受注型ビジネスにおける業務量の予測法 (2014/09/07)

基本的フレームワークで4種類のビジネスモデルを理解する』で述べたように、ビジネスの基本形態は大きく、見込型受注型に分かれる。別の言い方をすれば、「Push型」と「Pull型」という風にも考えられる。市場の需要に対するスタンスが、前者の見込型では、自分から需要を想定して事前準備(生産)し、市場に対して"Push"していくのに対し、後者では実際の顧客の注文を起点として、製品やサービスをつくり提供していく、受け身("Pull")的な動きをする訳である。もちろん、別にどちらがよい、わるい、という事ではない。市場と製品の性質にしたがって、適不適があるだけである。客の注文を聞いてから魚を釣りに行く料理屋はないし、先にプラントを建ててから買い手を探すエンジニアリング会社もありえない。そして住宅のように、建売と注文住宅が共存するような市場も存在する。

ところで受注型ビジネスにおいては、見込型ビジネスに比較して、一点、難しいところがある。それは、先々の受注量(=業務量)が予測しづらい点である。製品やサービスを生みだすためには、人員や設備や原材料・金型等をあらかじめ手配する必要がある。急に受注が増えたからといって、人も設備も、今日頼んで明日からすぐ増やせるものではない。人の採用にはかなりの時間がかかり、教育もしなければならない。かりに外部からの派遣に頼るとしても、やはりアレンジし面接して適性を評価して、とやっているうちに、すぐ数週間たってしまう。設備・金型などの増強も同様である。手配するのに数週間から数ヶ月、ときには1年以上もかかることがある。

だから、受注が年間を通じてきわめて安定しているような理想的ケースは例外として、受注型ビジネスを営むたいていの企業は、先々の業務量をなんらかの形で想定した上で、要員や設備の手配計画、すなわち『リソース計画』を立てている。このリソース手配計画は、ふつう3ヶ月とか半年に一回行われ、向こう1年~2年程度の期間をタイム・ホライズンとして見るような計画である。したがって、生産計画や生産スケジューリングなどよりはずっと単位とする時間軸が長いが、予測にもとづく計画であることに変わりはない。

では、この業務量予測を、どのように行うべきか。これはいうまでもなく、すでに受注して抱えている業務量(受注残の分)と、これから受注するつもりの業務量(受注予想の分)の合計になる。受注ビジネスでは、この二つをしっかりとウォッチしていかなければならない。既受注分の業務量予測は、技術・製造部門の責任範囲である。そして新規受注の予想はむろん、営業部門の責任範囲になるのが普通だろう。

既受注分は、すでに受注し確定しているんだから、今さら何を「予測」するんだ、などと問うなかれ。予測は必要なのである。たとえば1億円の案件を3ヶ月前にすでに受注していたとしよう。全体の工期は6ヶ月で、約束の納期は3ヶ月後である。半分は済んだ勘定である。したがって、残る業務量は5千万円分だ、などと計算できないことはすぐわかる。まず、仕事は毎月均一のペースで進む訳ではない。最初は基本設計があり、それから詳細設計や購買手配があり、後半になると製造・テストなど大幅な力仕事になる。だから、時間が半分たった時点での進捗率が50%ということは、普通はない。オーダー別の個別スケジュールを見た上で、あとどれくらい仕事量が残っているかを計算しなければならない。

おまけに、仕事なんて予定どおりはなかなか進まぬ。当初のスケジュールでは6ヶ月後に作業の40%までが進むはずだった--でも、顧客の度重なる変更要求や、それにつられて起きた設計のミスなどで遅れが生じ、実際は32%しか進んでいません。業務量はまだ68%残っている。しかも、このままで行けば納期を5週間は遅れてしまいそう・・などという事態がよく起きるではないか。そうしたことを、(かりにここまで細かく数値化はしないとしても)適時勘案し、受注残の業務量を「予測」する必要があるのである。それはまさに、工程管理者の仕事である。

