仕様の組合せから無数のバリエーションが生まれる。こういう業種では、MPSを考える場合でも、最終仕様レベルでの計画を立てるより、基本モデル単位(製品ファミリー単位)での計画を立てる方が現実的である。

T字型BOM業種の中にはこれを一歩進め、いわゆるBTOを行っている会社がある。デル・コンピュータが有名だが、自動車業界では、例えばトヨタなども実質的にBTOだ。BTOでは基本モデルの状態となる中間製品までは、見込み生産で作りだめをしておき、注文に応じて最終仕様を受注生産する。生産システム論的にいいかえると、プルとプッシュのカップリング・ポイントを「T」字の交点ぎりぎりまで持ってきている業態である。

このようなBTOを行なっている会社では、基本モデルベースでの生産座席予約が可能だろう。そして、座席予約自体は最終仕様にもとづいて行なうわけであるから、予約の結果はまさにMPSになるわけだ。しかし逆にいうと、BTOになっていないジョブショップでは、能力←→数量換算や、原材料部品在庫の制約などがあって、生産座席予約はかなり困難だろう。


以上をまとめると、MRPIIのATPをベースとした需要計画と、いわゆる「生産座席予約システム」との間には、以下の三点の違いがあると思われる。

(1)予約のベースとなる供給計画を、社外に対して開示するか否か
(2)供給計画として、基準生産計画(MPS)を用いるか、ラフカット能力計画を用いるか
(3)生産方式に条件があるかどうか(生産座席予約が可能なのは、製品ファミリー別に製造ラインを持っているフローショップ型の企業か、BTOを行なっているジョブショップ型の企業。これに対してMPSベースでのATPでは業種業態は問わない)

両者は基本ロジックにおいてはほぼ同じものだ。じっさい、たとえばSAP R/3 (SD)のATPや、i2 technologies SCPのAllocated ATPは、ほとんど販社による座席予約と事実上同等の機能を提供しているといっていい。ATPの概念は1980年には米国で確立していた。そういう意味では、残念ながら純粋に日本独自のものとは言いがたい。

とはいえ、私自身は、将来における供給能力を予約するというアイデアや計算ロジックを、日本人と米国人のどちらが先に発明したのかという議論はあまり重要だと思っていない。

むしろ、それよりも両者の一番大きな違いは、黒田先生も指摘されているように、(1)の社外開示のような、ビジネス上の使用ポリシーにあるだろう。需要オーダーというものの性質、つまり受注確度の濃淡や優先度、変更・キャンセルの取り扱いなど、法務及び商慣習上のややこしい問題をクリアしなければとうてい実現できるものではない。とくに米国における契約ベースでの企業間関係のシビアさを、多少実体験している身としては、その難しさは言うに余る。

会社対会社の「予約」という、法律論的にはリスクやあいまいさを伴う行為を、長期的な信頼関係という土壌の上で、現実に可能にしてしまった、日本の企業文化や風土の独自性を評価することの方が、もっとずっと大事なことだろう。こうした日本社会の中にある独自な優位性、いわゆる米国産「グローバル・スタンダード」とは異なる個性を、いかに伸ばし利用していくかが、われらが製造業の復活を左右するポイントのはずだ、と思うのである。