設計部品表(E-BOM)と製造部品表(M-BOM)

つい先日、大手通信機器メーカの方とお話していたら、「最近ようやく、ある事業部でE-BOMとM-BOMを統合しました。大変でした。」という話題になった。E-BOMとは設計部品表(Engineering Bill of Material)、M-BOMとは製造部品表(Manufacturing Bill of Material)の略称である。前者は製品設計の部門が使っている部品表、後者は製造部門が使っている部品表だ。

製造業において、BOMは基準情報であり、いわばDNAである。製造とは、せんじ詰めれば、BOMに集約された設計情報を、実物の上に転写して成り立つ行為である。そのDNAにあたる情報が、この会社では二種類あって、それを統合するのに苦労したというのだ。

しかし、実はこの会社は例外ではない。E-BOMとM-BOMが社内で二本立てになっていて、両者には整合性どころか深い溝がある、というメーカーは多い。むしろ、意を決して2つのBOMを統合しようと決意し、それを実現できたという意味では、この会社は先進的な会社だとさえ言える。

なぜ製造業ではBOMが社内に複数種類存在していて、一元化されないのか? 考えてみれば不思議な話である。そもそも、ある製品を作る設計図はひとつではないか。設計図ができれば、それを忠実に実行するのが製造現場である。だとしたら、部品表だって唯一しか存在しないはずだ。--そう思うエンジニアは、失礼ながら少々、製造という行為を単純に見すぎている。あいにく、人間の行う設計に完全なものなど無い。設計変更はつきものだ。部品材料のストックアウトや品質不良などで、設計図どおりに作りたくても作れないこともある。製造時に代替部品を使わなければならない。

もっと困るのは、部品コードの問題である。本社の設計部門と、工場の資材部門が使用する部品のコード体系が共通化されていないケースである。さきのメーカーでは、「BOM統合の一番キーとなったのは、意味なしコードの採用でした。」と言っていた。

意味なしコードとは何か。たいていの会社は部品マスタ、あるいは品目マスタなどと呼ばれるマスタファイルを基幹情報システムに持っている。このマスタのキーが部品コードだ。そして、部品コードを採番するとき、たいていの企業は、コードをいくつかの桁や記号に区切って、それぞれに多少の意味を持たせようとする。たとえばC-B09-2147は、Cが製品ファミリの番号で、B09は部品区分、2147は連番を意味する、といった風に。

このやり方は良さそうに見えるが、じつは落とし穴がある。設計にもとづいて部品番号を使用する製品ファミリで分類すると、他の製品と部品を共通化したときにコード体系が混乱してくる。製品の分類も、業態の変化とともにしだいに変わる。さらに、購買部門にとっては、製品を基準にしたコード番号よりも、形状や素材分類や仕入先などがわかる方がありがたい。購買課が工場ごとに分散していると、それぞれの要望も異なってくる。

こうして、設計図の指定とは異なる代替部品を使うことが定常化し、設計側と購買側で別の部品コード番号を使うようになって、E-BOMとM-BOMが分離してくるのだ。こうなると、部門間の情報共有はさらに困難になってくる。設計変更は工場にうまく伝わらず、部品の代替使用を設計部は知らないと言う状態が起きてくる。

悪いのは設計部門か製造部門か? どちらでもない。両者を統合しようとする意志が欠けているのが問題なのだ。もしも意味ありコードが足かせになっているのなら、それを廃止して、単純な連番による「意味なしコード」を採用するべきだ。むろん、マスタを入替える作業に大きな労力が伴うことは間違いない。しかし、E-BOMとM-BOMがバラバラである限り、製品のたえざる改善など絵に描いた餅でしかない。

そして、困ったことに、こうした問題は、単独の部署では解決できないのだ。クロス・ファンクショナル・チームで事に当たる必要が出てくる。したがって、どうしてもマネジメントの関与が必須になってくるのである。