では、営業部門が担当すべき、受注予測の分はどうか。

わたしが想像するに、多くの企業では、「見込案件リスト」を営業部門がまとめているはずである。案件リストには、それぞれ案件別に、顧客名、案件名、案件内容、受注金額(想定)、受注確度、受注時期、営業担当者、などが並んでいる。これをExcelで作っている会社もあるだろうし、もっとスマートなところは、SFA(Sales Force Automation)とかCRM(Customeer Relationship Management)と呼ばれる種類のソフトウェアでデータベース化しているかもしれない。

そして、この案件リストは、まず「受注確度」によって、ABCランク、あるいは松竹梅、呼び方は何でもいいが、ランク別にソートされるだろう。Aランクは「受注確実」とか「必注」と考えられている案件である。Cランクは「とれないかもしれないなあ」となかば諦めている案件で、Bランクはその中間領域に属する。このような案件別の受注確度の評価も、必ず営業部門はしているはずだ。

その上で、営業部門の責任者が、Aランクの表は真剣に、Bランクはそれなりに、Cランクはまあ適当に、じっくり眺めた上で、案件ごとの受注確度などを個別に推定・調整し(いわゆる「鉛筆を舐め」て)、最終的な受注量を推定する、という手順である。受注確度についても、担当者の評価とは別に、営業トップの査定があり、大事な案件の場合は、担当者をてこ入れしたり支援しながら、受注確度を上げるよう努力を払う。とにかく、普通の企業の営業部門は受注金額が最大の評価指標である。だから、この作業は定期的に、かつ真剣に行われる。そこで最大限に活かされるのが、営業トップのエキスパートしての経験と判断である。

ところが。

わたしがたまたま知っている欧米系企業の中には、これとはかなり違うやり方で、受注量予測をしているところがある。彼らのやり方は、どんな方法か。

「見込案件リスト」を集成し、それが予測のベースになるところまでは、もちろん同じである。だが、その先の手法が、ぜんぜん違う。彼らは、個別案件の受注予測額を次のような数式で評価する。

受注予想額 = 案件想定金額 × 受注確率
      = 案件想定金額 × (案件実現確率 ÷ 競合社数)


ここで案件実現確率は、次のようなステップで決められている。

 (1) 構想段階 10%
 (2) 事業化検討(Feasibility Study)段階 25%
 (3) 基本設計段階 40%
 (4) 投資決定(Investment Decision)段階 70%
 (5) 引合い・入札段階 80%
 (6) 金額交渉段階 90%
 (7) 受注決定 100%

このように、案件の実現する確率を、その案件が顧客内部でどのような段階まで「成熟」しているかで、自動的に推定するのである。

つぎの受注確率は、ごく単純に、競合相手が1社ならば50%、相手が2社ならば33%、4社競合ならば25%、という風に考える。自社を含めてN社の競争ならば1/Nの確率である。ウチが有利だとか、相手が強そうだとか、競争に裏がありそうだとか、そういったいわゆる「営業マル秘情報」は一切加味しない。

そして、リストにある全案件に、上記の数式を機械的に当てはめて計算し、受注推定時期に応じて、四半期ごとに積み上げて行く。それが彼らの経営計画の基礎数値となるのである。直近の業務量負荷計画は、この数字を用いる。

このようなシステマティックな、しかし機械的な予測方法には、違和感を感じる向きも多いと思う。そこには営業マンたちの持つ、生々しい情報や経験に裏打ちされた判断が、ほとんど取り込まれないからだ。前述の通り、普通の日本企業の場合は、営業案件リストを見ながら、営業部門の責任者たちが、なるべく蓋然性の高い受注予測をつくって、業務量負荷計画のベースとする。ここの工夫が一切、数字に反映されないことになってしまう。

