生産革新のためのBOM(部品表)再構築入門

生産革新のためのBOM(部品表)再構築入門 (2013/11/04)

数年前、三菱電機から依頼を受けて、「e-F@ctory」という同社のWebサイトに、BOM(部品表)に関する文章を書いた。今はそのurlはリンク切れになっており、同社のサイトを検索しても見つからない。サイトのリフォームにともない、この種の一般解説的文章は削除されたのだろう。そこで、当時の文章を、一部ブラッシュアップして、ここに再掲することにする。内容的にはとくに古くなってしまった部分も見あたらない。製造業におけるBOM(部品表)の構築と改善は、いつでも古くて新しい課題なのである。なお、ここでは分量の関係で2回に分けて掲載する。

<今、なぜBOMが問題なのか>

不況の長いトンネルを抜けて、いま日本の製造業は元気を取り戻しつつある。そして多くの企業で、この機会に生産全体のあり方を見直したい、という気運が高まっているようだ。

製造業とは、物品(マテリアル)を産出・加工し、付加価値をつけて販売するビジネスだ。その資材調達から出荷までの加工と物流の仕組み、ならびに受注から納品までの情報の流し方を総称して、「生産システム」と呼ぶ。

そしてBOM(Bill of Material=部品表)とは、その生産システムのDNAである。BOMとは、製品がどの部品資材から成り立ち、どのような手順をへて組み上げられるかを規定する、生産の基準情報だ。生命がDNAの遺伝情報をもとに細胞や体を組み立てていくように、製造業は基準情報としてのBOMにしたがって、資材から製品を組み立てていく。

ところが近年、そのBOMデータの内容に問題がある、と考える会社が増えている。数万点に及ぶBOMと部品マスタを作り直した電子機器メーカー、2年近くかけて配管材料コード体系を再構築したプラントメーカー、設計思想に立ち戻ってBOMを再構成しようと奮闘中の機械メーカー等、多大な時間と労力をかけて見直す動きが、業界を問わず進んでいる。いったい、なぜだろうか。

それは、生産のDNAであるべきBOMの情報が混乱し、社内のあちこちに、複数の相矛盾するBOMが乱立したり、あるいは基準の役を果たせずに毎回使い捨てにされたりする事象が起きているからだ。

なぜBOMが分裂するのか。皮肉なことだが、BOM情報を必要とする部門がきわめて多いからだ。BOMとマテリアル・マスタには、部品構成以外に工程や原価やリードタイムや購入先やオプションや保守履歴など、多種多様な情報が関係している。いわばBOMは企業内の情報のハブなのである(下図)。にもかかわらず、縦割り組織や分業病の影響で、社内にBOMを統一的に保守する責任部署が存在しないケースが多いのだ。

BOMが混乱してくると、新製品の投入や設計変更の実施スピードが、確実に遅くなる。そればかりか、工場の生産量を拡大したり、海外にグローバル展開をはかったりする際に、とんでもない副作用が出てくる--部品点数と部品在庫量の無秩序な増大である。工場の中はモノが有り余ったいるにもかかわらず、必要なものが見つからない、という状態になる。企業内のサプライチェーン・マネジメントが運用不能になるのだ。こうして、直接製造作業に関わらない間接工数ばかりが増えていく。結末は、原価上昇による赤字である。

<ERPパッケージはBOM問題を解決できるか>

この状態を解決するために、ERPなど基幹情報システムの導入に期待する人もいる。たいていのERPパッケージの生産管理機能は、MRP(=Material Requirement Planning)の考え方がベースになっており、その中核にはBOMマスタがあるからだ。

だが、ちょっと待ってほしい。そもそも製造現場で一度も働いたことのない若き“ERPコンサルタント”たちに、BOMの作り方や生産システムの動かし方など本当に分かるのか?
じっさい、多くのプロジェクトで、「BOMデータの作成はお客様の責任です」と言われ、導入直前の1ヶ月間で急ごしらえのBOMをばたばたと登録するだけで終わっている。

そもそもMRPは規格品見込み生産・大ロット・余裕ある標準リードタイム・豊富な機械設備などを前提とした、’70年代米国の生産思想の産物だ。個別仕様・超短納期・ぎりぎりの工場設備、そして受注/見込み生産混在の自分の会社に、どうフィットしたらよいのか?

