リードタイムとは、いつからいつまでの期間をいうのか (2011/10/03)

海外プロジェクトの納期について、社内で議論になった。ま、いつものことだ。現在のわたしの仕事は海外プロジェクト部門のPMOで、主にタイム・マネジメント技術を受け持っている。プランニングとスケジューリングと進捗モニタリングのやり方をどう改善するかが、日々の仕事である。

そのとき議論のネタになったのは、鉄骨材料の調達納期だった。プラントの写真をごらんになった方はお分かりのとおり、プラントというのは配管のカタマリである。その配管を乗せるメインの通り道のようなものを「パイプラック」と呼ぶ。パイプラックは普通、鉄骨を縦横に組み合わせてフレーム(架構)を作る。このフレームの中や上を、多数の配管が通るのである。そして、この鉄骨パイプラックの建設は、しばしばプラント建設スケジュールのクリティカル・パスにになるのだ。

パイプラック用鉄骨の調達リードタイムは、国にもよるが最低でも6~8ヶ月はかかる。たとえば中東などの鉄骨製造業者だったら、8ヶ月程度と見るべきだろう。そして奇妙なことに、このリードタイムは、発注数量にあまり依存しないのだ。たとえ500tonの発注だろうが、1,000tonの発注だろうが、1,500tonだろうが8ヶ月かかる。

どうしてかというと、実際には鉄骨製造業者の工程を分解すると、次のようになるからだ。

(1) エンジ会社から受け取った図面を元に、素材となる鋼材(これを「生材」と呼ぶ)の必要数量を集計する・・・1ヶ月
(2) 製鉄所から「生材」を調達する・・・3ヶ月
(3) 「生材」の納入を待つ間に、工場での製作図をつくる・・・(上記に含む)
(4) 入荷した生材を切断・穿孔・溶接して加工する・・・2ヶ月
(5) 加工した鉄骨部材の表面を処理して塗装する・・・1ヶ月
(6) 検査・梱包して出荷する・・・1ヶ月弱

以上を合計すると、1+3+2+1+1 = 8ヶ月という計算になる。この中で、本当の意味で加工・製造と呼べる時間は、ステップ(4)と(5)の合計3ヶ月に過ぎない。ここは、工場内の加工機械の段取りや工程間の資材搬送などが影響して、数量が500tonから1,000tonに増えても、たいして期間的に変わらない(もっともこれが5,000tonとか1万tonとか桁違いに多くなれば、さすがにもっと長くなるが)。そして、(4)と(5)以外の期間はほとんど数量に依存しないから、結果としていつも8ヶ月かかる、という訳である。

この中でも、もっとも馬鹿みたいに思えるのがステップ(2)の、“製鉄所から「生材」を調達する・・・3ヶ月”である。発注準備作業であるステップ(1)を加えると、なんと全体のリードタイムの半分が、鉄骨製造業者から製鉄所への生材調達リードタイムに消費されてしまう。納入の関係を図示すると下のようになる。したがって、プラント全体の建設工期を短くしたいと思ったら、これを何とか短縮しなくてはならない。

 [エンジ会社] ←(鉄骨)← [鉄骨製造業者] ←(生材)← [製鉄所]

それにしても、生材というのは要するに、H形鋼とかL形鋼とか、カタログに載っているような標準的商品である。なぜこれの調達が3ヶ月もかかるのか。答えは意外にも、製鉄所が「受注生産」で動いているからだ。鋼材や鋼板といった製鉄所の産品は、わたし達の素人目には区別がつかないものの、かなりいろいろなバリエーションがある。断面の各種サイズや長さの他に、素材である鋼の成分にも多くの種類がある。したがって、製鉄所は見込で生産などしない。実需にもとづいて、月間生産計画を立てる。鉄鋼の素材は溶鉱炉に投入する原料の配合で決まるから、月単位で高炉のスケジュールを立て、その下流工程である圧延その他の工程計画を決める。

実際に溶けた鉄が炉から流れ出てきて圧延・成型・裁断されるまでは、たとえ1,000tonだってほとんど「あっという間」である。ただし、製鉄所は月単位の生産計画だから、1ヶ月間で必要な全品種を、順次無駄がないように切り替えて作っていく。注文したH形鋼のサイズがいろいろあるから、全部の種類がそろうまでには最大1ヶ月間かかる計算だ。そして、材料を全部揃えて検査・梱包し輸送納品するまでに1ヶ月。加えて、受注してから生産計画に組み入れられるまでが最大1ヶ月だ(たとえば翌月計画の締めが毎月15日だとして、受注が16日だったら生産は翌々月になってしまうため)。無論、運がよければ最小2ヶ月以内で納入される可能性もあろうが、確約はできない。スケジュールを立案する側としては、確約された納期で線を引かざるを得ないことになる。