それではなぜ、このような方法を彼らはあえて取るのか? そこには、基本的な考え方の差があるからだ。それは、重要な仕事のプロセスを、属人性に頼る形でデザインすべきかどうか、の差である。上に書いたような方法をとる企業は、経営資源のベースを決めるような仕事について(要員は大事な経営資源だ)、誰もが客観的に説明可能なやり方をすべきだと信じている。そして、そうしなければ、まず株主が納得しないはずだ、とも考える。

なんでこのような数字で経営計画を立てたのか? と株主にたずねられたとき、「セールス担当副社長のジョン・某の長年の経験と勘で・・」では通らない。なぜなら、ジョン・某が来月、急にライバル会社に転職したら、誰がこの会社のリソース計画を裏書きするのか。--まあ、こんな問答は極端としても、彼らには“業務プロセスは誰がやっても結果の品質にむらがないようにすべき”という発想が強いのだ。この点、“品質は熟達した職人がつくる”と無意識に考えている多くの日本企業とは、ずいぶん違う。

また、計画のベースとなる予測数値に、個人や部署の「思い入れ」だとか「やる気」だとかいった主観的願望を入れるべきではない、という思いもある。これもまた客観性の担保である。

さらに、上記のような計算方式をとることで、リソース計画を審議するマネジメント層の議論のあり方が、まったく変わってくることに注意してほしい。彼らは、過去の推計値と実績値を比較分析することで、たとえば

「(4)投資決定段階にある案件の実現確率は、40%よりも45%とする方が、事実をより正確に反映するようだ」 
「直近2年間の案件履歴を見ると、わが社は(4)段階から(5)段階に至る間に、相当数の案件がリストから消えてしまう。これはすなわち、引合い入札前の事前審査対応に何か問題があるのではないか」

といった議論をする訳である。他方、「個別案件鉛筆舐め方式」では、どうしても案件単位の議論、それも願望や情熱を含めた議論に終始しがちだろう。

むろん、機械的計算方式をとるからと言って、個別の営業局面での仕事に大きな違いがある訳ではない。彼らだって営業情報は必死になってとっている。どこが競合相手なのか、自社はどれくらい有利なのか。失注したら、どこが勝ったのか、なぜ自分たちは勝てなかったのか、どれくらい値差があったのか、なんとかして探り出そうとするのは、我々と同じだ。営業マンの査定方法まではわたしは知らないが、やはり受注額がモノサシになる点に違いはないだろう。ただ、その査定にしても、

「ジェームズ君。計算式で言えば君の今期の受注額予測は40万ドルだったが、実績は46万ドルと上回っているな。昨年同時期に比べると絶対額は減ったとはいえ、その分の努力は評価できる」

くらいの会話は成立しそうな気がする(ま、ここは想像である)。

念のため言っておくが、わたしはすべての欧米企業が上記のようなやり方をしている、などというつもりもないし、まして日本の受注ビジネス型企業が明日から全員真似すべきだ、などとも思ってはいない。まさにそれこそ「経営判断」で決めるべきである。ただ、繰り返しになるが、重要な業務プロセスを属人型でやるか客観型ですすめるかは、大きな思想の違いである。属人型の場合は、人を育てる(ないし、素質のある人を選抜する)しかない。客観型の方は、それを技術として継承し改善していく事が可能である。それがすなわち、わたしの好きな用語で言えば、「マネジメント・テクノロジー」となる訳である。

ともあれ、受注型ビジネスの企業においては、業務量の予測とリソース手配計画という重要な仕事があることは頭にとどめておいていただきたい。

え? そんな「リソース計画」などという小洒落たものはない? --それってあれですか。「手前どもは身の丈にあった以上の注文は受けるな、という先代からの方針でして」という、老舗らしいディセンシーあふれる方針ですか。あ、違うと。「とれてもいない仕事の心配なんかしてどうなる。とれてから考えればいい! 人が足りなきゃ外に丸投げしたっていい。やり方なんて仕事についてくる」が、社内の合い言葉ですか? そりゃたいへん失礼いたしました。それなら、ここに書いた話なんて、みんな忘れていただいて結構です。