オプションが多数ある製品のBOMは、どう構成すべきか (2013/12/02)

今からおよそ100年前、ヘンリー・フォードは世界で初めて自動車の量産をはじめた。それまで、自動車は富裕階級向けの特別な商品であり、ほとんどが注文生産だった。顧客は大きさや色をはじめ、様々な自分の好みをつけて注文する。メーカーはそれを受けて、個別に設計して製造する。当然ひどく高くつく。それでも買える人だけが顧客だった。ほとんど今の注文住宅のようなものである。

そのようなマーケットの常識を、フォードは完全にくつがえした。彼は黒色のT型フォードという、ただ一つの標準モデルを売ることに決め、そのための専用量産ラインを、当時としては画期的だった工程別分業体制とベルトコンベア方式によって実現した。この時に彼が言った、

 「顧客の望む色はどんな色でも売ります--それが黒色である限り」

という、有名な文句は一種の標語となった。モデルを一種類にしぼり標準化をはかることで大量見込生産を可能とし、安価な製品で大きなマーケットを獲得したのである。かくしてフォード・システムはアメリカ的経営の成功モデルとなった。

しかし、時代が下り、自動車が大衆社会におけるコモディティ商品となっていくにつれ、単一モデル販売ではもはや競争に勝つことができなくなっていった。外装の色やエンジンの排気量など、標準モデルにさまざまなバリエーションをつけることによって、次第に消費者の細かな好みに合わせる方向に、販売競争が進んでいった。その結果、インテリアの仕上げ、変速がマニュアルシフトかATか、エアバッグの装備、搭載カーナビ機器のグレードなどなど、かなりの種類のオプションを購入者が選べる状態が、現代では常識となっている。つまり、

 初期の個別受注生産 →普及期の大量見込生産 →成熟期の個別オプション生産

という風にマーケットの形(生産・販売形態)が変遷していったのである。

同じことはコンピュータ産業でも起きた。初期の汎用機は非常に高価で、注文生産だった。顧客はそれを買える大企業や国立の研究機関だけだった。しかし、やがてミニコンやオフコンといわれるクラスの普及型製品が出される。さらに「Apple II」や「IBM PC」といった、大衆向けの安価な単一モデルが消費者市場を席巻した。フォード・システムの再来である。そして今日では、多くの消費者はショップに行き、CPU速度やディスク容量・メモリ容量など、多数のオプションを選ぶようになってきている。

このようにオプションが導入されたのは、多様な消費者ニーズに柔軟に対応して、販売しやすくするためである。こうして、消費者の手元に届く商品はバラエティが増え、同じモデル名でも一つ一つが異なる別のものになってくる。こうした生産形態を、大量生産(マス・プロダクション)に対比して、マス・カスタマイゼーションと呼ぶこともある。

ところが、BOM(部品表)の観点から見ると、ここで一つの難問が生じる。BOMというのは、最終製品(英語でEnd productないしEnd itemと呼ぶ)を頂点とした、部品群からなるツリー構造になっている。一種類の最終製品に、一つのBOMが付随する、1:1の関係だ。たとえ同じモデル名でも、もし、トランスミッションの種類が違ったり、エアバッグの装備などが違ったりすれば、当然ながら部品の構成は変わるわけだから、別のBOMが必要になる。

たとえば、自動車のオプションが次のようにあったとしよう。

 ・外装の色 5色
 ・内装の種類 3種類
 ・変速方式 マニュアルまたはAT
 ・エアバッグ装備 3種類
 ・搭載カーナビ機器 4機種

すると、可能な組合せの数は5×3×2×3×4=360種類にものぼることになる。この場合、360種類ものBOMを作成し、マスタに登録して用意しなければならないのだろうか? 

