リードタイムを短縮する

リードタイムとは、オーダーを出してから、それが完遂(fulfill)されるまでの時間である。この定義については前回書いたが、さらに正味作業時間との違いについて説明した方が良いかもしれない。あちこちで誤解があるからである。

リードタイムとはあくまでオーダーから完遂までの全体の期間(Gross duration)を示す。生産管理の世界ではつねに総量(Gross)と正味(Net)の二つの量があるわけで、全体期間に対応するのが正味作業時間(Net working time)である。正味時間は、その工順なり作業なりに必要な最低限の時間である。Aという部品1個を旋盤にかけて加工するのに30分かかるとしたら、これがAの加工の正味作業時間である。

ところが、よく考えてみてほしい。部品Aを10個加工せよ、という製造オーダーが現場に出されて、すぐに作業に着手したとしよう。全部で300分=5時間かかって完遂する。つまり製造リードタイムは5時間となる。しかし、この10個の部品(ワーク)のうち、1個だけに着目すると、それが旋盤にかかっているのは30分のみである。では、あとの270分間は何をしているかというと、他の部品の加工が終わるのを、ボサッと待っている訳だ。つまり、リードタイムには正味作業時間の他に、かなりの『待ち時間』が含まれているのである。これを「ロット待ち」と呼ぶことはご存じの方も多いと思う。

しかし、それだけではない。現実の世界では、製造オーダー(差立て)が現場に出されても、まず、その部品が手元になかったりする。資材倉庫からもってこなければならぬ。あるいはサプライヤーからの納品を待つ。さらに加工機械が空く順番を待たねばならぬ。加工用の工具や治具も必要だ。それから旋盤にかけるのだが、まず段取り替えが必要だ。そして調整と確認と工程内検査。あれやこれやで、どんどん正味作業に関係のない時間が過ぎていく。ロット待ちだけなら、なんとなく、リードタイムは個数に比例するのかな、と思いたくなるが、こうしたその他の待ち時間は、あまり個数に関係なさそうだ。

ことは製造に限らず、リードタイムの中には、つねにかなりの待ち時間が含まれている。ということは、リードタイムを短縮したければ、この待ち時間を削減すればいいということに気がつく。ここで活躍するのが三つの定石である。

第一の定石は、「先にできそうな事はやっておく」である。その端的な例が在庫を持つことだ。製品在庫や部品在庫には、そうした“時間の缶詰め”という意味がある(「生産計画とスケジューリングの用語集」の『安全在庫』の項を参照)。よく、料理屋に入って注文した品がなかなか出てこないと(つまりリードタイムが長いと)、「おーい、材料のお魚を釣りに行ったのかな」などと冗談を言うことがある。普通、料理屋は朝のうちに材料を仕入れておく。これが部品在庫の意味で、たしかにリードタイム削減に貢献している。

第二の定石は、「順番作業を並列作業にかえる」である。Xの作業を終えたら、つぎにYの作業、という風になっている手順を、工夫することによって、「Xの作業をはじめたら、それとならんでYの作業を同時並行に進める」という風に変えてしまう。たとえば、段取り替えを機械や工程の外で準備しておく、“外段取り”などはこの定石の一例である。機械加工をしながら、同時に次の作業の段取りを進められるようにする。これによってグロスの時間を短縮できるのである。これを「ファースト・トラッキング」とも呼ぶ。

第三の定石は、「ロットサイズを小さくする」である。これはロット待ちの時間を削減する効果がある。一個流し、はこの極限だ。ただし、これを実現するためには、“シングル段取り”など異種混合でのライン切替をできる限り小さくする知恵と努力が欠かせない。一個流しまではいかなくても、搬送ロットを製造ロットサイズより小さくするだけで効果が出る。100個のロットをつくるとき、全部が加工し終わるのを待たずに、端から(たとえば)10個ずつ次工程に流していく。すなわち、「流れをつくる」である。

いや、これは工場だけではない。ホワイトカラーのかかわる設計や企画段階においても、「情報の経済的ロットサイズを考える」に書いたように、情報受け渡しのロットのまとまりを小さくすることで、エンジニアリング段階でのリードタイムをかなり短縮できることがあるのだ。

あれ、「クラッシング」はどうした? とPMBOK Guideを読み慣れた人は思うかもしれない。クラッシングとは端的に言って、リソースを増やすことによって正味作業のスピードアップを図る手法である。PMBOKの教科書の世界では、リードタイム削減はクラッシングとファースト・トラッキングの二本立て、みたいな解説が多い。しかし、あれは毎回仕事の中身のかわるプロジェクト・マネジメント分野の話である。生産管理の世界では、「先にできそうな事」はいろいろあって、これを利用する方がずっと納期短縮への貢献度は大きいのだ。何事においても、公式の丸覚えより、応用の知恵の方が大事なのである。