標準リードタイム」というのは、ある意味、不思議な概念である。それは作業の開始から終了までの時間ではない。指示(Order)が下されてから、それが完了する(Fulfillment)までの、確約できる標準的期間をいう。標準は平均ではないことに注意してほしい。鉄骨製造業者が生材を発注してから納品してもらうまでの平均期間は、たぶん2ヶ月半未満だろう。最小値は1ヶ月程度のこともあるにちがいない。でも、確約できる調達リードタイムは3ヶ月だ。エンジニアリング会社にとって、鉄骨製造業者に発注してから建設現場に納入されるまでの標準リードタイムは、先ほどの計算どおり8ヶ月になる。うまくタイミングさえ合わせられれば、最小6ヶ月かもしれないのだが。

鉄骨生材のリードタイムと似たような状況は、月次生産計画で動いている製品には必ずついて回る。たとえば鋳物などもそうだ。鋳物製造業者も炉をもっていて、その「湯」の配合は月単位で計画していく(溶けた鉄鋼のことを「湯」と呼ぶのは、たたら製鉄以来、ほとんど古代からの伝統らしい)。だから鋳物の標準調達リードタイムは、どんなに少量発注でも、最低2ヶ月(場所と内容によっては3ヶ月)になる。これもタイミングさえ合えば、1週間後に製作できるかもしれないのに。

「確約」は「責任」とセットになった概念である。受注した納入業者側は、顧客に対して納期を確約し、納期に責任を持つ。でも、納期に責任を持つとは、どういう意味だろう? 品質に責任を持つ、なら理解できる。製品の品質が要求に合致しなかった場合、自己負担で作り直すのが品質責任だ。価格への責任とは(あまりそういう言い方はしないが)、約束した価格で製品を納入することだ。思った以上にコストがかかってしまっても、それは自分が負担する。でも、納期に遅れたら、どう責任を取るのか? 時間を取り戻してくれるのか? あるいは納入先に人を送り込んで、後続作業を手伝ってくれるのか。

むろん、そんなことはしないし、できない。せいぜい、納期遅延のペナルティ金を払う(もし契約に規定されていれば)だけである。時間は一方通行で、だれも埋め合わせをすることはできないのだ。

一般にリードタイムが長くなるのは、この「責任」があちこちの隙間にはさまってくるからだ。隙間というのは、むろん、会社間あるいは部署間のインタフェースである。「依頼者」と「受託者」が発生するたびに、かれの責任感の分だけ、確約できる期間が長くなってしまう。会社間の場合は契約上、致し方ないかもしれないが、同じ会社内の部署間でモノや役務が移動する毎に、少しずつリードタイムが加算されていくのは時間の不経済である。

標準リードタイムが長くなるもう一つの要因は、月次計画サイクルの存在だ。月次サイクルは技術的理由から決済の慣習まで、いろいろな事情に支えられて存在している。だが月次サイクルとは、いいかえれば1ヶ月間のタイム・フェンスを生産計画に設定しているのと同じだ。月次計画のスパンで順序繰りを決めて原価を最適化するのは素晴らしいように思えるが、コストの代償として生産のフレキシビリティーを捨てていることになる。

わたし達が抱えるリードタイムは、このような確約責任と月次サイクルという局所最適化が積み上がった結果、長い待ち時間を含んでいる。これに(上では説明を略したが)「ロット待ち」を加えれば、ほとんどが作業時間でなく待ち時間になると言ってもいい。長いリードタイムは、ビジネス・チャンスに対する敏捷性(アジリティ)の喪失と、目に見えぬ仕掛かり在庫増、そして資金回転率の低下を意味する。

鉄骨製作のリードタイム短縮を議論していたわたし達の対策は、製鉄所への生材発注をやめて、一部をストック材販売業者から購入するべしという結論になった。無論その結果、発注コストは上昇する。いわば、「お金で時間を買う」訳である。それでも一定条件下では、時間短縮の方がコストセーブよりもプロジェクト全体としては有利になると考えられる。こう判断できたのは、むろん、部分よりも全体を見渡す立場に、エンジニアリング会社のプロジェクト・マネジメントが立っていられるからである。