「在庫管理」には二種類ある

拙著「革新的生産スケジューリング入門」の冒頭にも書いたとおり、私はあまり「管理」という言葉を使わない。管理という日本語は便利だが、非常に多義的であり、使い方に注意しないとみえない誤解を生むことがある。

その一つの典型が「在庫管理」ではないだろうか。在庫管理をめぐって社内外の技術者と議論すると、どうも誤解や混乱が生じることが多い。そのうちに私はふと、在庫管理という用語が、じつは二種類の異なる意味で使われていることに気がついた。それは「在庫品」のコントロールと、「在庫量」のマネジメントである。

いったいその二つのどこが違うのだ、とお思いだろうか? 在庫品を管理する事とは、同時にその数量を管理することでもある、はずではないか。

ところが、必ずしもそうではないのだ。製造業の中には、製品や資材の物的管理はきちんとしているが、製品在庫量や資材の在庫レベルについては明確な基準がなく、なりゆきまかせに近いところが、少なくない。それどころか、この両者を担当する部署が異なる場合さえある。うかつにも私は、このことに最近まで気がつかなかった。それというのも、管理という日本語に安易によりかかっていたせいだ。

在庫管理の本を読むと、パレート分析(ABC分析)や、定期・定量発注方式、ダブルビン法などが解説されている。また、安全在庫数量と経済的発注点をもとめるWilsonの公式がのっていることもあるだろう。こうした理屈は、在庫数量をどうするか、という課題に対して役に立つ。在庫が多すぎては困るし(在庫金利や保管費がかさむ)、少なすぎて欠品をしばしば起こすようでは、業務に差し支える。

そこで、基準レベルを決めて、足りなければ補充の依頼をかけ、多ければ供給を止めて減らしていく。無論、客先需要や社内の使用量はいろいろな要因で変動するから、うまく先読みをして計画を立てる必要がある。--こうした行為が、すなわち「在庫量のマネジメント」だ。マネジメントとは、リスクや環境変動の中で、なんとか目的を達成するための営為を指す。

ところで、「在庫品のコントロール」は、もっと目の細かい、几帳面さを要求される現場作業である。在庫品一つ一つに現品票や整理番号を与えて台帳に記帳し、物品を傷つけないように保管し、入出庫し、包装あるいは開梱し、搬送する。そして、どの物品がどこにあるか、その所在をつねに把握しておく。いったん要請があれば、すぐに取り出せる状態にする。また、急な入荷に備えて、つねに保管スペースの空きを用意しておく。

とうぜんながら、在庫品のコントロールもまともに出来ないような工場では、在庫量のマネジメントなど出来るわけがない。保管がわるくて損失が出たり、所在が行方不明になるようでは、在庫量の把握もおぼつかないからである。しかし、在庫品のコントロールが出来ている企業が、必ず在庫量をマネジメントしているかというと、そうとは限らない。コントロールはマネジメントの必要条件だが、十分条件ではないのだ。

ことに最近は、物流業務を3PLに外部委託するケースが増えている。この場合は、請け負う側は物品のコントロールのみに責任を持つ。在庫レベルの増減、つまりいくつ売り、いくつ作るかは、物流会社の権限の外である。こうして、二種類の在庫管理は、いよいよ組織面でも権限的にも異なるプロセスとなっていく傾向にあるようだ。

そこで私は、混乱を避けるために、前者を物的保管業務、後者を在庫量統御業務とよぶことにしたらどうか、と提案したい。提案したいが、あまり受けないだろうことは想像に難くない。だって「管理」の語がなければ、自分の仕事にちっともありがたみが感じられないではないか。