それはとてもばかげた手間に思える。じゃあ、個別の注文を受けた際に、その時毎回、必要なBOMだけを登録することにしてはどうか。いうまでもなく、BOMは製造工程で必要とする部品の出荷指示の基準情報である。だから、工場倉庫からの部品在庫の払い出しは、その個別BOMに従う、とすればいいはずだ・・。

ところが、そうは問屋が卸さないのだ。BOMは材料の購買手配の基準情報でもあることを、忘れてはいけない。部品サプライヤーたちに、先々の数量を先行内示で与えるのが、自動車業界の慣習だ。このとき、すでに登録されている(つまりたまたま過去に注文のあったオプション組合せの)BOMだけで購買手配をかけたら、これまでなかった新しい組合せの注文が顧客から来ても、応えられなくなってしまうだろう。

このような矛盾をはらむ問題の解決法には、じつは定石がある。ここでの問題の根幹には、BOMが「部品購買手配の基準データ」と「製造の部品払出指示の基準データ」という二つの機能を併せ持っていて、その二つが両立しがたいことにある。こういう場合は、二つの機能を受けもつ要素を別にするのである。ちょうど、機械設計のとき、異なる機能を受けもつ部品には違う材質を用いるように。つまり、「部品購買手配の基準」であるマスタとしてのBOMと、「製造の部品払出指示の基準」としての個別BOMを、別のデータとしてシステムに持つのである。前者はマスタデータであり、後者はITの用語で言えばトランザクション・データである。

まず、前者のマスタとしてのBOMから説明しよう。こういうケースでは、BOMの親製品と子部品の間の数量関係(員数)を、整数ではなく、使用比率に応じた小数つきの値で持つ。こうしたBOMデータの形式を、「モジュラーBOM」(あるいは「縮約BOM」)と呼ぶ。モジュラー化したBOMでは、まず最上位の仮想的な最終製品として、製品ファミリーを定義する。その下に、基本モデル製品と、各オプションに対応するモジュールのサブ・アセンブリーに関するBOMを、登録する。

この際、親子関係の員数として、オプション選択の比率を使う。もしユーザが平均してマニュアルを30%、ATを70%選ぶことが過去の経験から知られていたら、製品ファミリーから変速装置への員数をそれぞれ0.3と0.7に設定するのでである。むろん、この員数は定期的に見直す。

図:オプション構成とモジュラー化されたBOM (「BOM/部品表入門」第8章より引用)

このようなBOMを定義すれば、マスタ情報のメンテナンスが楽になるばかりではなく、MRPを利用する際にも、販売予測を360種類の最終製品に対して行なうかわりに、製品ファミリーに対して1種類行なえばすむようになる。

むろん、ユーザによるオプションの選択比率は、つねに定期的に見なおしていく必要がある。とはいえ、そ比率の見直し作業は、5+3+2+3+4=17種類のモジュールに対して行なえばすむ訳である。

そして、製造の部品払出指示に対しては、受注した個別オーダーのオプションから導出されるBOMを用いる。生産管理パッケージの中には、製造指図にBOMを添付する機能を持っているものもある(わたしの記憶では、SAPの生産管理モジュールもその機能を持っていたはずである)。ここで、添付するBOMは、元のマスタデータからコピーするが、顧客の指定したオプションに従って個別に修正したものを添付する。これが、製造BOMのトランザクション・データになる。

つまり、ただ一つのBOMデータでいろいろな業務機能をまかなおうとするから問題にぶつかるのである。BOMには、最低でもマスタとトランザクションの二種類が必要である。これは、わたしが拙著BOM/部品表入門で提案したことだ。より正確に言えば、トランザクションは「これで作れ」という指示系履歴データと、「これで作りました」という実績系履歴データに分かれるべきだから、BOMは合計、3種類必要だ、というのが、わたしのかねてからの主張である。

顧客の要望する機能や仕様は多様化しており、作り手がその流れを止めることはほとんど不可能である。そこで、いろいろなオプションや付属品をご提供することによって、なんとかニーズを満たしてもらう訳である。その無数に増え続ける組合せを、パターン化するための方法が、仕様に対応する「モジュラー化」の考え方なのである。モジュラー化とは、標準的なモジュールの組合せによって、選択のバリエーションを作りだす方法で、いわば注文住宅とプレファブ住宅の違いと言ってもいい。モジュラー化設計によって、必要な部品やサブ・アセンブリーのバラエティを減らし、ある程度見込をつけて生産しておくことができるようになる。そして、BTO生産方式(「ATO」とも)に近づくことができ、注文から納品までのリードタイムを劇的に短縮できるようになる。そのような生産革新のキーが、モジュラー化BOMなのである。