生産管理の観点から日本とアメリカの企業を比べてみると、その違いにしばしば驚かされる。米国製造業の特徴は、抜きがたい大量見込み生産指向である。標準品・大ロット生産による生産効率をあくまで追求したがる。これに対してわが国の特徴は、小ロット・プル型を中心としたリーン生産方式であり、また顧客要求へのきめ細かな対応である。個別対応の傾向は、とくに消費財よりも生産財において明瞭だ。生産財の取引においては、産業機械であれ電子部品であれ化学素材であれ、買い手は際限ない個別仕様を要求してくるのが常である。サプライヤーはしたがって、受注生産の形態を強いられる。

そこで受注生産の業界では、ユーザが浜の真砂のごとく出してくる個別要求に応えるため、個別設計のサービス能力が決め手になる--多くの人が、そう信じている。いかにも日本得意の「すりあわせ型」文化である。しかし、個別設計を続ける限り、企業の中のBOMの数は無際限に増えていく。なぜなら、BOMというのは、一種類の最終製品につき、一つずつ必要だからだ。「あとは類推で考えてくれ」という訳にいかないのが、生産システムのDNAたるBOMの宿命だ。まして、個別設計ということは、見積や受注の時点ではBOMが確定しておらず、BOMの作成と資材発注が並行して進むということだ。従来のMRPではとても対応できない流れである。

<受注生産とBOMのあり方>

ところで、生産システム効率化のための定石は、いうまでもなく「標準化」と「平準化」にある。設計における部品構成や図面の標準化、生産における能力や負荷の平準化によってこそ、生産性の向上が計れるのだ。しかし毎回、設計図面からBOMを起こすやり方では、標準も平準も困難で、とても競争力が保てない。それでは、どうすべきか。

先進的な企業は、その答えを、モジュール化とATO生産方式に求めている。

モジュール化とは何か。それは、製品を機能単位の要素(モジュール)に分解し、その組み合わせによって仕様のバリエーションを実現する考え方である。たとえば、パソコンは筐体・マザーボード・CPU・HDD・モニタ・キーボードなどから組み立てられるが、CPUの速度、HDDの容量などの組合せにより、膨大な仕様のバリエーションが生まれる。

そこで、無限にも思える要求仕様を、比較的少数のモジュールから組立てられれば、中間部品レベルでの標準化が可能になる。これを『バリエーション・リダクション』の発想と呼ぶ。

さらに、素材部品ではなくモジュール(中間部品)の形で在庫を持っておき、注文を受けたら即座にモジュールを組立てて出荷する方式が考えられる。これなら、モジュール製造工程の平準化も可能になる。これが、ATO(Assemble
to Order)生産方式である。

すなわち、受注生産と一口に言っても、じつは下記の3種類があるのだ。

(1)設計から始まる、ETO(Engineer to Order)=個別受注生産、

(2)受注後に部品手配からはじめる、MTO(Make to Stock)=繰り返し受注生産

(3)モジュール化が前提の、ATO(Assemble to Order)=受注組立生産

さらに、これに消費財で普通行われる見込み生産が加わる

(4)需要予測にもとづき製品を作りだめする、MTS(Make to Stock)=見込生産

そして、今や少なからぬ先進的企業が、ATO生産方式を目指そうとしている。理由は、ETOやMTOでは受注リードタイムが長くなりすぎ、また標準化・平準化ができないため競争力が上がらないからだ。逆にMTSでは製品在庫のリスクが大きくなりすぎる。だから、生産財・消費財を問わず、ATOに向かう潮流があるのだ。

無論、モジュール化とATOを実現するためには、各モジュール間で組合せのインタフェースを規格化することが大事な条件である。したがって、その実現のためには、設計を根本から見直す必要があり、BOMの姿にも改革が求められるのである。(この項つづく

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