広域サプライチェーンのためのPSI(生産・販売・在庫)計画と、その立案手法DRPとは(2015/07/25)

ときどき感じるのだが、、「広域」という言葉でどれほどの距離をイメージできるかは、その人の育ってきた社会によって、かなり異なる。もう20年以上も前になるが、はじめて北海道の帯広から札幌まで、夜、鉄道で移動したことがある。特急で確か5時間程度の距離だったと思うが、途中、かなりの間、両側に全く人家のない漆黒の闇を走る。窓の外に見えるのは、車内灯からかすかに照らし出される大きな蕗の葉ばかり。まことに広漠な大地という感じで、都市に近づき人家の光が見え始めると、どこかほっとする。北海道の人は内地の人よりも大陸的だ、といわれるのも当然かな、と思った(古い世代の北海道人は、今でも本州以南を「内地」と呼ぶ)。

しかし、その北海道人だって、シベリアの鉄道や、北米の横断道路などを何日も何日も走り続ければ、「広域」とはこういう意味かと思うに違いない。たしか50年代の米国映画「ジャイアンツ」だったか、テキサスっ子が東海岸から花嫁を連れて故郷に戻る際、鉄道がテキサス州境を超えたので「もうすぐつくわね」と花嫁がいうと、「いや、まだあと二日かかる」(Two more days.)と男が答えるシーンがあったと記憶する。列車であと二日。この距離感は、ただ飛行機にのって一気に飛んだだけではピンとこない。

これだけ広大だからこそ、米国人は、いや米国に限らず大陸の人間はおおむね、補給とかロジスティクスといったことに関心が高くなるのだ。それは製造業とて同じである。電話一本で何でも翌日に届く日本国内にいると、モノが足りなくなる心配は売り手にとっても消費者にとっても、あまりシリアスではない。しかし大陸国で欠品が生じたら、それを手配するのに1週間かかるなんてのは、ある意味、ザラである。

仮にあなたが全米相手の消費材を作る会社の社長だったとしよう。たとえば、何でもいいが、出版社としようか。米国の出版事情に詳しい訳ではないが、少なくとも米国には再販制度という便利な仕組みは、存在しないはずだ。本は自分のリスクで製造(印刷)して、売れそうな全米各州の書店に自分の判断で配本しなければならない。書店の店頭になければ、消費者はたぶん別の本を買ってしまうだろう(よほどのベストセラーや特殊な専門書でない限り)。だから店頭在庫は必須だ。しかし再販制度がないから、書店では、仕入れた本が一定期間売れずに不良在庫化したら、赤札付き値下げ商品として叩き売るしかない。その在庫水準の決め方はむずかしい。

この事情は食品・飲料だろうが、家電製品だろうが、自動車だろうが、ほぼ同じである。流通在庫を維持できるよう、販売量(需要)を読みながら、供給(プッシュ)していく。生産拠点(工場)と流通の末端を結ぶ、長いサプライチェーンの途中に、物流センターやデポを持つケースも多いだろう。では物流センターを、全米50州の、どことどこに配置するべきか。なにせテキサス州の端から端までだって陸送で2日かかるのだ。消費者ニーズに即応、などといっていた日には、全米に100ヶ所くらい建てなきゃならない。実際、Amazon.comはそれくらいの数を持っていて、あの会社が巨大なくせにあまり儲かっていないのは、この投資負担もあるのだ。ところが、じつは物流センターというのはある程度集約した方が、需要のぶれが小さくなって、在庫効率が高くなる。輸送のリードタイム短縮を狙うのか、それともトータルな在庫削減を狙うのか。これも難しい判断である。

だから広域サプライチェーンを抱える企業は、サプライチェーン全体の生産・販売・在庫を一括して計画する仕組みが必要になる。これを生産(Production)・販売(Sales)・在庫(Inventory)の頭文字をとって、PSI計画とも呼ぶ(日本語では『生販在計画』だが、こちらは気をつけないと仮名漢字変換がとんでもない誤変換をしてくる^^;)。これは営業と生産を統括する機能である点に注意してほしい。よくある話だが、営業と工場が不仲で、営業本部は営業本部でチャレンジ目標なんだか需要予測なんだかわからない『販売計画』を立て、工場側は工場側で、「どうせ営業の数字なんてあてにならないから」勝手に割り引いて『生産計画』をたてる、なんてことをしていた日には、あっという間に欠品と不良在庫で会社は回らなくなってしまうだろう。

そのPSI計画の立て方だが、大別して、集中型と分散型がある。集中型は、本社1ヶ所で、全体の計画を立てる方式だ。分散型は、販売拠点や物流センターなどが一定の権限を持ち、拠点や地域単位で、それぞれ計画を立てる。両者は、一長一短であろう。需要に地域差や季節性が強い場合、現地の感覚を肌身で感じる場所で需要を読んだ方が、正確だ。需要の変化にも即応性が高くなる。そのかわり、サプライチェーンの中で複数階層の計画機能を持つと、どうしてもブルウィップ効果が生じやすくなり、上流側の生産量のアバレが大きくなってしまう。在庫の無駄も増えてくる。

全体の在庫や生産効率の最適化を求めるなら、集中型の方が有利である。ただ、集中型が通用するのは、需要にあまり地域性や季節性などのムラが少ない商品だ。あなたが小説やビジネス書の出版社主なら、きっとこちらに該当する。この集中型で使われる手法の一つが、DRP = Distribution Requirement Planningである。日本語では流通資源計画などとも訳すが、これでは何のことだかちょっと分かりにくいだろう。

DRPは、生産計画におけるMRPと対比すると理解しやすい。

DRPでは、BODというデータを中心的に用いる。BODはBill of Distributionの略で、マテリアルに所在情報を付加したリストである。日本語には対応する適当な言葉がないので、ここでは「物流表」と仮に呼ぶことにしておくが、MRPでいうBOM(部品表)に相当する。製造の世界では、同じマテリアルはどこにあっても同じマテリアルだが、広域物流と輸送機能を考えた場合は、たとえ同じマテリアルであっても、テキサスにある物とニューヨークにある物を同一視できない。テキサスの工場で製造したマテリアルをNYのデポにもってくるには、輸送という作業が必要になるからだ。

BOMとは、(著書「BOM/部品表入門」でもこのサイトでも何度も書いているように)、相互に関係を持つマテリアルと数量のリストである。製造の世界では、一連の作業(工程ないし工順)にしたがって、インプットのマテリアル(つまり子部品)から、アウトプットのマテリアル(親部品)が作られる。

広域サプライチェーンの視点に立つと、物流・輸送も広い意味で製造と並ぶ供給活動の一環である。したがってテキサスの工場の部品資材を、製品としてニューヨーク市場に供給するためには、両者を区別して、その間に輸送という活動をはさむ必要がある。DRPでは、以下の手順に従って生産・輸送量を決める。

(1)各地域別に独立需要を予測し、これをベースに地域別販売数量(地域別総所要量)を定める。
(2)地域別の総所要量から、各地域の物流センター/デポに保有している引当可能在庫を差し引いて、地域別正味所要量を計算する。この際、各地点で安全在庫量を定めている場合は、それを加味した上で所要量を算出する。
(3)地域別の供給ルートと、標準輸送リードタイムにしたがって、供給元における総所要量を計算する。
(4)このようにして求められた生産工場における従属需要(所要量)が、その工場の基準生産計画(MPS=Master Production Schedule)に相当する。あとはMRPの手順に従って生産計画・購買計画を立案する。
(5)なお、生産自体を海外に出している企業では、海外工場への手配計画も必要であるし、主要資材を海外から調達する場合にも、その手配計画も作成する。

DRPを利用している企業は、日本では非常に少ないと思われる。今日の日本では物流網が発達し、だいたい1日あればどこにでも品物を送れるからだ。このため、大げさな輸送計画は不要なのである。また、物流と生産のタイムバケットがうまく整合できない(物流は1日、生産は1週など)という技術的な問題もあるだろう。

ただ、日本企業でも、中国や東南アジアを含むグローバルなサプライチェーンをかかえて、本社で集中的計画を立案している企業では、DRP的なニーズがあるし、前々回紹介したトヨタ自動車などは、まさにその例である。今後、望む・望まないに関わらず、サプライチェーンが国境を越えて広がる企業が増えていくと思う。その際、営業と生産の二元論的な経営を超えて、統合的な計画を立てられるようになるかが、試されていくだろう。